幽道

 夏なので、幽霊の話をしましょう。


 幽霊といいますと、人を呪ったり取り憑いたり引きずったり、何かと怖いイメージがあるかと思います。


 けれど実際のところ、幽霊の中でも悪意や害のあるものはごく少数。

 大抵の幽霊は悪意など持たず、いやむしろ意思というものが無く、只ふわふわと漂っており、しかも至極非力なものなのです。


 なぜ非力かというと、幽霊は魂だけの存在だから。

 肉体を失った分、基本的に生前よりも大きくパワーダウンしているのです(老いて筋力が衰えるとかいうレベルではなく)。

 しかし幽霊たちの、この非力さを補うのが……”幽道ゆうどう”なのです。


 幽道とは、柔道のように、相手の力を最大限利用する武道。

 誰から教わるでもなく、一部の幽霊が、なんかいつの間にか体得しているらしいです(幽道二段のヒトから聞きました)。


 例えば地縛霊が、建物を壊そうとする重機の力を利用して横転させ、取り壊しを阻止したり。

 お祓いにやって来た霊能者たちを返り討ちにしたり。

 増水した川や、荒れた海の力を利用して、人を引きずり込んだり。

 そういったことは、幽道を体得した幽霊だからこそ為せる業なのです。


 幽霊の居そうな場所へ出かける際や、幽霊と関り合いになる際には、覚えておくとよいでしょう。

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