第41話 束の間のデート

 「え、デート?」

 「そ、そうだ。私たち、なんだかんだそういう恋人らしいことしてないだろ?」

 「いいけど、どこ行くの?おうちデート?」

 「出かけようって言ってるのにそれを言うのか……ボケか?ツッコんでほしいのか?」


 卒業式が終わり、結乃たち在校生と違って一足早い春休みを満喫している俺たちはそんな会話をしていた。


 確かに、俺たちは出会ってからデートというものをした記憶がない。出かけるときはいつも、結乃か玲ら家族がいた。

 2人きりの状況は、ふとした瞬間で、デートという雰囲気ではなかった。


 「デートって言ってもどこに行くんだ?俺、ろくなデート知らないぞ?」

 「近くに大型のモールがあるだろう?」

 「ああ、映画とか本とかいろいろある」

 「そこに行ってから決めないか?」

 「そうだな……今日の夜の食材も買えるな」

 「デートだぞ?」


 いや、冷蔵庫の中身切れてるから買わないと……

 こればっかりはどうしようもない。俺と結乃だけなら最悪抜きでもいいのだが、玲羅がいる。幸せにするって決めてるから、基本的にご飯を抜くことはしたくない。まあ、なんだかんだ、原作では玲羅も料理は出来る設定だったから、勝手に作らせたら作ると思うけど。


 「でも、デートなら、玲羅の好きなもの三昧で献立作れるよ?」

 「う……それは、魅力的だ……」

 「でしょ?だから、思いっきり遊んで、食べたいもの言って。色々作るからさ」

 「わ、わかった。じゃあ、早く着替えて出かけよう!」


 そうして俺たちは外向けの服に着替えて、家を出た。

 家を出るときは、玄関で行ってきますのキスを、一緒に外に出るのにした。こういうのは、やりたいだけで、理由なんてなんでもいいのだ。

 そのまま外に出た俺たちは恋人つなぎでくっつきながら、近くの大型モールへと向かっていった。


 近くつっても、3駅くらい離れてるけどな。え?荷物は重くないのかって?あんなの重量ないのと同じだよ。


 イチャイチャしていると時間というものは過ぎるのが早く、あっという間に目的地に着いてしまった。


 現在時刻は11時。そろそろ昼時だが、平日ということもあってそこそこ空いていた。


 「まずは昼だけ食べて、散策するか?」

 「そう……だな。フードコーナーもあるし、そこに行くか」

 「おーけー、なに食べる?」

 「ラーメン食べたいな……」

 「なにラーメン?」

 「醤油」

 「わかった買ってくる」

 「え!?わ、私のは自分で払う!」

 「いいよ。俺もラーメン食いたいしついでだよ。玲羅は席取っといて」


 そう言うと、俺は玲羅をその場において、ラーメン屋の列に並んだ。


 注文はそこそこ時間がかかり、俺が札をもらうまで10分もかかってしまった。

 俺が注文札を持って玲羅の元に戻ると、彼女は席でナンパに遭っていた。


 「なあなあ、お茶でもどう?奢るよ」

 「結構だ。今は待ち人がいる」

 「そんな奴ほっといてさ、遊ぼうぜ」

 「うるさいな。私は今デート中なんだ。気分を害すようなことをしないでくれるか?」


 玲羅は冷たくあしらって、特に何事も起きているわけではないようだが、ナンパをしている男の方はだんだんといら立ちが目立ってきた。

 俺もさすがに見逃すわけにはいかないので、俺は2人の間に入った。


 「すいませんね。この子、俺の連れなんで」

 「はあ?邪魔すんなよ、クソガキ」

 「ガキはどっちだ?相手の気持ちも考えられないような奴に言われる言葉ではない」

 「なんだと!」

 「端的に言う―――消えろ」

 「―――っ!?ちっ、しらけたわ」


 そう言って去っていく男。その男はわずかだが、手が震えていたし、ズボンの一部に少しだけシミが見えた。

 ちびったな?


 その事実に気付いて、俺が爆笑をこらえていると、玲羅がジト目で見てきた。


 「助けてくれるのはうれしいが、人のああいう姿を笑うものじゃないぞ」

 「悪い悪い。でも、玲羅はああいうのに耐性あるのか?」

 「どう意味だ?」

 「いやあ、玲羅ってなんだかんだ頼まれたら断らなそうだし。優しいから」

 「そ、それはそうだが……明らかに下心がある相手には簡単に『うん』とは言わない。それに……」

 「それに?」

 「私は翔一以外の男と仲良くするつもりは……ない……」


 なんそれ?可愛すぎでしょ。別にそれくらいで俺は怒らないのに。

 ただ、玲羅が俺だけに甘えてくれればそれだけでよかったのに。


 玲羅の強い思いを受けて、俺は不覚にもてれてしまし、少しだけ頬が赤くなったんだと思う。だからか、玲羅はこの後、これ見よがしに俺をめちゃくちゃからかってきた。


 その後は、普通に何事もなく食事を済ませた。2人で違う味のラーメンを分け合ってあーんし合ったり、人目もはばからずにイチャイチャしてた。


 食べ終わった後、俺たちは映画が上映しているフロアにやってきていた。

 食事の時、デートらしいものとはの談義にて、映画というものが一番に上がった。なので、俺たちは上映予定表を見ているのだが。


 「なに見る?」

 「そうだな……これとかどうだ?」

 「これ、普通にホラーだぞ?」

 「いいんだ。カップルシートで見よう。そうすれば、怖くても翔一の体で相殺できそうだ」

 「いいけど……」


 大丈夫かなあ?


 そう心配する俺の予感は的中。


 上映中


 『うわあああああああ!』

 「ひゃああああああああ!」


 映画の怖いシーンが流れるたびに、体をビクッとさせて小刻みに震えている。

 先ほどから、俺の腕に絡みついて離れてくれない。


 まあ、そのおかげというかなんというか腕の感覚がいつもより過敏になっている。なぜかって?それは想像に任せる。


 上映終了後。玲羅はビクビクしながら歩いているため、足取りがおぼついていない。


 「大丈夫か?」

 「だ、大丈夫だ……思ったよりは怖くなかったな」

 「そうか?普通に怖かったと思うけど」

 「ま、まあ、最後のED後に来た霊には驚いたな」


 嘘だな。終始ビビってた。

 そうやって強がっている玲羅を見ると、少しからかいたく、いじりたくなってしまう。


 「え?そんなの映ってなかったぞ」

 「ひぃ!?」


 俺がからかうと玲羅は小さな悲鳴を上げて顔を真っ青にした。やりすぎたかな?


 映画を見終わり、ちょうどいい時間になったので、俺たちは今日の買い物をして帰った。

 玲羅の食べたいものを参考に食材を買っていき帰宅した。


 帰ってくると、私服に着替えた結乃が俺に食事がいらない旨を話してきた。


 「今日、みんなとご飯食べに行くから夜いらない」

 「わかった。あんまり遅くなるなよ」

 「わかってるよ。お兄ちゃんも、玲羅先輩を襲わないようにねー。私はまだ叔母さんになりたくないから」

 「しねえよ。そういうのは玲羅がしたいって言った時だ」


 そんな会話をした後、結乃は出かけて行った。


 まあ一人分減ったところでそこまで問題はない。


 「翔一?」

 「ああ、じゃあ食べようか。今日の夜ご飯は玲羅のリクエストの―――」

 「わあああ」

 「餃子だ」


あとがき

昨日の夜ごろに作品のフォロワーが1000人を突破しました!ありがとうございます!

なにかSS(ショートストーリー)を書こうと思っています。

これからも物語にお付き合いください!

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