第629話 乱入
歴代ヘッセリンク全員の親が揃っている部屋の中をぐるりと見回した初代様が、なんとも言い難い表情を浮かべて首を振る。
「まあ、属性の名前云々は置いておこうか。どうでもいい話だからね」
親の顔発言は、どう足掻いても行き着く先が自分だと気付いたらしい。
そうだ、属性の名前がどうでもいいのはそのとおりだけど、これだけは伝えておかないと。
「余談ですが、僕は一部家来衆から愛属性の使い手と呼ばれています」
「驚いたよ。本当に余談だ」
「だからそう申し上げたでしょう?」
よし、言うべきことは言った。
改めてみんなに魔力を送り込んで四方と頭上に包囲網を形成すると、初代様はなぜか顔を片手で覆い、あー、嫌だ嫌だと呟く。
「まったく気が抜ける。私がこの状態になったら他の子達は大体目の色を変えて首を狙いにくるものなのに。そんなに淡白でどうするんだい?」
身内に首を狙われてるらしいやべえ始祖に、なぜ呆れられなければならないのか。
「私が淡白なのではなく、歴代の皆さんの血が濃すぎるのがいけないのだと思いますが。せっかく一族が揃っているのです。手を取り合って過ごすことはできないのでしょうか。争いなんて、悲しすぎるでしょう!」
悲しげに目を伏せ、みんなで仲良くしませんか! と投げかけると同時に、ゴリ丸には初代様の首を狙うよう指示を出してみた。
「ちっ!! ここまではっきり言ってることとやってることが違うのも珍しい!!」
完璧なタイミングのラリアットだったけど、すんでのところで躱されてしまう。
ナイスチャレンジ、ゴリ丸!
次は当たるよ!
「しかし、よくお気づきになりましたね?」
「その子だけやけに大人しくさせてると思って警戒していたからねえ! ドラゾン君を小さくしないのもそちらに目を向かせるためかなあ?」
「マジュラス!!」
苛立たしげに僕に向かって放たれた一発の黄金の弾丸。
速さもサイズもこれまでと変わらないそれを、危なげなく瘴気で覆い尽くす。
ことはできなかった。
「おお!? これは、ちと、厳しいのう!!」
金色はマジュラスの展開した漆黒を強引に食い破り、勢いを増して僕に襲いかかってきた。
マジュラスの守備が破られた!?
これはまずい!
「風よ!!」
魔力を総動員して目の前に風の防壁を築くと、黒を食い破った黄金と濃緑の壁がしばらくお互いを削り合う。
「主!」
「心配ない! お前達は初代様の動きを警戒しろ!」
マジュラスの呼び掛けに叫びを返しつつ、気合いと共に壁に一気に魔力を流し込むことで、下品な黄金を抑え込むことに成功した。
「おや? せっかくマジュラス君を抜くために強度を上げたのに、えらく分厚い壁を持ってるじゃないか」
本当に今ので決めるつもりだったらしい初代様が、感心したようにパチパチと拍手を贈ってくれる。
「まだ手の内を隠しているなんて。本当に性格が良くていらっしゃる」
「自慢じゃないが、生前から人の良さには定評があるからね」
僕の皮肉を敢えて否定せず受け入れた初代様。
人の良さに定評?
なるほどなるほど。
こちらを見ている数人のご先祖様達に順番にアイコンタクトを送ると、見事に全員が首を横に振ってくれました。
「まあ、これが実際の評価です」
「年長者を敬えない子孫を一人ずつ締め上げることに今決めたよ。手始めに、レックスからいこうか!」
怒ってるじゃないですかやだー。
そういうとこですよ?
これだからヘッセリンクは! って言われるのは。
「奇遇ですね。僕もワガママで偏屈なご先祖様を本気でしばこうと心に決めたところです」
僕の応答を受け、初代様を覆う黄金がさらに濃さを増す。
「だいぶ強度を上げたから、当たらないよう全力で回避しなさい。ああ、出し惜しみなんてしたら、レックスも地下の一員に加わることになるから気をつけて」
これが初代様の本気、なのかわからないけど、その口ぶりからこれまでとレベルが違うのは理解できた。
「まだまだ妻との時間を楽しみたいので、死ぬわけにはまいりません。お言葉に甘えてこちらは全力でいきます。ドラゾン!!」
巨大なまま待機させていたドラゾンの魔力を圧縮して二メートルくらいまでサイズダウンさせると、一吠えしたあと定位置だと言わんばかりにゴリ丸の横に並ぶ。
うん、ゴリ丸とドラゾンが並ぶと安心感が違うね。
心なしか他の子達も嬉しそうだ。
「ああ。やっぱり小さくできるんだね。これは壮観だ。さて、もうできることはないね? 全力の子孫を叩いてこそ、初代ヘッセリンクの面目躍如というものだ!」
台詞がどこかの魔王なんだよなあ。
あれ、そもそもなんで僕この人と殴り合ってるんだっけ?
【ヘッセリンク最強決定戦の一環です】
そうだった。
興味なさすぎて忘れてたよ。
「つまりその初代様を叩きのめせば、僕が歴代最強ということですね?」
興味はないけど当代ヘッセリンク伯爵としては煽り合いを放棄するわけにもいかないので、ベーシックなアンサーを返しておく。
「ふふっ。まあ、そういうことにぃっ!?」
あとワンラリーくらいしたら開戦かな? と思っていたら、殺意の高さが色に反映されたような紅蓮の炎が、初代様の顔面目掛けて襲いかかった。
犯人?
もちろん一人しかいない。
「聞き捨てなりませんねえ、初代様。その最強を決めるためにわざわざ殴り合っているのをお忘れですか?」
初代様はグランパの攻撃が予想外だったのか、今日一番の不細工な動きで地面を転がって回避したあと、その体勢のまま激しく抗議する。
「プラティ! 乱入は野暮じゃないかな? 最初に一対一と決めたじゃないかあっ!? ジダ!? うおっ、ソクラスまで!?」
グランパの乱入をきっかけにして飛び込んできたのは、どこかでやり合ってたはずの毒蜘蛛さんと剣王さん。
それぞれ蹴りと長剣で躊躇いなく初代様の首を狙うも、紙一重のところで目的は達成できない。
お二人ともナイストライ!
「いや、その状態のあんたとやれる機会、めったにねえだろうが。でかしたぞ坊主。お前ともあとで遊んでやるから、俺と代わってくれや」
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