第1041話 お疲れ様

 ドラゾンに乗って上空からオドルスキ対ラミウ君を観戦していると、なんと蜥蜴モードから二段階めの変身をみせるではないですか。

 この時点で僕に与えられた選択肢は二つ。

 手を出すか、それとも静観か。

 オドルスキとジャンジャックの間で家来衆筆頭の座をかけた競争だと考えれば静観一択なんだけど、ラミウ君は極めてアレとはいえ神様。

 とんでもなくパワーアップしちゃう可能性は否定できないし、なんといってもユミカもいる。

 何か起きてからでは遅い。

 そう判断した結果のウインドアローによる援護射撃は、一本も外れることなくラミウ君の四肢に命中した。

 僕ったら最早狩人だねコマンド。

 そんな呼びかけになぜか無言を貫くコマンドとはのちほど話し合おうと決めつつ、オドルスキがあっさりラミウ君の首を落としたのを確認したところで地上に降りる。


「やあ、オドルスキ、ユミカ。魔法の神討伐ご苦労」


「お兄様!?」


「……はあ」


 突然現れた僕に目を丸くするユミカと、とんでもなく深いため息をつくオドルスキのコントラストよ。

 

「お館様。色々、それはもう色々と伺いたいことはあるのですが、まずはそのお召し物。どういった趣向で?」


 ん?

 何か変かな?


【ところどころ焼け焦げて、もはやボロ雑巾をまとっていると言っても過言ではないかと】


 ああ、そのことね。

 いや、シンプルに火柱立てまくってるグランパのとこに顔出して上空からちょっかい出したら、孫に撃っちゃいけない威力の火魔法で追い払われただけだよ。

 いや、あやうく本体まで燃えるとこだったよね。


「気にするな。そしてアリスには内緒で頼む」


 深々と頭を下げる僕に、オドルスキは苦い顔で、ユミカは元気一杯にアリスには言わないと約束してくれた。

 どうやら命は繋がったようだが、それはそれとして。


「これはこれは。随分男前が上がっているじゃないか魔法の神ラミウ。少し前の蜥蜴頭よりよほど素敵だ」


 特に頭から生えた二本の角が僕の中の男の子を刺激してやまない。

 角って、ロマンだ。


「レックス・ヘッセリンクうううう!!! 不敬いいいいぐむっ!?」


「僕の名前を覚えてくれたことは嬉しく思うが、不敬だ不快だというのは聞き飽きた。少し静かにしておけ」


 首だけの状態で相変わらず元気に絶叫しようとするものだから、ボロ雑巾一歩手前になった服を脱いで口に押し込んで黙らせておく。

 さて、話したいこと、話しておくべきことはいくつかあるけど、最優先事項からいこうか。


「オドルスキ、一つ聞きたい」


「なんなりと」


 僕の真剣さを感じ取ったのか、オドルスキが居住まいを正す。

 

「あの胴体、食えると思うか?」


 竜種だから美味しい可能性は高い。

 高いんだけど、ねえ?

 ジャッジを託されたオドルスキは、なぜか再び深い深いため息をついたうえで疲れを滲ませながら言った。


「……食えるかどうかで言えば、可能かと。しかし、心情的には口にしたくはありませんな」


 まあそうなるよね。

 仕方ないか。


「では、さっさと処分してしまおう。来い、マジュラス」


 僕が名前を呼ぶと、黒い靄の中からショタ霊王様が軽い身のこなしで飛び出してきた。


「マジュラスちゃんだ!」


 弟分の登場に大喜びで飛びついていくユミカ。

 マジュラスも、頬を緩めながらがっちりと抱き止める。


「おお、おお。よく頑張ったのじゃユミカお姉様。見ておったぞ? 素晴らしい踏み込みじゃった。まったく。どこかの神も空気を読んで派手に弾け飛んで見せればよかったものを」


 首だけになったラミウ君を睨みつけながら、とんでもないことを口にするシスコン霊王。

 

「無茶を言うなマジュラス。そんな演技をされてもユミカは喜ばないだろう」


「まあ、それもそうじゃな。それで? 何用じゃ主よ」


「すまないが、あの竜種もどきの胴体の処理を頼む。あちらで暴れている脱獄犯に焼却を依頼してもいいのだが、見返りを求められたら敵わないからな」


 グランパならまず間違いなく一発で灰に変えてくれるだろうけど、タダより高いものはないっていうからね。


「承知。神の体の一部を染める機会に恵まれるとは思いもせなんだが、胴体の持ち主がすごい目で睨んでおるし、さっさとやってしまおうかのう」


「任せた」


 ユミカにいいところを見せようとウキウキしながら瘴気を漏らすマジュラスに魔力を注ぎつつ、オドルスキに声を掛ける。


「それで、だ。魔法の神の首狩り合戦は、お前の勝ちということでいいのかな? オドルスキ」


 勝利条件がラミウ君の首を落とすことだからそれ以外の結論はないんだけど、念のためにそう尋ねるとそれはそれは渋い顔で僕を見てくるオドルスキ。

 やだ怖い。


「正直に言いますと、ここまであっさりと神の首を落とせたのは、どこかの魔法使い様の多大なる支援があってこそでございます。それを考えると、両手を挙げて家来衆筆頭だとは申し上げづらい」


 どこの魔法使いだろうねそれは。

 きっと常識的で穏やかな愛妻家なんだろう。


「別にいいのではないか? 変身せざるを得ないほど追い詰めたのはお前だし、その名も知らない魔法使いの果たした役割など微々たるものでしかないはずだ」


 なんたってウインドアロー四発だけだからね。


「帰ったら、胸を張って家来衆筆頭を名乗ればいい」


「できませぬ。ジャンジャック様や同僚達に顛末を報告する必要があるでしょう。ここは一旦、保留でお願いしたく」


「まったく、この頑固者め」




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