第20話 厨二病は厨二病を呼ぶ

「喫茶店としては初売上か……別に利益を求めてるわけじゃねぇけど客を増やす努力くらいはしなきゃな」


 おっさんとゴンさんが喫茶店の初客だ。

 バーは別のおっさん……うーん、ヤニおっさんで良いか……ヤニおっさんが初客だったが、アレは完全にシャルミナが雇ったキャストだったことが分かったし。

 

「それにしても……シャルミナの給料どうしようかな。喫茶店の時給にプラスして年俸3000万とかで良いか。それくらいなら向こう数十年は余裕あるし……」


 秘密結社として金策しなくて良い、というのは活動をする上で途轍もなくデカいことだ。


 ……やはり夢を実現するには何事も金ッッ!! 金と行動力が必要なのだ……ッッ!! という非常に夢のないことを言ってみる。


 まあ……その活動資金も爺さんの遺産だからな。

 爺さんが生きてさえいれば俺は金なんて必要なかったのに。

 せめて自分の死期を悟っていたのだったら、俺にそれを言ってくれれば……もしかしたら爺さんにこの景色を見せてあげることだって……できたかもしれないのに。


 ……あぁー、やめやめ!!

 引き摺りすぎても天国にいる爺さんにキレられる!!!

 俺は、俺と爺さんの夢を叶えるために全力を尽くす!!


「にしても……お金で釣ってるみたいで申し訳ねぇけどな。でもシャルミナだけは絶対に手放せない。あんな最高の人材他を探してもいるわけねーよ」


 俺は改めてシャルミナという存在を振り返る。


 まずもってシャルミナの存在そのものが厨二病魂的にビビッとくるものがあるし、何よりも一番秘密結社ごっこへの活動モチベーションが高い。

 更には圧倒的ロマンシチュエーションを己の力で作り上げる行動力と人脈、そして企画設定能力……絶対に手放してはいけないと俺は改めて誓った。


「ふぅ……考えることは多いけど、その分だけ楽しさがあるな。骨董屋のおっさんにゴンさんにヤニおっさんにシャルミナ……この活動を初めてから色々な人に出会うこともできたし」


 ……なんか最終回みたいな雰囲気を醸し出してしまった。

 もっと厨二病を集めるまで頑張るぜ俺は。


 ──ガチャリと、扉が開いた。


「ボス、戻ったわ」

「……随分と早かったな」

「ええ、この娘をね」


 振り返った俺は、視界に映った景色に驚愕した。

 

「……なるほど、な」


 そこにいたのは、シャルミナに抱えられた一人の少女だった。

 最初に目を奪われたのは、圧倒的長い美しい銀髪だった。

 ……すげぇな、ほぼ床に付いてんじゃん。俺の身長くらい長いんじゃないか? ここまで伸ばすの大変だっただろうな……。


 ……というかめちゃくちゃ可愛いな。

 成人してるようには見えないが、すぅすぅと寝息を立てている少女の顔はスタイルともに非常に整っていた。

 ……いや、少し痩せすぎかな? 腕も死ぬほど細い。


 ふむふむふむふむふむ。

 そして案の定シャルミナに抱えられた少女は傷だらけで、何かワクワクするような背後関係があるようにも見える。



 ──厨二病仲間来たぁぁぁあああ!!!(二度目)



 これは!!! 間違いなく!!!

 シャルミナが用意した新たなる厨二病仲間!!!


 なぜなら少女の手には、俺がそこら辺の電柱に無許可で貼り付けた『助けが欲しいか?』と適当抜かして書いた例の紙が握られていたからだ!!!

 それが無かったら俺はホンマに怪我したんじゃないか……? と心配したものだが、アレが握られているということはきっと怪我もシャルミナが施した特殊メイクとかに違いない。


 もしも俺の予想が当たっているならば……。


「シャルミナ、彼女をこちらに。回復してあげなさい」

「……もしかしたら敵組織のスパイかもしれないわよ? 連れてきたあたしが言うのも何だけど、本当に良いのかしら?」

「あぁ。もしもそうだとして……私も君も、傷だらけの少女を放っておけるほど気が長くないだろう?」

「ふふ……あたし、本当にボスのそういうところ好きよ」

「そうか」


 きゅ、急に好きとか言うなよ……。

 演技だとしてもシャルミナほどの美少女にそんなこと言われたら照れるに決まってるだろうが!! いやあ、やっぱり仮面をずっと着けてて良かったな。表情がバレないのが一番良いわ。


 内心慌てながら仮面の素晴らしさを語っていると、シャルミナは俺が指し示したソファに少女を横たわらせると、不意に手をかざし始めて言った。


「──精霊よ、我が祈りに応えて数多の傷を癒したまへ《ヒール》」


 相変わらずどうやって発しているか分からない緑色の光がシャルミナの手のひらから放射され、少女の至るところにあった傷が徐々に消えていく。


 ふっ、やっぱりな。

 シャルミナ自身の手で施された特殊メイクだからこそ、謎の光によって傷メイクを消せるに違いない。……抜かりがないな、まったく。

 あと詠唱が普通にカッコいい。俺もホームセンターでライトとか買って適当に詠唱しながら敵役のキャストにぶち当てようかな。

 

 うん、そうだ。明日にでもホームセンターに行こう。

 あと骨董屋も寄ってまた新たな骨董品でも仕入れるか。



「……んっ……えっ…………だ、だれ……」


 傷がさっぱり消えたタイミングで少女が目覚めた(フリをした)。

 少女は囲むように上から見下ろす俺たちを見るやいなや、怯えた表情で体を震わせながらヨタヨタとソファから立ち上がって距離を取った。


 ……くっ、演技が……上手い……ッッ!!

 あと声もめっちゃくちゃ可愛くてヤバい……!!


 マジでシャルミナはどこからこんな逸材を連れてきてるわけ? 厨二病専門の劇団とかでもあったりする? 俺に紹介してくれないかな? めっちゃ時給弾むぜ??


「────っ」


 というかッッ!!! 俺は思わず息を飲んだ。

 こ、この女の子オッドアイだ!!!!


 やべぇ!! かっけぇ!!

 しかも左目がなんか見たことないような目をしている!!

 まるで星が瞬いているかのような、幻想的な瞳だ。

 美しいなんてものじゃない。少女の長い銀髪も相まって、どことなくこの世のものではない人間離れした雰囲気すらも感じる。 

 

 ふぅ……落ち着け落ち着け……興奮するのはまだ早い。

  ……ごほん、とはいえ今は設定に忠実に。


「──君が、助けを欲していたから。……その紙」

「……あっ……あ、あの、これを書いたのはあなた、ですか」

「そうだ。まあ、実際に君を見つけたのはシャルミナ……そこにいる彼女だがね」


 すると少女は、微かに緊張を解いた様子でおずおずと俺とシャルミナの姿を観察するような目で見た。  

 未だ警戒している……と言わんばかりの動きだ。

 小動物みたいで可愛いな。


「警戒しないでも大丈夫よ。あたしたちにあなたを傷つける理由も無いし……ここには高度な隠蔽結界があるわ。きっとあなた追われているのでしょうけど……見つかることは無いと言っても良いわよ」

「……ほ、ほんとうですか。あなたたちは……わたしを傷つけないですか……? 殴らないですか……? 蹴ったり刺したりしないですか……?」

「……ッッ、ええ、しないわよ」


 シャルミナは一瞬怒りに顔を歪めるが、すぐさま笑顔を少女に見せると、安心させるように頷いた。

 ……え、なにそれ怖い。

 なるほどな……かなり闇のある設定なんだな、今回は。


「少なくとも、君もまだ私たちを信用することは不可能だろう。だから、とりあえずは好きなだけここにいると良い」

「あ、ありがとう……ございます……」 

 

 ぺこりと頭を下げる少女に、気にするなと手を振る。

 すると、ちょいちょいと俺を手で呼ぶシャルミナの姿が視界に映った。


「少しここで待っていてくれ」


 少女にそう言うと、俺は部屋を出たシャルミナの後を追いかける。


「……良いの? ボス。すぐに勧誘しなくて」

「彼女が私に求めたのは庇護だ。協力者ではない。……それに、あれだけ怯えているのだから、まずは信頼関係を築くのが先決だろう」

「……それもそうね。……ボスの"異能"は協力者を見つけるものではないのね……」


 シャルミナは考え込みながら何かをボソリと言った。

 異能がなんちゃらとか言ってたけど、まだ新たな設定でも考えついたのだろうか。その発想力を少しで良いので俺に分け与えてください。


 ……にしても、すぐに勧誘しないのかとはシャルミナもせっかちだなぁ……こういう怯えるキャラの娘がいる場合は徐々に信頼関係を築き上げて……決定的な何かが起きて仲間になる……!! ってシナリオのほうがロマンあるくない?


 よぉし、俺も張り切ってシチュエーション作るぞ。

 とりあえずはお腹空いてるかもしれねぇし、適当に昼メシでも作ってあの女の子に食べさせるとしよう!!!


 



☆☆☆


「……っ、うぅ……んっ……」



 なんかご飯振る舞ったら泣き始めたんだけどなんでや。

 そんなに俺の料理不味かった? ごめんて。

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