第626話 親の顔
狭い空間を埋めるように浮かんだドラゾンが、その巨大かつ硬質な尾で初代様を狙う。
ウェイトの差だけを考えれば全くお話にならない両者の勝負。
当たれば一発KOも夢じゃないその攻撃はしかし、初代様が黄金の残像を残しながら猛スピードで間合いから離脱したことで空振りに終わる。
「そう簡単に首はあげられないが、そうだね。まずは初めましての挨拶がてらこの子を墜とすとしようか!」
そう言って笑うと、オーラから金色の槍を形作り、無造作に投擲するペレドナさん。
ドラゾンはまだサイズダウンしていないうえに、この地下に自由に飛び回れる空間もないので、高速で飛来する槍の回避は困難。
「させぬよ、初代殿」
だからといって当たるかといえばそんなことはない。
脅威度Sの亡霊王様が素早く展開した瘴気の幕が、ドラゾンを襲った黄金を全て食い尽くす。
「へえ。マジュラス君は脅威度が最も高いんだろう? その彼を攻撃に回さず、防御に専念させるつもりなのか。思ったよりも消極的だね、レックス」
「いやいや。元々我の得意分野は守備と拘束じゃ。その目に優しくない金色、我が全て塗り潰してやろうぞ!」
ディフェンスとデバフが得意です! と宣言しつつ、広げた幕を無数の棘に変化させて撃ち込むマジュラス。
「言ってることとやってることが違うようだね!」
防御が得意なだけで攻撃が苦手なんて言ってません。
攻防両面での活躍が期待できる万能型。
それがうちの亡霊王様だ。
「早々に沈むがよい!!」
「いいね! 普段の子供に擬態した君よりよっぽど魔獣らしくて素敵じゃないか」
先ほどマジュラスが黒い幕を敷いたように、黄金の壁を築いて全ての漆黒を飲み込んだ初代様が称賛の言葉を口にする。
その際、召喚獣のみんなに視線を走らせたところをみると油断はないらしいが、おやおやいけませんね。
僕は無視ですか?
ヤキモチ妬いちゃいますね。
ということでちくちくとウインドアローを放っておく。
「おっと! なんだ、ビックリするじゃないかレックス。悪戯はよしてほしいな」
黄金を纏った素手を無造作に振っただけで緑色の矢を掻き消した初代様が、ようやくこちらを見る。
今のアクション一つとっても、魔法使いとしての格がわかるというものだ。
「悪戯? まさかまさか。ただの嫌がらせですよ」
「当たればちゃんと痛いと感じる程度には魔力を込めているところが悪質だよ。まったく可愛げのない」
可愛げがないなんてまさか、そんな。
「可愛げなんて妻の前だけで出せばいいと思いませんか?」
そんなライトな会話で初代様の意識が僕に向いた隙をついて、前からはサーベルを掲げたミケが、後ろと左右からは狼組が襲い掛かる。
速さを活かして一斉に殺到した四頭。
グランパならその身体能力を以って接触前に離脱できるだろうけど、この人にその動きは不可能。
だったはずなのに、前後左右がダメなら上に逃げればいいじゃないとばかりに高く跳んで離脱してみせる初代様。
それならばとジャンプ直後で身動きが取れない瞬間をドラゾンが再び尻尾で狙うものの、狂人一号はそれすらわかっていたとばかりにその身を翻して華麗に回避し、召喚獣達の間合い外に着地した。
「初代様。その黄金、属性魔法だけでなく、身体強化まで含んでいるのですか?」
初代様は凄腕のアルティメット魔法使いという印象が強過ぎて、それを使える可能性が頭からすっぽり抜け落ちていた。
アルティメットなんだから身体強化を使えても不思議じゃない。
思い込みってよくないよね。
「正解だよ。よくわかったね。あまりそういう理論的なことに興味がなさそうなのに驚いた」
「それはそうでしょう。ミケ、ミドリ、メゾ、タンキーという速さ自慢の面々を相手に逃げおおせるなんて、普通では考えられませんから」
素の運動能力で僕と大差ないはずの初代様をワンニャンチームで捉えられないなんて、タネも仕掛けもあるに決まっている。
身体強化、いいなあ。
僕も真面目に取り組んでみようかなあ。
パパンにお願いしてみるか、と部屋の隅で寛いで見学している父親に視線を向けると、集中しろとばかりに顎をしゃくられた。
やだ冷たい。
「とりあえず、全ての魔法を混ぜ込んだ結果、謎属性の魔法使いになっていらっしゃることは理解しました」
僕の乱暴な結論を聞いた初代様が、謎属性はひどいなと肩を揺らしながら笑う。
「ここにいるみんなが知っていることだから教えておくけど、この色になったら属性だなんだはもう関係なくなるんだ。謎属性は避けて名前をつけるとしたら、そうだな。ヘッセリンク属性というのはどうだろう」
長い、やり直し。
【異議なし】
意見が合ったコマンドと脳内でガッチリ握手しつつ、思い浮かんだ別案を披露する。
「むしろ狂属性ですね。狂った黄金とは、まさに我が家を示すに相応しい色だと思いますし、それを背負うのが初代様というのがまたなんとも」
始まりの狂人様に相応しいとは思いませんか?
言外に含んで笑みを浮かべると、初代様が思い切り顔を顰めた。
「悪い笑い方をするものだ。ヘッセリンク伯爵たるもの、常に品を保たなければ。まったく、親の顔が見てみたいものだね」
「あちらにいますのでお好きなだけどうぞ」
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