第1035話 命令 ※主人公視点外

「お義父様! 頑張って!!」


 私が力の限りそう叫ぶと、魔法の神様の背中を大剣で叩いて吹き飛ばしたお義父様が驚いたような顔でこっちを見た。

 

「ユミカ、なぜここに? せ、先々代様まで!?」


 お義父様が先々代様もいるのに気づいてさっきより大きな声を出したんだけど、それよりもっともっと大きな声を出したのは魔法の神様。

 吹き飛ばされたところから体勢を素早く立て直してお義父様に向かって飛びかかろうとしていたのに、先々代様が笑顔で手を振った瞬間、悲鳴を上げる。


「ひいいいい!?」


 そのまま、森の向こうに走っていっちゃったの。

 呆然とするお義父様。

 私も、まさか逃げ出すとは思わなかったから何もできず見送るしかなかった。

 

「おやおや。人の顔を見て悲鳴を上げるとは失礼極まりない神ですね。まあ、生前も含めてこれまで聞いた悲鳴のなかでも最も綺麗な悲鳴だったので許しましょう」


 私達親子とは対照的に、先々代様はそう言いながら笑っていた。

 お兄様がここにいたらおんなじことを言うかもしれない。

 そんなことを考えていると、お義父様が大剣を肩に担いで私の方に歩いてくる。

 よかった。

 大きな怪我はないみたい。


「……ユミカ。お前にはお館様から課された役割があったはず。それを放棄してこんなところまでやってくるとは何事だ」


 お義父様が厳しい顔で私を窘める。

 これは絶対に言われると思っていたので素直に謝ろうとすると、先々代様がお義父様に向けて炎を飛ばしながら言った。


「私が強引に連れてきたのですよオドルスキ君。もちろん孫の許可も得ていますからご心配なく」


 炎を大剣で叩き潰しながら、お義父様が先々代様に向かって首を傾げる。


「なぜそのようなことを」


「私の事情で言うなら、魔獣の討伐に飽きたからですね。大魔猿やドラゴンゾンビなど脅威度の高い魔獣が出てきて楽しめると思ったのですが、数が少な過ぎた。あれでは興醒めというものです」


 本当に、心からつまらなさそうに言う先々代様。

 お義父様は、大魔猿!? ドラゴンゾンビ!? って驚いてるけど、大したことじゃないっていうように首を振る。


「孫の召喚獣を想像しているのでしょうが、所詮野生です。ゴリ丸君やドラゾン君とは格が違いますからまったく問題ありません」


 そうは言うけど、やっぱり脅威度Aは脅威度Aだったよ。

 すごく怖かった。

 そんな怖い魔獣を、瞬きするくらいの時間で燃やし尽くした先々代様はもっと怖くて、とてもかっこよかった。


「それと、ユミカ君の事情でいえば過保護に脅威度Dあたりの魔獣をちまちま討伐させるくらいなら、君と神の殴り合いを見せた方が成長するだろうと思いましてね。ここまで走らせるついでに脅威度CやBあたりとも戦ってもらいましたので、経験値という点では安全地帯にいるのとは比べものにならないでしょう」


 ここまで走ってくる間にずっと考えてたのは、護衛ってなんだろうってことだった。

 もちろん危なくなったら助けてくれたけど、ここに辿り着くまでに何度も死んじゃうんじゃないかと思ったよ。

 私の顔色でお義父様も何があったか察したみたいで、怖い顔をして先々代様に詰め寄る。


「娘に、無茶を強いるのはご遠慮願えますか先々代様」


「先程ジャンジャックとも話しましたが、過保護なのは感心しませんよ? この子のためを思うなら、厳しい環境に放り込みなさい。ぬるま湯に浸かることを覚えては、ヘッセリンクには近づけないのだから」


 私がなりたいもの。

 それは、ヘッセリンクじゃないヘッセリンク。

 他にもなりたいものはあるけど、今はそれどころじゃないからいいの。

 とにかく、ヘッセリンク伯爵家に恩返しをするためにも、立派なヘッセリンクの家来衆になりたい。

 そのためには、今のままじゃ駄目だと先々代様は言う。

 お義父様もお爺様も反論しないっていうことは、先々代様が言ってることはきっと間違ってないんだね。

 帰ったら、エリクス兄様に聞いてみなきゃ。


「さて、お説教はこのくらいにしましょう。ユミカ君。レックスから伝言を預かっていますよね?」


 あ、そうだった。

 忘れるところだったよ。


「お館様から?」


「うん。えっと。『魔獣の討伐にもそろそろ飽きた。急がないと僕が魔法の神の首を落としにいくぞ』だって」


 私がそう伝えると、お義父様がすごく苦い顔で天を仰いだ。


「なぜヘッセリンクの方々はすぐに飽きてしまうのか。神に敵として認定されるという未曾有の危機だというのに」


「あと。本気だって言ってた。多分、もうすぐお兄様もここまで走ってくると思う」


 だって、そんなお兄様を止めようとするの、メアリお姉様しかいないもん。

 多分、エイミー姉様も一緒に来ると思う。

 ずっと仲良しな二人が、私は大好きだ。


「いよいよまずいな。先々代様、ジャンジャック様。私は逃げた魔法の神を追います。ユミカをお願いしてもよろしいでしょうか」


 お義父様がそう言うけど、先々代様は呆れたような顔でまた首を横に振る。


「過保護はやめなさいと言ったでしょう? なんのためにこの子を連れてきたと思っているのですか」


 そこで一旦言葉を切ると、私とお義父様を交互に見ながら言った。


「オドルスキ君。ユミカ君を連れて魔法の神を追い、その首を落として戻ってきなさい。これは、先々代ヘッセリンク伯爵としての命令です」


 先々代様は、炎を纏ってない。

 でも、お義父様も私も、気付いたら揃って片膝をついて頭を下げてた。


「よろしい。では、ジャンジャック。君はさっさとその拘束を解きなさい。どうせ君も飽きていたのでしょう? 私と殴り合いと洒落込もうじゃありませんか」

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