第93話 体を蹂躙

 朝起きると、目の前には玲羅の寝顔があった。

 事件から数日が経過しているが、玲羅に目立った影響はない。大体ああいったことに遭遇したら心に傷を追ったりするものだが、早くに助けられたのが功を奏したようだ。


 俺はその彼女の頬を撫でながら、綺麗な顔を眺める。


 相変わらず、化粧もしてないのにとんでもない美人だな……

 俺は、玲羅が化粧をしているのを見たことがない。確かにする必要がないほど整ってはいるが、本当にすごい。

 だが、化粧をするのが女性としての礼儀。みたいな風潮があるこの国では、少し困ったことになるな。


 玲羅が化粧をして、これ以上綺麗で可愛い姿になったら、それこそ世界の危機だ。


 「んぅ……」

 「ふふ、かわいいなあ……」


 ピコン


 少し調子に乗って玲羅の顔をぷにぷにしていると、突然スマホのメールの着信音が鳴った。

 画面を開くと、中学の頃の友人である蔵敷からの連絡だった。


 『助けてくれ』


 その一言だけだったが、なんとなくこの時間にしてきたことにイラッとしつつも、俺は返信をした。すると、返事も秒で返ってきた。


 『どうした?』

 『奏からのアプローチが止まらない……』

 『あっそ、俺休みだからもっかい寝るわ』

 『待て待て!どうにか止めてくんねえかなあ』

 『はいはい、付き合えば今のアプローチは終わると思うぞ』


 ある程度会話をした後、そう返信すると、今度は電話がかかってきた。


 俺は電話マークをスライドし、スマホを閉じた。

 すると、すぐに蔵敷から着信が来た。


 『拒否すんなや!』

 『うるさいな。てか、あいつのなにが嫌なんだよ。お前の言う通り、巨乳の美人だろ?』

 『俺が二次元で事足りてんだよ!』

 『戯言を言う相手は選べ?』


 そう返信すると、今度は着信が来なくなった。


 ていうか、あいつら付き合ってなかったのか……。

 奏もかわいそうに、面倒なやつを好きになってしまって……なんか申し訳ないな。


 蔵敷が二次元狂いになったのは、俺のせいでもあるし、あいつが現実の人と付き合おうとしないのは、多分あいつの元カノが原因だろうしな。

 でも、俺からすれば奏はあいつの元カノみたいな女じゃないから、全然付き合ってもいいとは思うんだけどなあ。


 そう考えていると、今度は玲羅のスマホの着信音が鳴った。


 まあ、ほぼ毎日彼女は俺と一緒に寝てるから、スマホの充電とかもそれを見越して、俺の部屋でするようになっているのだ。


 「玲羅、なんか連絡来てるぞ」

 「んぅ……?ちゅーしてぇ……」

 「はあ……覚悟しろよ……」


 そう言って、久しぶりに激しめのキスを玲羅の唇に落とした。だが、彼女もそれに慣れてきたのか、慌てずに俺の後頭部に手を回してもっとしてほしいと無言で伝えてくる。


 攻め方を変えないとな。

 別に求められるのは嫌なわけではないが、それ以上に俺は玲羅の慌てて頬を染める姿が好きだ。

 ちょっぴり怒った「ばか……」も可愛くて可愛くて仕方がない。


 「ぷはあ……着信来てるのか?」

 「ああ、誰から?」

 「翔一、心配するな。私は男の連絡先など、父さんと豊西とお前の連絡先しか持っていない」

 「いや、特にそういう心配はしてないんだけど」

 「豊西に関しては、最後にしたメッセは半年近く前だ」


 別に聞いてはいないが、少しうれしい報告だ。

 あとで、目一杯抱きしめよう。


 「で、なんて連絡来たんだ?」

 「ちょっと待ってくれ……あ、奏からだ」

 「なんて?」

 「『助けて』だって……?『どうしたんだ?』っと」

 「あれ、この流れって……」


 さっきしたなあ、同じような流れを……

 というか、同じ日に同じような時間帯に連絡よこすとか、もはや運命の領域だろ。俺が言うのもなんだけど、さっさと結婚しちゃえよ。


 「『蔵敷君が全然振り向いてくれない……』だって。翔一は、なにか振り向かせる方法とか知らないか?仲良かっただろ?」

 「いや、多分俺が思いつくレベルのことならもうやってんじゃない?夜這いでもしたら?」

 「そうか……『夜這いしたら?』っと」

 「え?まだ寝ぼけてる?冗談で言っただけなんだけど……」

 「え?あ、返信来た……なになに、『それはもうやった』だって」

 「うそでしょ!?」

 「あ、また来た。『薬盛ったんだけど、結局最後まで蔵敷君紳士で素敵だった』だそうだ」


 マジか。冗談のつもりだったのに、もうそんなこともしてたのか。

 だが、それでも落とせないとなると、普通にできることがない。―――いや、あそこを壊滅させればいいか?


 いや、ダメだ。なんの危害を与えてこない一般人に手を出すのはダメだ。


 「翔一、なにかしてやれないか?」

 「玲羅、これを見てくれ」

 「え、これって……」


 俺が見せたのは、先ほどのやり取り。

 俺が奏に諦めるようにしてほしいとの文言が書かれたものだ。


 蔵敷はそれを望んでいるようだが、俺は奏とくっつける気満々だ。あいつもあいつで異性に思うところがある。それは俺に近いものがある。


 でも、結局思うんだよな。女の傷は女で埋めるしかないって。

 こんなことSNSで言ったら、ツイ〇ェミが黙ってなさそうだけどな。まあ、奴らはかみつきたいだけの獣だから……ゲフンゲフン


 これ以上はいけない。


 現に、綾乃の死で出来た傷は、玲羅が埋めてくれている。

 玲羅が俺のことを愛してくれるから、綾乃のことを思い出さずに日常を送ることができている。


 そう考えると、目の前にいる愛おしい人がとんでもなく尊く見えてきた。


 「奏も苦労して……ひゃわっ!?」

 「ああ……好きだ……愛してるよ、玲羅」

 「し、し、し、し、翔一!?ど、どうしたんだ!?」

 「いや……玲羅のことが大好きだなー、愛してるなー、ってつくづく思い知らされたから」

 「な、なにがあったんだ?」


 俺に抱きしめられた玲羅は、顔を真っ赤にしているが、絶対に俺の手をはねのけたり、嫌がったりしなかった。それどころか、彼女はそのまま俺の首筋にカプリとかみついてきた。


 「はむはむ……」

 「……おいしい?」

 「そ、そういうことじゃない!その……キスマーク、最近忙しくて消えてただろ?だから……」

 「何個でもつけていいよ。気の済むまではむはむして」

 「そう言われると、なんかつけづらくなってしまうな」


 そうは言うものの、玲羅は俺から微塵も離れようとしていない。口では何とでもいえるってやつだ。

 本心では、何個も何個もつけたいと言っているに違いないな。


 そう考えた俺は、おもむろに服を脱ぎ始めた。


 「な!?」


 そのまま、俺は玲羅に馬乗りになってもらいながら、ベッドの上に仰向けになった。

 このままなら、玲羅は俺にしたいことを好きなだけできる。今の俺は―――


 「今の俺は、されるがままだ。玲羅の好きなようにしてくれ」

 「し、翔一っ!」


 俺はその後、十数か所にキスマークをつけられたのだった。









私はどちらかと言えばフェミニズムは肯定派です

その思想を否定する意図はありません

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