第1075話 お悩み相談

 リスチャードと通算何度目になるかわからない仲直りを果たした後、アヤセが紹介してくれるヘッセリンク派の皆さんと交流を深める僕。

 顔と名前を覚えきれなかったらコマンドに協力を要請しようと思っていたけど、この集団はアヤセの厳しい選抜を受けた結果少数精鋭だ。

 無理なく全員のことを記憶に刻み込むことができた。

 ちなみに、今現在この場にいないのはNo.2のカルピと、アルテミトス侯爵の息子さんであるガストン君だ。

 前者は絶賛ここに向けて爆走中。

 後者も用事が終わり次第駆けつけてくれるらしい。

 一通りの交流と、『くれぐれも僕の知らないところで暴れるんじゃないよ?』という個別釘刺しを終え、学友達と酒を酌み交わす。


「最近はどうなんだ。忙しくしているのか?」


 そう声を掛けたのは、クリスウッド公爵家で文官として働いているブレイブ。

 妹もお世話になってるみたいだし、こっそり持ち込んだハイアルコールの酒をお礼がてらに惜しみなく注いでやる。


「離れて住んでいる父にも聞かれたことがないぞ、そんなこブフォッ!?」


 なんということでしょう。

 苦笑いしながら杯に口をつけたブレイブが突然酒を吹き出したではありませんか。

 やはり疲れているんだな。

 

【本当にそう思いますか?】


 うん。

 

「……劇薬か? いや、お前の酒の趣味を考えればこれが本当に美味いと思っているのだろうな。まあいい。とりあえず、多忙は多忙だ。リスチャードの公爵就任を控えているし、各所との調整で文官一堂寝不足という具合さ」


 ほら、やっぱり疲れてる。

 

「リスチャードのためにも、くれぐれも体調には気をつけてくれよ? そうだ。塊肉でも飲むか?」


「それを飲み物と認識しているのはあそこでこちらを見ている王城の文官達だけさ。私のような一般文官にはできない芸当だ」


 僕の差し出した塊肉を押し返しながらブレイブが首を振ると、リスチャードがそれを横取りして豪快に齧りながら笑った。


「なーにが一般文官よ。聞いてよレックス。ブレイブったら、他の家の同業から怖がられてるのよ? 『参謀』ブレイブの名前がまだ効いてるみたい」


 ああ、狂人派の参謀さんね。

 仕方ないんじゃないかな。

 レックス・ヘッセリンクに巻き込まれてたとはいえ、派閥の最高幹部だったらしいし。

 しかし、ブレイブは顔を顰めてローアルコールの酒を呷る。


「本当に納得いかない。私は友人達と比べればだいぶ穏やかなタチだというのに。名前を名乗った瞬間、全員に身構えられるとげんなりする」


 それはそれは。

 僕ですら最近は怯えられたりしないのに、やるなブレイブ。

 ニヤニヤしながらそんなマウントを取ると、参謀さんが杯を持ったまま綺麗な上段蹴りを放ってきた。

 危ねえ!!

 じゃれるならローキックじゃない?


【ローキックもかなり痛いですよ?】


 それはそうだけど今取り上げるべきはそこじゃないよコマンド。

 頭狙ってくるとか、殺意しか感じない。

 もしかして酔ってる?


「お前が主に相手をしているのは十貴院のお歴々だろう。今更レックス・ヘッセリンクに怯える理由がない方々と一般の文官を一緒にするな」


 どこまでも不満げにそう吐き捨てるブレイブに、リスチャードは大爆笑だ。

 そんな雇い主にも遠慮なく手刀を繰り出す酔っ払い文官。

 流石の身のこなしでそれを軽くいなしながら、義弟が言う。


「ま、仕方ないじゃない。あんた、頭だけじゃなくてこっちの方もいける口なんだから」


 こっちの方。

 つまり腕力関係だ。

 確かに四十路の文官とは思えない動きだった。

 ミックも苦笑しながらリスチャードの言葉を肯定するように頷いている。


「それは学生時代の話だろう。あれは成績のためにやむなく鍛えていただけであって元々得意なわけじゃない。だというのに、どいつもこいつも昔の印象を引きずっているのだから嫌になる。だいたい。文官に筋肉や殴り合いの技術など必要ないんだ」


 はいブレイブ君。

 今いいこと言った!

 文官のマッチョ化。

 これは、近年ヘッセリンク伯爵家が抱える問題の一つと言っていいだろう。


「ブレイブ。近いうちにぜひオーレナングに来てくれ。我が家の若手達に、その話を聞かせてやってほしい。困っているんだ。細くて可愛かった若者達が、気付いたら一人残らず分厚くなっていてな」


「ああ……あんたのところはねえ。ゲルマニス公の弟ちゃんもいつの間にか一回り大きくなってたし」


 もはや呪いかな? って思うよね。

 我が家の朝の風物詩といえば、言わずもがなユミカの素振りだ。

 庭に響き渡る天使の気合いは癒されることこの上ない。

 そして、最近はそれと対をなす昼の風物詩といえる風景も存在する。

 それが、エリクス、デミケル、オライー、ザロッタ、ヴァイス君という非戦闘員系若手男子達によるお昼休み筋トレ。

 みんな、昼休みの意味わかってる? 

 

「オライーだけじゃない。教会から預かっているヴァイスもだ。デミケルのやつは元から文官離れした体格だったが、なんと言ってもエリクスのやつがな……。この現象に名前をつけるなら、筋肉の連鎖、だろうか」


 もしくは筋肉の呪い。

 カースオブマッスル。


「筋肉の連鎖か。俺視点では非常に好ましい現象だが」


 そう言ったミックは、多分本気で言ってるんだろう。

 なんたって、彼の実家はカナリア、ベルギニアに並ぶレプミア三大武闘派貴族だから。

 その顔には、筋肉大歓迎と書いてあった。

 

「体を鍛えるなとは言わない。ただ、我が家の若手のそれは行き過ぎていると言っているんだ。服の大きさが変わる理由が、背が伸びたとか太ったとかじゃなく、筋肉がついたからだぞ?」


「ますます好ましい。おいレックス。その連中、一度サウスフィールドに派遣してみてくれ。面白いことになりそうだ」


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