第38話 助言




 夢だとわかった。

 じいちゃんが目の前に居たからだ。

 けど。

 ばあちゃんに会えなかったからめちゃくちゃ落胆しているのだろうか。

 じいちゃんがさらにじいちゃんになっていた。

 皺が増えて、脂肪や筋肉が一気に削げて、頬は内に沈み腕や脚が枯れ枝のようになっていた。

 俺がばあちゃんに会って来たら、なんて気軽に言ったから。

 会えないことも想定しなくちゃいけなかったのに。

 じいちゃん、あんなにうきうきしていたのに。


「じいちゃん。ごめん。俺」

「いいや。竹葉。いいんだ。おめえが謝る必要なんかこれっぽっちもないぞ。じいちゃんが決めたんだ。ばあちゃんに会いに行くって。だから。いいんだ」

「でも。じいちゃん。ばあちゃんに。会えなかったん、だよね?」

「いいや。会えた」

「え?会えたの?じゃあ、何でそんなに搾り取られたような姿になっちゃったの?」

「ばあちゃんに搾り取られたから」

「え?」

「あたしのところに来る暇があったら、竹葉に憑りついてろって。叱られまくってよ。はは。元気そうで何よりだ。あれじゃあ、当分は来ないな」

「はは。だね」

「あ。安心しろよ。おめえに憑りつきはしねえから。けど。行き詰ってるみてえだからよ。じいちゃんが助言しようと思ってよ」

「え!ほんと!?」

「おうよ」

「じいちゃん」

「竹職人を諦めろ」

「え゛?」

「思し召しだ。竹職人を諦めろって。だから。スパッと。竹を割るように。な?」

「じいちゃん。使い方が違うような。それに。言ったじゃん。やり遂げるって。俺。諦めないよ」

「えー。夢の中だけでも言っていいんだぞ。どうすればいいかわからなくて辛いだろ。諦めたいーって言っていいんだぞ」

「言わないよ。もう。じいちゃん」

「へへ。そっか。そうか。なら。別の助言を。って、言いたいとこだけど。じいちゃんもさっぱりわからねえから、あの世に帰る前に何か助言を見つけ出すからよ。じゃねえと。ばあちゃんに辛うじて存在しているこの残りかすも搾り取られちまう」

「じいちゃん」

「はは。じゃあ。あ。でも。その前に」












「………あの。大丈夫ですか?」

「だいじょーぶに見える?」


 突然出現した原符の、その祖父に負けないくらい搾り取られた姿を見て、だめだと思うと同時に、どうしてか、ほっと安堵した竹葉であった。











(2022.10.26)


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る