第73話 ぶっ殺す

 人は今も昔もそして未来でさえも、二つの力だけを求めて生きている。武力と技術力だ。


 知性を獲得し、理性を得た種はもっと豊かな暮らしを求め、技術力をを上げ、それを奪うために略奪を始めた。

 もっと力を、生活を―――そう思う気持ちだけが強くなり、ついには惑星そのものを揺るがしかねない大いなる力を作り出してしまった。


 そうして、知性持ちし種たちは、自らの力で衰退し、滅んでいった。


 だが、力をそのまま保持した種の生き残りは、技術を管理する家と武を管理する家に分かれた。そこから何万年もの間、世の均衡を保つために監視を始めた。

 新たな生まれた種は、著しい進化を遂げた。自分たちほどの早さではないが、歴史のなかで色々なものを生み出し、発見した。


 だが、その二家にとっては目新しいものはなかった。そんなものすべて、生み出しているものだったから。

 だが、現代ではオーバーテクノロジーになるであろう開発をするものはいた。二家はそのような者たちの研究を支援する代わりに、ほぼ拉致という形で世間から消した。二度と、自分たちと同じ歴史を歩ませないために。


 そう、その二家には人類の理解の範疇を超えたものが数多く存在し、まったく常識の通らない世界だ。


 その二家が存在する場所を、人々はこう呼ぶ。



 ―――『透明島』と




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ガラガラガラ


 教室には俺と玲羅が同時に入ったが、俺が足を踏み入れた瞬間に教室の空気が止まった。


 当然と言えば当然だ。

 休みを挟んだとはいえ、トラウマ物の絵面を体育館で見せてしまっているのだ。むしろ、避けられるのが当たり前だ。


 だが、すぐに俺の隣―――玲羅に視線が行き、教室内がざわつき始めた。

 こちらも、自然な流れと言えばそうだ。


 校内でかなりの容姿と人気を誇る玲羅が、先週に凄惨なことを起こした生徒と一緒に登校しているのだ。俺のセコンドにいただけでも疑われていたというのに、これは確信に変わってしまうような出来事名のんだろう。


 だが、俺を恐れてそれを確認するものはいない。


 そんな重苦しい教室の中、俺は自分の席に着いた。朝のHRまでどうせ話すことはない。いつも通りだし、特に気にしていない。

 そんな空気を察したのか、それともほかに理由があるのか、玲羅は教室ではあまり話しかけてこない。まあ、関係が疑われて昼休みの時間を邪魔されたくないとか、考えているのだろう。


 しばらくすると、美織が登校してきた。彼女は、教室に入るなり、空気も読まずに言い放った。


 「なによこの空気。おもっ苦しいわね!」


 それだけ言って、彼女は俺の方に来た。

 おそらく仮面のことだろう。


 「あれからどう?仮面のせいで、変な流れ方してない?」

 「いや、してない。むしろ、前より安定している」

 「そう。まあ私の作り出したものだしね。失敗してるはずがないわ」

 「……ありがとな」

 「いいのよ。私はあなたに何度助けられたと思ってるのよ」

 「さあな。襲われすぎて覚えてねえや」


 美織は、頭がよく変な理屈でしゃべることが多い。だが、玲羅ほどではないが、世間一般では良い体をしているほうだ。しかも、成長し始めが小6と早めではあった。

 そのせいで、そういう目的の奴は多く、何度か助けることがあった。


 別に俺は、見返りほしさで助けたわけじゃない。

 女がさらわれることに恐怖するように、男だって怖いことはある。その時に助けてほしいだけだ。まあ、俺を武装状態から助けてくれたみたいだけどな。


 本当に感謝してもしきれない。


 「でさ、他にも翔一と話したいことがあるから、明日の登校前にうちに来て。色々あるから」

 「……わかった」


 そう話していると、HRも始まり、先生が入ってきた。

 その後は、今日の連絡事項を伝えて、HRが終わるだけであったが、俺は先生に呼び出された。


 「―――で、朝のHRは終わる。あ、あと椎名、ついてきて」

 「わかりました」


 教室を出て行くとき、玲羅が少し不安そうな視線を向けていたが、大丈夫という意思を込めて彼女にウインクした。すると玲羅は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 気持ち悪かったかな?


 廊下に出ると、担任の先生が話しかけてきた。


 「もう一回聞くぞ。なんであんなことしたんだ?」

 「あんなことというのは?」

 「人をおちょくっているのか?」

 「いいえ、まったく」


 本当にそんなつもりはない。

 俺が不用意に武装を使ったことか、それとも金剛をボコボコにしたことか。はたまた、一般生徒の前で血みどろの凄惨な現場を見せたことか。

 いっぱいある、どれに対しての質問か聞いているのだ。


 「―――まあいい。だが、金剛は悪い噂の絶えない生徒とはいえ、手を出すのは良くないぞ。まあ、もう遅いだろうけどな」

 「そのセリフ、そっくりそのまま返しますよ。どちらかと言えば、俺に対してそんな汚い言葉ばかり使っているのを後悔しそうですけどね、先生が」

 「……ほざけ」


 そうして、案内されたのは校長室。そして、その中には、校長や学年主任のほかに、かの有名な国会議員の金剛議員が来ていた。


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 翔一がいなくなってすぐに、色々な人が私のもとに質問をしに来た。

 だが、ようやくしてまとめると、誰もかれもが「翔一と付き合っているのか?」というものだけだった。


 私は面倒なので、全員に聞こえるように言った。


 「翔一とは恋人同士だ。これで満足か?」


 一瞬、クラスの空気が止まった。


 だが、すぐに騒がしさは戻った。

 中でもうるさかったのは、一時的にだけ会話をした男子だ。そいつらは、私の胸を不躾に見たり、下心が隠れていないから、ぶっちゃけ嫌いなタイプだ。それに自尊心を無駄に強そうだ。


 「な、なんで椎名なんだよ!あんな奴、ただの暴力野郎だろ!」

 「お前っ……!」

 「馬鹿ね、あなた」


 私が翔一のことを悪く言った男子にかみつこうとすると、直前で美織が割って入ってきた。

 馬鹿と言われたそいつは、露骨に見下したような視線を美織に向けた。


 「あ?お嬢様がなにイキッってんだよ!」

 「え?私ってお嬢様なのバレてる?」

 「バレバレだよ、クソビッチ!」

 「……取り消しなさい」

 「は?嫌に決まってんだろ!」


 突然、美織の雰囲気が変わった。クソビッチ、そう言われただけで、いや十分頭にくる発言だが、ここまでのものでもないはずだ。


 「あなたみたいな愚図が私をイキってるだの言って、あまつさえ私をあのクソ女と同じだって?なめんじゃないわよチンピラが」

 「あ、なんなんだよクソビッチ!どうせ椎名がいないとなにもできないんだろっ!」


 そう言って、男子生徒は美織に拳を振るった。だが、その場にいた全員が絶句した。


 美織は、飛んできた拳をただの指一本で止めたのだ。


 「あなたの力なんてこんなものよ。だから、発言には気を付けることね。次、同じことを言ったら、私はお前をぶっ殺す。どんな手を使っても」


 美織って、こんなキャラだっけ?いや、翔一ほどじゃないけど、カッコいい……





 あとがき

サブタイ、最悪わからない人はなにがなんだかわからないかも

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