ドラゴンスレイヤーのクロガネさん
まめいえ
第1章
第1話 大剣を振るうクロガネさん
かつて竜は、人々にとって神のような存在であり、信仰の対象であった。
やがて人々は武器を手に入れて争いを繰り返していく。長い年月を経て武器は進化を遂げ、竜をも倒す力を手に入れた。
そして竜は、人々にとって戦ってみたい相手へと変わり、今では人々に害をなす、滅ぼすべき種族と認識されるようになってしまった。
ここは王都から遠く離れた
「クロガネさん、討伐依頼です。西門に竜が出ました!」
町の外れにある食堂に一人の兵士が飛び込んできた。そして部屋の片隅で食事をしている一人の男に話しかける。その男は食事の手を止めることなく、兵士の方を見向きもせずに答えた。
「おう、食事が終わったら行く」
「それがそうもいかないんですよ。既に戦いが始まっているんです!」
兵士は落ち着かない様子で、食事中の男の視界に割って入った。クロガネさん、と呼ばれた男は食事を邪魔されて少しムッとしながらも、仕方ないといった感じで立ち上がった。
でかい! 噂には聞いていたが、実際に会ってみると見ただけで強いってことがわかる!と、兵士は彼の大きさに圧倒されてしまっていた。
座っていたときから肩幅が広いとは思っていたが、想像を上回る巨体。身長は190センチを優に超え、体には無数の傷跡がある。そして、最も特徴的なのは額についた十字の傷だった。勲章ともいえる傷の一つ一つが、これまで多くの竜を討伐してきた彼の強さを物語っていた。
「マスター! この食事残しておいてくれ。戻ってきてからちゃんと食べるから!」
厨房の奥から「わかったよ!」という声が聞こえたのを確認すると、クロガネは壁に立てかけてあった大剣を手にして食堂を後にした。
「初めて見る顔だな、名前は?」
「コテツと言います。先日、西門警備隊に着任したばかりです!」
「で、状況はどんな感じだ?」
西門に向かう中、走りながらクロガネがコテツに話しかける。街の住民は既に家の中に避難していて、通りにいるのは二人と、そして避難を呼びかけて
「街に入れないよう、何とか兵士たちでこらえている感じです!」
「竜の種類は?」
「中型の飛行タイプ。色は……茶色です」
「ふむ、では炎は吐かないだろう。……
「現在3機です。あと
「わかった」
息ひとつ切れずに走り続けるクロガネに、新人兵士であるコテツは返事をしながらついていくので精一杯だった。
西門の外では、十数名の兵士たちが空に向けて槍を構えていた。竜は攻撃のタイミングを図っているかのように、空中を旋回している。
「クロガネ殿! お待ちしておりました!」
コテツに連れられてやってきたクロガネに、隊長らしき人物が声をかける。ああ、と軽い返事をしてクロガネは剣を構え、空を眺める。そして竜の姿を確認すると、
「全員武器をしまってくれ、俺が一人で仕留める」と兵士たちを後方へ下がらせた。
「そんなことしたら竜が街に入る……」
困惑する兵士たちに対して、隊長が手を広げて「大丈夫だ。クロガネさんに任せておけ」と答えた。それは「彼の邪魔をするな、黙っていうことを聞け」という意味にもとれた。
コテツも心配そうな表情を浮かべたまま、他の兵士達と同様に武器をしまって後方へ移動する。
西門の外、兵士たちがいた場所に大剣を持ったクロガネが一人立つ。するとその様子に気づいたのか、空中を旋回していた竜がこちらに向かって急降下して地面に降り立った。空を飛んでいるときは大きさは感じなかったが、改めて対峙すると二階建ての家と同じくらいというその巨体に、兵士たちは萎縮してしまった。
ズゥン! と地響きが起こり、後方に待機している兵士たちが一瞬バランスを崩す。しかしクロガネは動じなかった。それどころか、竜が地面に足をつけたと同時に腰に下がっていた二本の短刀を竜の目玉に向けて投げつけた。竜はそれを、首を捻らせて避ける。
この程度の竜ならば、人間が一人で殺気を向けていると地面に降り立って戦うことをクロガネは知っていた。竜は自分の力を誇示したい生き物なのだ。そして、目を狙われると首をねじって避けようとすることも想定内だった。
短刀を避けて、竜がクロガネのいた場所を見たときには、既に彼はそこにいなかった。クロガネは竜の腹部に潜り込み、鱗のない柔らかい部分に大剣を突き刺した。
「おおおおっ!」
気合の入った声とともに、クロガネは大剣を斜め上に向かって振り切った。竜の腹部からは青色の血が吹き出し臓物がこぼれ落ちる。グアアッ! と竜が声を上げて後ろ足を蹴り上げるが、それを軽く
クロガネはすかさず竜の体を駆け上り、首筋の鱗と鱗の間に狙いを定めて大剣を突き刺した。
「ギャアアアッ!」
竜が鋭い声を上げた瞬間、全身の力を込めてクロガネが剣を押し込む。体をバタバタと動かしながら抵抗するも虚しく、しばらくして竜は動かなくなった。
「ふう。討伐完了」
クロガネはゆっくりと竜に突き刺していた大剣を引き抜き、額の汗を拭った。
「うおおおおおおお!」
たった一人で、しかもあっという間に竜を仕留めたクロガネに対して、兵士たちは狂喜乱舞した。
「すげぇ、これが
先ほど食堂にクロガネを呼びに行った新人兵士、コテツがつぶやいた。家と同じくらいの大きさの竜を相手に、怯むことなく向かって行ったクロガネの姿に、彼は感動していた。
これは
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