入学式

 入学式の日というのは、いろいろなことが起こるものです。


 四月から高校生になるS君は、新しい生活に、わくわく半分、不安半分。

 そんな入学式の朝。

 貼り出された配席表を見た彼は、はやる気持ちを押さえつつ、教室へ向かい。

 そこで、目撃するのです。


 教室の、一番後ろの、窓際。

 配席表では誰の名前も記されていなかったはずの、そこに。

 金髪ドリルツインテールの令嬢が、お座りあそばされているのを。


 みんな、令嬢のことが気になるようですが、そこは入学式の朝。

 ただでさえ知らない人が多く、アウェー感のあるこの教室において、未知の塊ともいうべき謎の令嬢に話しかけるリスクを、誰も取れずにいるのでした。


 そうしているうちに、先生がやってきます。

 令嬢を見た先生は一瞬、「Oh……」という顔をしますが、即座に、平然とした態度を取り戻し。

「順番に、簡単な自己紹介をしていきましょう」と生徒たちに言います。


 順番が回ってきた令嬢は、勢いよく、シャンと立ち上がり、こうのたまうのです。

「ウーパー神宮司薫子じんぐうじかおるこルーパーです。よろしくお願いいたしますわ」


 休み時間になると、ウーパー神宮司薫子ルーパーを遠巻きに見る生徒たちで、廊下は大混雑。

 しかし思ったほどの混雑ではないな、と思っていたS君は、別の教室にも人だかりができていることに気づきます。


 その教室を覗いてみると……

 そこにはなんと、薫子ルーパーの放つインパクトに勝るとも劣らない、鎧武者が座っているのです。

 まるで戦国時代からタイムスリップしてきたかのような彼の名は、「サモエドモフモフ太郎」というのでした。



 そんな、波乱の高校生活スタートの翌日。


 ウーパー神宮司薫子ルーパーとサモエドモフモフ太郎は、学校のどこにもいませんでした。

 どうも彼らは、最初からこの学校の生徒でもなんでもなかったようなのです。

 先生ですら、そのことに気づけなかったというのは、不思議なことです。

 みんな一様に、狐につままれたような顔をしていました。


 このように。

 一種の境目であり、みんなふわふわと曖昧な感覚に陥る入学式の日には、なんだか異質な者たちが紛れ込んでしまうことがあるのです。

 入学式の日とは、そういうものです。


 こわいこわい。

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