第9話 剣聖は決闘する
冒険者ギルド主催の俺とランバートの決闘は、夕方に王都の外の平原で行われることとなった。
「うわ、結構人集まってるな……」
会場に着くとそこにはかなりの数の見物客がいた。冒険者だけでなく一般の市民もいる。
「受付嬢さん、一般向けにチケットを販売するなんて言ってましたけど、こんなに集まるものなんですね……」
リディアは若干困惑気味に言った。
「くくく、人はパンとサーカスを求めるもの」
腕を組んだユーナはあの受付嬢のように笑っていた。
案外影響されやすいな、こいつ。
それにしても大盛況だ。なんか露店まで出てるし。ほとんどお祭りだな。で、客はみな期待に目を輝かせている。まったく、こっちの気も知らないで……。
リディアに「信じてる」と言ってもらえたのはそりゃうれしかったが、やっぱりこんな決闘は間違ってる。
「レオンさん、あそこで売ってる果物の盛り合わせ、美味しそうですよ。一緒に行きませんか?」
俺は少しばかりイライラしていたのだが、どういうわけかリディアは割と楽しそうだった。
「いいのか? 君だって複雑な心境だろうに」
「それはそうなんですけど、こういうの結構楽しくて。それに、レオンさんがわたしのために戦ってくれるんですから、このくらいは……ね?」
そう言ってリディアは少しはにかむような笑顔を見せた。
ドキドキした。すげードキドキした。
俺、やっぱこの娘好きだわ。
「じゃあ、お言葉に甘えようか。ユーナ、お前甘いものは大丈夫か?」
「問題なし。私はしょっぱいものと甘いものを交互にいくスタイル」
ぐっと親指を立ててユーナが言った。
それは延々と食べてしまって太るスタイルだと思うが……育ち盛りだし、多少はいいか。
というわけで、三人で色とりどりの果物の盛り合わせを売っている屋台まで行こうとしたのだが、待ったがかかった。
あの受付嬢だった。
「おっと、生憎ですが時間ですぞ、レオン殿」
「おいおい、こっちはこれからデートなんだぜ。しかもリディアからのお誘いだ。上手くすれば「あーん」とかしてもらえるかもしれないんだぞ」
俺は文句を言った。
「た、確かに誘いはしましたけど、デートだなんてそんな……それに、「あーん」とかはまだ早いですよ……」
リディアが小さな声で言うのが聞こえた。
「くくく、うれしはずかしイチャイチャタイムに割り込んでしまったことは丁重にお詫びいたしますぞ。ですが、決闘の主催者としてやることはやらねばならぬのですよ」
「……しょうがないか。ユーナ、リディア、ちょっと行ってくる」
「保護者よ、ガンバ」
「レオンさん、ごめんなさい、わたしのために……」
ユーナはいつも通りだ。ただ、俺の勝利を信じてはいてもやはり申し訳ないと思っているのか、リディアの方は力なくうつむいていた。
「君と一緒にいられるのならこのくらいはどうってことないさ。じゃ、ユーナのことは頼むぞ」
「はい! 終わったらみんなでいっしょに冒険しましょう!」
リディアはぱっと笑顔になってそう言ってくれた。
彼女が元気になってくれたのが俺はうれしかった。
それじゃあ、ちょっと勝ってくるか。
観客たちが見守るなか、俺とランバートは平原の中央で対峙した。
「ではこれより、ソロとなってからめきめきと力をつけたものの、それに比例するようにイキリ具合が増していき、気に入らないことがあればすぐ決闘を申し込む! そんなこんなでついたあだ名が『
審判役である受付嬢が宣言すると大歓声と大きな拍手が巻き起こった。それは別にいいんだが……
「ちょっと待て。いくらなんでもランバートの紹介が酷くないか。あと露骨に俺になにかあるかのような紹介の仕方するんじゃねえよ」
俺は文句を言ったのだが相手はニヤッと笑って肩をすくめた。
「ランバート殿も昔はまともな冒険者だったのですがここのところイキリ散らしていてトラブルが増えておりましてなあ、ギルドも手を焼いていたのですよ。なのでちょうどいいところにやってきたかのご高名なレオン殿に鼻っ柱をへし折ってやって欲し――おっとっと、口が滑りましたな。レオン殿はただの、ただのEランク冒険者ですものなあ……」
「お、俺には『決闘者』などというあだ名がつけられてたのか……」
「ランバート……」
そりゃことあるごとに決闘申し込むのはどうかと思うが、あだ名つけて陰口たたくのもちょっと可哀想だよなあ。
「『決闘者』……俺に相応しい、いいあだ名じゃないか!」
「お前マジか」
ランバートは結構喜んでいた。
いいのかそれで。大分バカにされてると思うぞ。
「だが、イキリ散らしてるなどと言われるのは我慢ならん! 俺は俺のやりたいようにやっているだけだ! 俺はAランク冒険者なんだぞ! 文句は言わせん!」
あだ名はうれしいらしいがイキってるとの評価は受け入れられないらしく、結局ランバートは怒りに震えていた。
その怒りはあのアホなしゃべり方の女の方に向けてほしいものだが、俺に向くんだろうな、やっぱり。
「覚悟しろ、レオン! 地べたに這いつくばらせてやる! 惚れた女の前で無様な姿をさらすがいい!」
思った通り、ランバートは血走った目で俺をにらみつけてきた。
「審判、もう始めてもいいんだよな?」
ため息をつきつつ、俺は受付嬢に聞いた。
「もちろん、構いませぬぞ」
「レオン! 悪いが俺が先手だ! 我が必殺の雷魔法を見るがいい! ライトニング――」
ランバートが俺に向かって右手を突き出しながら叫ぶ。
へー、あいつ雷属性の魔法の使い手なのか。Aランクだけあってなかなか強力なのを撃ってきそうだ。
なので、俺はあらかじめ目をつけておいた足下の石をさっと拾うと、剣聖流投石術でもって投げつけてやった。
狙いはランバートの右のすね。長弓から放たれた矢よりも速く飛ぶ石は、鈍い音とともにランバートのすねを直撃した。
「うわ、痛そう……」という小さな声が観客の中からいくつか上がった。
ランバートの顔が青くなる。やつは魔法を撃つのをやめて両手ですねを押さえてうずくまった。
「おお……あああ……。ただの石ころに、なぜこれほどの威力が……」
いまのランバートは隙だらけだった。
俺は剣聖流ダッシュで間合いを詰めると剣聖流体術の一つ、剣聖コブラツイストを極めてやった。
「ぐああああ! 極まってる! 極まってるううう!」
俺に締め上げられたランバートが苦悶の叫びを上げた。
そういえばユーナは大丈夫だろうか。仕方ないこととはいえ五歳児の前で人に暴力を振るうのには少し抵抗があった。変にショックを受けたりしてないといいんだが……。
気になったので俺はちらりと様子をうかがった。
「保護者よ! そこからさらにアイアンクローを極めて奴をオトすべき!」
「ユ、ユーナちゃん、そこまでやるのはさすがに……」
五歳児、ノリノリだった。
なんかリディアが引いてるじゃねえか。ショックを受けたりはしてないようだが、これもこれでどうなんだ……。
ユーナの将来が少しばかり心配になったがコブラツイストからのアイアンクローというのはいいアイデアだ。早速俺は剣聖コブラツイストからの剣聖アイアンクローの連携を試してみた。
「ぎゃあああああ!」
夕日に照らされる平原に、コブラツイストを極められた状態で顔面をわしづかみにされたランバートの悲鳴が響き渡った。
「ま、負けて……たまるか! ライトニングバースト!」
このまま勝てるかと思ったのだが、ランバートは反撃を繰り出してきた。
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