公衆電話の怪
中国地方のとある広大な競技場のエントランス付近に、ぽつんと公衆電話が設置されていた。
10年ほど前になるので今もあるかどうかはわからない。
当時私は大学生で、夜8時頃から、半額の弁当や総菜を確保するために、友人でオタクのT君とよく歩いてスーパーへ出かけていた。
私もT君も歩くのが好きだったのでよく誘ったのだった。
スーパーへは、競技場の敷地を通り抜けると早い。競技場は高台にあり、眺めも良くていい散歩コースだった。
スーパーで買い物を済ませ、帰路についた。そして、競技場の前のベンチで一旦休憩した。
時刻は午後10時を過ぎ、周囲は暗い。暖色の公園灯が点々とついている程度だ。
その中で、電話ボックスだけが白色灯で目立って光っていた。
私たちのほか人の気配はない。
ベンチに腰掛け、T君が覚えたての煙草を吸い、私はその様子を見ていた。
すると、突然、公衆電話から呼び出し音が鳴った。
驚いて顔を上げ、公衆電話を見るがだれもいない。電話だけが鳴り続けている。
私はコリン・ファレルの「フォーンブース」を思い出した。
突如鳴った公衆電話に出てみたら、命を狙われ、電話ボックスから出られなくなるというサスペンス映画だ。
T君も「なんだろう・・あの電話に出たら、きっとろくでもないイベントが起きる気がする」と言った。
好奇心より警戒心の方が強いのは何ともつまらないことである。
私もT君も結局電話には出ずにその場所を後にした。
それから2~3度遭遇することはあったが、ついに出なかった。
あの電話に出たら何が起こったろうか。
何も起こらなくても、なぜあの時公園内にぽつんと設置された公衆電話が鳴ったのだろうか。
せめて電話に出て、なぜ鳴ったのかだけでも解明したかったと、いまだに後悔している。
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