第624話 黄金

 僕の号令を受けて、四腕双頭の魔獣、大魔猿のゴリ丸が初代様に踊り掛かる。

 普段からサイズの割には素早い動きが特徴で、見た目の印象からは想像できないほどシャープな身のこなしを見せる僕の筆頭召喚獣。

 そのゴリ丸を人間サイズに圧縮したらどうなるか。

 答えは、ヘッセリンク最強の一角を占める初代様を相手に、互角以上の戦いを繰り広げることが可能になる、だ。

 初代様はグランパと比べれば身体能力に劣ると言わざるを得ない。

 機動力でいえばグランパやひいおじいちゃんはもとより、パパンよりも下だろう。

 そんな初代様が僕、パパン、グランパの三人を同時に相手取ってワンサイドゲームにならないどころか、むしろこちらが押し込まれてしまう理由は、得手不得手なく火水風土と全ての属性を駆使するアルティメット魔法使いっぷりにある。

 もちろん器用貧乏なんて話ではない。

 全ての属性で熟練者並の出力を実現する正真正銘の化け物。

 それが始まりの狂人、ペレドナ・ヘッセリンクだ。

 あと、何魔法なのかわからないけどテレポート的な挙動も厄介で、捉えたと思ったときには既にそこにはいない、なんてことも多々あるから困ってしまう。


「実に厄介だね。頭は極めて理性的なのに体はすこぶる野生的とは」


 そんな初代様の顔を僅かにでも歪めることに成功したことは快挙だと言ってもいい。

 それだけサイズダウンしたゴリ丸の動きは際立っていた。

 特に目を引くのが、走る、跳ぶ、止まる、旋回するなど、基本動作のスムーズさだ。

 一つ一つの動きに無駄がなく、その無駄のなさが速さに繋がり、徐々に初代様の余裕を奪っていく。

 いまだにクリーンヒットはないものの、それも時間の問題かと思えるほどの動きを見せてくれた。


「ヘッセリンクなら頭の中まで野生でいた方がいいと思うよ? ゴリ丸君」


 慌てることなくテレポートの出現際を狙い撃ちするという冷静な対応を見せるゴリ丸に、心から辟易したように声をかける初代様。

 普段のゴリマッチョフォームなら威圧の咆哮の一つも上げるところだけど、細マッチョゴリ丸は隙を見せまいと油断なく身構えるだけ。

 

「なるほど。ここまで分析しようと頑張ってみたけど、さっぱりわからないね。主の感性がここまで召喚獣に響くなんて、面白い」


「面白いと感じていらっしゃるということは、まだまだ余裕ということですか」


 僕の質問に初代様がニヤリと笑う。

 と、同時に魔力の練り上げが始まった。

 ニューゴリ丸を投入してようやくチュートリアルが終わったらしい。


「余裕だなんてまさかまさか。とっくに遊び感覚ではないね。流石はプラティの孫でジーカスの息子だ。褒めてあげよう」


 拍手を送りつつ周りに火魔法でできた花丸を無数に浮かべる初代様。

 もちろんこれが飾りなわけがなく、手振りに従って一斉に僕に向けて殺到してきた。

 褒め殺しとはこのことだね!


【言ってる場合ですか】


 ですよね。


「マジュラス!!」


 亡霊王様を喚び出し、その瘴気で花丸の群れを黒く塗り潰す。

 

「相変わらず不器用な家族愛を繰り広げておるのう」


「器用で素直なら、狂人なんて二つ名はつかないだろう?」


「違いないのじゃ」

 

「おやおや。ゴリ丸君だけでも厄介なのに、マジュラス君も出てきちゃったか。これはまずいなあ」

 

 まったくまずそうに聞こえない軽い口調の初代様。

 魔力を練り上げる気配が止んだところをみると、ここから第二ステージが始まるらしい。


「まずいと言うわりには笑顔が絶えませんね。もっと派手に顔を歪めて達成感を味合わせてくださいませんか?」


「そこまで甘やかすつもりはないさ。むしろ期待を上回ってくれたお礼にここからは本気で相手をしてあげるつもりだよ」


 そう宣言した初代様の体が、濃密な魔力に包まれる。

 グランパでいう真っ赤な炎を纏う、みたいなことなんだろうけど、全属性に明るい初代様のそれはまさかの黄金。

 四属性のイメージカラー混ぜたってそうはならないだろうとツッコミたいけど場の雰囲気はそれどころじゃない。

 チュートリアルの次が早速ラストステージなことある?

 

「この姿を見せるのは初めてかな?」


「そうですね。心からお目にかかりたくなかったというのが本音ですが」


 本気のご先祖様とか本当に勘弁してください。

 身内で争うなんておかしいよ!


「そう冷たいことを言わないでおくれよレックス。この姿を見せるのは、私が君を認めたという証拠なんだから。さ、改めて殴り合おうか当代よ」


【ヘッセリンクからは逃げられない。OK?】


 OK。


「かくなるうえはやむなし。私も本気で参りましょう。ご安心ください。初代様亡き後は、二代目様に音頭を取っていただきますので」


「あっはっは! 素敵な冗談だ! いいだろう、お互い本気でぶつかり合おう!」


 ヘッセリンクジョークを初代様にブッ刺した勢いそのままに、温存していたみんなを喚び出す。


「おいで、ミケ! ミドリ!」


 ワンニャンコンビが着地と同時に散開し、ミドリから分かれたメゾとタンキーもそれに続く。

 これで六体。

 そして、最後に残ったもう一体はゴリ丸同様ここでは初お披露目となる。

 

「出ろ、ドラゾン!!」


 地下空間に現れた巨大な純白が、待たせ過ぎだと言わんばかりに空気を震わすような咆哮を上げ、黄金を纏う初代様を睨む。


「実に美しい造形だ。アンデッドとは思えないね」


「可愛い家族をお褒めいただけたこと嬉しく思います。さあ、これが僕の全てです。初代様、その首頂戴いたします」

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