第78話 愛の証
「で?吹きこぼした上に、テンパってコンロの周りを吹いてたら、今度は中身が焦げたって?」
「「はい……」」
俺は風呂から上がってびっくりした。
なんせ、俺が作ったカレーの底の方の野菜が焦げていたからだ。
2人とも料理ができるからと油断していた。
理由を聞くと、話をしていたら吹きこぼれてしまって、あせって火を止めずにIHコンロの電源を落とさずに鍋の周りを拭いて、気がついたら中身が焦げていたそうだ。
「ごめん、翔一……」
「はあ……いいよ。別に全部が焦げたわけじゃないし、食えないわけじゃない。でも、次から気を付けてくれよ」
「あ、ああ……それだけか?」
「……?別に怒ってるわけじゃないから、言うこともないんだけど?」
「ち、ちゃんと叱ってくれ!もやもやするんだ!」
叱ってくれと言われても……困るなあ。
好きな人に対して、そんなに真面目に怒りたくはないな。そもそも、怒ってないから、叱ってくれと言われてもなにを言えばいいのか……
「お兄ちゃん、義姉さんはお兄ちゃんに叱ってほしいんだよ。ほら、怒ってもらわないと自分がどうでもいいんじゃないかって、不安になっちゃうやつ」
「ああ……じゃあ、玲羅こっちきて」
「はい……」
結乃に言われた俺は、玲羅を手招きして呼び寄せた。
俺に近づいてきた玲羅は、不安半分期待半分という表情で近づいてきた。
本当に叱られたいのか?いや、玲羅のことだから、本当にそうなのかも……
意を決した俺は、玲羅に罰を敢行した。
「翔一……んむ!?」
ポーっとしている玲羅の唇を無理やり奪って、俺は彼女が舌を絡めようとして来る前に口を離した。物悲しそうな表情をしているが、ここは心を鬼にするしかない。
「玲羅、今から明日の朝まで俺に触れちゃダメ」
「えっ……?」
「明日の朝まで、俺の体に触っちゃダメ。もちろんキスもだめだし、一緒に寝るのもダメ」
「そ、それは……」
「いい?これは罰だ。守らないと、1日、また1日と触れられない期間が延びていくからね」
「う、うぅ……」
こうして俺と玲羅の触れちゃいけない期間が開始したのだが、彼女が我慢できずにその後に何回か触ってきたので、結局3日間接触禁止令に変わってしまった。
なにをしてるんだか……
初日に何回か触ってからというものの、どうにか自分を押さえつけているようで、時折「うぅ……しょういちぃ」と言いながら、こちらを凝視するということが何度もあった。
俺も俺とて、玲羅に触れないのは非常につらいものだった。
次からは、罰はしっかりと考えないといけないな。
そうして、禁止令の開ける日の前日
今日は、運よく金曜日。つまり、明日は土曜日で玲羅と存分にイチャイチャできるということだ。
休みなら、学校のことは気にせずにいられるからな。
今までの三日間本当につらかった。
お互い、触れられる距離にいるのに、一切触れてはならない。
この三日間で得たのは、虚無感と渇望感だ。
玲羅に触れられないだけで、本当に虚無だったし、障れなかった分玲羅を愛でたいという気持ちが本当に大きくなっていった。
「ふわあ……やっと明日で禁止令がとける……」
そう呟いて、俺の意識は完全に落ちた。
翌朝、その日はあいにくの雨模様だった。
半分意識が覚醒した状態でうなっていると、突然勢いよく俺の体に飛び込んできたものがいた。
「げぶしっ!?」
「はあぁぁぁぁ……しょういちぃ……」
「んあ!?玲羅!?」
ベッドに飛び込んできたのは玲羅だった。彼女は、こんな朝っぱらから扉を勢いよく開け放って俺のもとにダイブしてきたのだ。
「翔一翔一翔一!」
「れ、玲羅?どうした!?」
「むふふ……翔一の匂い……翔一の感触……しあわせぇ」
飛び込んできた玲羅は、俺の胸板に頬ずりをしている。
力強く押し当てられるもんだから、玲羅の頭の感覚が覚醒したばかりの脳にダイレクトに伝わってくる。
だが、それより気になるのが、玲羅の鼻息が凄まじく荒いことだ。それに、俺の声が届いている気がしない。
ピカッ!
突然、周囲が光り、それから数秒ほど遅れて大きな音が響いた。
雷だ。朝から空模様は悪かったが、そこまで悪いとは……
そろそろ夏も近いということか
そう思いながら、玲羅に目をやると、彼女は俺の胸の中で小刻みに震えていた。
「怖い?」
「こ、怖くないっ!びっくりしただけだ!」
「そうかい……」
そうやってつやがる玲羅を、俺は優しく抱きしめてあげた。
原作では、玲羅は雷が苦手だった。クールキャラなのに苦手なものが多いのも、愛おしい萌えポイントだな。
さすがに、苦手とかそういうのは俺もどうしようもないので、今は震えが止まるまで抱きしめてあげるくらいしかやることがない。
「こ、怖くなんか……怖くなんか……ひっ!」
「別に強がらなくていいぞ」
「つ、強がってなんか……」
ていうか、いつの間にか正気に戻ってるじゃん。
そう思いつつも、俺は玲羅の頭を撫でている。三日ぶりの彼女はあったかくて柔らかい。今日は一日中彼女を愛でていたい気分だ。
「いろんな意味で落ち着いた?」
「……ああ」
「まさか、こんな朝から玲羅が飛び込んでくるとは思わなかったよ」
「うぅ……三日もお預け食らったから、正気でいられなかった……近くにいたというのが、本当につらかった。触れそうで触れない……」
「あはは……悪かったよ。ていうか、罰を求めたのは玲羅だろ?」
「そうだけど……翔一にちゃんと怒ってもらえないと、自分が不要になったのではないかと……」
「そんなわけないだろ?玲羅は、俺にとって最も大事な人だ。そんな人をいらなくなったりするわけないだろう?そうだったら、俺は玲羅にキスマークを付けてもらわない」
俺はそう言って、首筋を玲羅に見せた。少し消えかかっているが、まだほんのりと赤みが残っている。まぎれもない、玲羅につけられたキスマークだ。
彼女は、目の前に出されたキスマークを凝視している。
「これはな、玲羅につけてもらった俺の大事な証だ」
「証……?」
「俺が玲羅のものだという証」
「翔一が、私のもの……」
「もし俺が浮気なんてしたら、刺し殺して玲羅だけのものにしてくれても構わない。でも、死体は残らないと思ってくれよ」
「た、たしかに、翔一といえど死体になったら焼かれちゃうもんな……」
「そういうことじゃないんだが……」
そうやって話をしていると、玲羅はなにか意を決したかのような表情をした。
なにか企んでいるのだろうか?
「その、私の首の痣、だいぶなくなってきたよな?」
「そう、だな。悪かったな」
「その、翔一も私にキスマークを付けてくれないか?」
「……わかった。じゃあ、しやすいようにうなじを開けてくれるか?」
「そ、そうじゃなくて、私がしてほしいのは……」
そう言って、彼女は胸元をはだけさせた。と言っても、パジャマに身を包んだ彼女は、ボタンをはずしただけなのだが。
ボタンをはずし、胸部を少しだけ見せた彼女は言った。
「鎖骨のところにつけてほしいんだ……ダメ、か?」
「中々恥ずかしいところにリクエストが来たな……全然いいけど」
「そ、その頼む……」
彼女はそう言うと、胸元を少しだけ俺に差し出すように動き、パジャマの胸元を大きく開かせた。俺は一瞬戸惑ったが、次の瞬間には玲羅の鎖骨の部分に吸い付いていた。
鎖骨と言っても、玲羅は豊かなものを持っているので、必然的に吸う感覚と一緒に、柔らかくて暖かい感覚に襲われる。これは理性が壊れてしまいそうだ。
「ちゅう……これでいいか?」
「あふぅ……い、いいぞ……すごく……」
「なあ、なんか顔赤くない?」
「き、気のせいだ……」
こうして、俺の首筋と玲羅の胸にお互いがお互いのものであるという証が刻まれた。
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