魔剣サルトゥリニアスの契約 Vol.1
ふと気が付くと、俺は平原に転がっていた。えーと、今まで何をどうしていたっけ? 何がどうということもないただの男子高校生であるところの俺は、夏休みの宿題を片付けてだ、気持ちよく自宅の自室で眠りについたはずだった。で、気が付いたらこれだ。ここが、少なくとも住み慣れた日本の住み慣れた自分の街のどこかではないことは、空を見上げればすぐ分かる。太陽が二つあるからだ。えーと、科学の授業で習った知識によれば、連星太陽というのはそんなに珍しいものではないのだそうだ。ただ、ここがそもそも俺の元いた宇宙と同じ宇宙の別の地点であるのかどうか、それすら定かではないわけだが。
さて、空に浮かぶ恒星のほかに、もう一つ気になるものがあった。剣、だと思う。日本刀ではない。ちょっと説明が難しいが、蒼と黒の配色をベースとしてなんとなくゴテゴテした装飾過多なデザインになっていて、ただの刃物という感じでもない。他に誰もいないから、これは俺のものだと考えてよいのだろうか。うーむ。俺は考える。そもそもこれはもしかしたら……
『異世界転移』!とか。
『異世界転生』!とか。
そういうやつではなかろうか。いやまあ別に、元の世界に未練があるわけではないし、家族仲は悪くなかったけど特別いいってほどでもないし、友達だって特に多い方ではなかったし、勉強は嫌いじゃなかったが成績は中の上くらいだったし、それでもって別に勉強したいことも特にないんだけど。
――――――――――――――――――――――――――――――――
(既出力文字数 600文字)
(ゲイズ・アナライジング トレースオン 視線分析を開始します)
「なるほど、ありきたりな異世界小説の出だしだな。ふむふむ」
(‟異世界転移”注視時間 2.37秒)
(‟異世界転生”注視時間 0.73秒)
(『魔剣サルトゥリニアスの契約』の設定を“異世界転移”とし、物語の出力を再開する)
AI LNW running...
物語を生成しています……
――――――――――――――――――――――――――――――――
自分の手を見る。自分の体を見る。顔を触ってみる。着ている服を確かめる。いつも寝る時に着ている短パンにTシャツだけ。身体はたぶん、もとの自分のままだ。気が付いた瞬間から金髪碧眼の美少年に生まれ変わっていたりなんていうことはなく、同じ場所に同じホクロもあることだし、つまり俺の肉体は日本人の17歳の少年、玄野達樹のそれそのままだった。ただ、この格好だから持ち物がほぼ何もない。軽装の自分が草原の真ん中にぽつんといて、それからえーと、なんかこのヘンテコな剣があるだけ。
『ヘンテコなどではない』
と、突然頭の中で声がしたので俺はびっくりした。
『わらわの名は魔剣サルトゥリニアス。童よ、貴様の名は何と言う』
「玄野達樹」
『クロノタツキ?』
「この世界では、姓名の表示順序はどうなるのかな……タツキが名前で、玄野家出身のタツキだよ。その理屈で分かる?」
『理解した。では早速だが、タツキよ。そなたにはわらわと契約を結んでもらわねばならぬ』
契約? 勇者になれとか、或いはそんなにレアでもない別パターンとして魔王になれとか、そういうよくあるあれ?
『そう。わらわと契約して、そなたは——』
魔剣サルトゥリニアスはそこで一旦言葉を切る。そして言った。
『わらわの所有者になってもらうぞ』
「所有者っていうのは、どういうことなんだ。要するに、この世界で冒険者になって魔剣を振るって魔物と戦ったりとかそんな感じの活動しろとか、そういうこと?」
『いや、違う。わらわが力を発揮するためのエナジーを供給せよと、そういうことじゃ。フルパワーのチャージさえ済めば、何ならすぐ帰らせてやってもよい』
「フルパワーのチャージはどうすればできるんだ」
そのとき、そのタイミングで。ぼわん、と中空に、少女の姿をした何かが現れた。頭に二本の角。褐色の肌。薄紫色の髪。なんやらレオタードのような肌に密着する服に隠されて、控えめだけど存在感がそれなりに主張されてはいる胸。下半身というか股間の部分はかなり際どい感じに切れ上がった布地によって隠されている。
「この姿のわらわと性交し、そなたが精を放てば二、三発ほどですぐフルチャージとなるぞ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
(既出力文字数 1500文字)
(ゲイズ・アナライジング トレースオン 視線分析を開始します)
「ふーん。どこまでもありがち」
(‟胸”注視時間 9.48秒)
(‟下半身というか股間の部分”注視時間 12.73秒)
(セールスアピールを開始すべきタイミングと判定します)
――――――――――――――――――――――――――――――――
レイティング指定の設定変更が可能です
プレミアム会員にご登録なさいますか
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます