第144話 ヤバい組織の一員
現在、エイミーちゃん、フリーマ、フィルミー、アデル、メアリという布陣で国都に向かっている。
「ここでご出産は難しいと思いますが、カニルーニャに戻られるのでしょうか?」
祝福ムードのなか、アデルから投げかけられたこのもっともすぎる質問。
すぐにエイミーちゃんやフリーマと話し合った結果、国都のヘッセリンク伯爵家で出産すると決まった。
オーレナングでの出産の可能性も探ってはみたけど、フリーマには国都で医者としての仕事があるので、ここに留め置くわけにはいかない。
かと言って、医者のいない場所に妊婦を置いておくなんて危険なこともしたくない。
アデルにも相当なプレッシャーがかかるだろうし、なんなら彼女は産婆じゃなくて乳母だから畑が違う。
だったらやっぱり実家に帰ったほうがいいんじゃないかという結論に落ち着きかけたけど、エイミーちゃん自身が、母上の住む国都の屋敷を希望した。
「本当にカニルーニャではなくヘッセリンク家の屋敷でいいのか? 気を使わなくてもいい。今なら行き先を変えることもできるが」
里帰り出産(旦那の実家)なんて、ストレスが凄そうだ。
僕が彼女の立場なら絶対に遠慮したい。
出発するまで何度もカニルーニャに戻る事を勧めたものの、その度に笑いながら首を振られてしまった。
「いいのです。私はヘッセリンクに嫁いだ身ですし、カニルーニャ領はオーレナングから遠すぎますから。国都のお屋敷ならフリーマ先生の治療院も目と鼻の先と聞きました。なにより、お義母様と過ごすいい機会にもなります」
そうまで言われてしまっては、妻の心遣いに感謝するしかないわけで。
せめて屋敷で不自由がないよう、アデルにはエイミーちゃん付を命じ、出産まで国都で生活してもらうようお願いしている。
国都には、アデルやクーデルが我が家に雇用されるまで行動を共にしていた元闇蛇の構成員達もいるから、二つ返事で承諾してくれた。
「本当は護衛としてクーデルも国都に配置しておきたかったところだが」
「クーデルまで国都に置いては魔獣の討伐が滞ってしまいます。何度も話し合って決めた事ですよ?」
「それはそうなのだが」
確かに何回も話し合ったけど。
氾濫騒ぎの時にも感じたんだけど、国都の屋敷は戦力面で不安が残る。
信頼できる家来衆を国都に常駐させるほどの人的余裕がないことは今後解決しないといけない課題だな。
「カニルーニャからも精鋭を国都に常駐させると連絡が届きました。滅多なことは起きません」
カニルーニャ伯爵からは僕宛にも同様の手紙が届いていた。
お義父さんは我が家の内情をご存知だから、人手が足りないと察して手を貸してくださるそうだ。
本当にありがたい。
手紙には、初孫が生まれたらすぐに国都で会おうと書いてあった。
さらにはヘッセリンク派という非合法組織についても詳しく教えるように、とも。
気が重い。
「わかったわかった。ただ、可愛いエイミーのことだからな。慎重に慎重を重ねた警備を敷きたいと思ったんだ」
僕とエイミーちゃんのやりとりを見たフリーマは笑顔だ。
彼女からすれば、よその夫婦のイチャイチャを至近距離で見せられた形になるが、好意的に受け取ってくれたらしい。
「本当に仲がよろしいのですね。貴族様のお屋敷に治療でお邪魔することはありますが、そのように寄り添っていらっしゃるご夫婦は存じ上げません」
お医者さんの言葉に、アデルが深く頷いた。
ちなみに馬車に乗っているのは僕、エイミーちゃん、アデル、フリーマ。
フィルミーとメアリは馬に乗り、警戒しながら駆けている。
「私達も初めは驚きました。伯爵様の噂というのはどれも人とは思えないような、口に出すのも恐ろしいようなものが多いでしょう? でも、実際の伯爵様は奥様はもちろん、私のような新参者にも愛情をもって接してくださる素晴らしい方なんです」
あまり表には出さないけど、元闇蛇の構成員達の僕に対する忠誠度は高い。
寝食を忘れて働こうとするらしい国都の屋敷にいるメンバーは僕への恐怖が背景にあるみたいだけど、クーデル、アデル、ビーダーは為人を見たうえで忠誠を誓ってくれているようだ。
単純に嬉しい。
「ええ。ご懐妊の報告を聞いた家来衆の皆さんの反応を見たらわかります。様々な経験を経て、酸いも甘いも噛み分けてきたであろう皆さんが涙する姿を見て、このフリーマ。胸が熱くなりました」
「伯爵様ご夫妻の恩に報いるため、私も命を懸けてご出産のお手伝いをする所存です。フリーマ先生も、そのお覚悟で事にあたっていただきますよう」
普段は優しさ100%なアデルが、信じられない圧を放ちながらフリーマの両手を握る。
やめなさいよ。
そんなギャップはいらないから。
ジャンジャックやオドルスキあたりから悪い影響でも受けているんじゃないだろうな。
「アデル。エイミーの世話は頼んだが、命懸けでとは言っていないぞ。お前達が僕に忠誠を誓ってくれている事に疑う余地はないんだ。いつも伝えているとおり、肩の力を抜いて構わない」
まったく。
出産までの世話をするアデルが緊張を漲らせてたら、エイミーちゃんも落ち着けないでしょう?
いつもどおりの優しくて穏やかなアデルでお願いします。
「いいえ。もしもご出産を控える奥様に狼藉を働こうとする者がいれば、刺し違えてでも仕留めてご覧に入れます」
「エイミー。カニルーニャの義父殿に、くれぐれも屋敷の守備を頼むと、改めて文を出しておいてくれるか?」
「承知いたしました」
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