差掛エッセイ
差掛篤
いい時計
登場人物
色白…私(別活動ペンネーム)、ゲームおたく。
ピピ田…会社の後輩
私と相棒のピピ田は外回りに出かけていた。
社用車に乗り、運転の上手なピピ田が運転。私は助手席で、ぼうっと窓の外を眺めていた。
ピピ田が言った「色白さん、ゲームをするために20万のパソコンを買ったって本当ですか」
「本当だよ」私は言った。
ゲームももちろんだが、私はこのように物書きも趣味であり、マンガエッセイのブログも書いているので、より創作の裾野を広げたく購入した面も強い。
しかし、創作をしている、ブログをしているなどと知人には知られたくないので職場では黙っている。あくまで、ゲーム目当てとしか言っていない。
「すごいですね!」ピピ田が言った。「趣味でお金を使うというのも、結婚して中々できることではないですよね。奥さん何も言いませんでした?」
「許してくれたよ。これからはパソコンの時代だし、子供にも早く慣れさせられるからということでね」と私。
趣味でお金を湯水のごとく使うのは確かに躊躇する。
私の中では無駄な買い物ではないつもりだが、ゲームのために20万円というと、若い子ですら面食らうようだ。
「お金をかけて、愛着が湧くものを得るのもいいですよね」とピピ田「○○主任なんか、子育て世代ですけど頑として高級外車に乗っていらっしゃいますしね。」
「まあね」私が返事した。正直賛同はしかねる。出来ればお金はかけないに越したことはない。
「その○○主任の外車なんて、車検で30万円もかかるんですってよ!」ピピ田が大げさに言った。「すごいですよね、その心意気が。愛車のために」
確かに車検で30万円はすごい。ゲームのために20万円も同じようなものかもしれないが。
「そこで、ぼく、ついにやっちゃったんですよ」とピピ田が嬉しそうに言った。「僕も高いものを買おうと思って、高い時計を奮発して買ったんですよ」
それはすごい、高級な腕時計なんて上を見ればきりがなさそうだ。
ロレックス?グランドセイコー?ウブロ?
「すごい!いったいいくらの買ったんだい?」と私。
ピピ田は黒い樹脂の腕時計を見せながら言った。
「このGショックです!5万円もしたんですよ」
私は吹き出した。
車検で30万円の話をして、パソコンに20万円出した話もして・・・
5万円の時計か。
リーズナブルにしか感じない。
笑う私にピピ田は大真面目に言った。
「いやでも、5万円でも大金ですよ!僕、自分のものにこんなにお金使うこと滅多にないんですから」
前振りの30万円のインパクトがありすぎたのだ。
しかし、確かに5万円でも大金だ。
私は20万円のパソコンを買ったが、高級時計はおろか、5万円のGショックだって買えない。時計は時刻が分かればそれでいい。そこまでコストをかけられない。
だから、10年前、就職祝いで親父が買ってくれた2万円のGショックをいまだに使っている。
お金をかける価値なんて、ひとそれぞれだ。
ステアリングを操るピピ田の左手首には、真新しいGショックが誇らしげに巻かれていた。
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