第14話 竹笛
「貴様は赤木竹葉だな」
「っはい」
一切殺気が宿っていないにもかかわらず、ただ見られているだけで氷のように固まりそうな鋭い目つきを間近に受けた竹葉は身震いがした。
下っ端にもかかわらず名前を知ってもらえているという歓喜と、今はまだ対面する実力と覚悟がないという恐怖故である。
直立不動を保つ竹葉に、攻撃対象ではないと判断した竹葉の憧れの君であり、国で最強と謳われる
「魔女から話は聞いている。竹職人と剣士の二足の草鞋を目指すそうだな」
「っはい」
「ふむ」
天勝は口を閉ざして竹葉を注視したのち、刀を帯びた腰とは逆方向に下げている竹笛を持ち上げて、持って帰ってくれないかと言った。
「問題が起きて唯一存在していた竹職人が竹職人ではなくなったと魔女から聞いてはいるが、知識は奪われてないとも聞いているので、もしかしたら直せるかもしれないと思ってな。俺が自分で直せたらよかったんだが、俺が手を加えてもどうにも音の調子が悪いままだ。本来なら俺が直接行くべきなんだが、時間がないのだ。だからよろしく頼む」
「は、はい!」
竹葉は胸元に入れていた布で両の手を丁寧に拭ってから差し出し、竹笛を受け取ろうとしたのだが。
「ふむ。だめか」
受け取れなかった。
まるでとても小さく圧縮された台風が竹葉の手と竹笛の間に発生して、受け取りを拒絶しているようだった。
スース―と冷たく、ひりひりと痛みを感じた竹葉は、咄嗟に後方へと手を引いた。
竹笛が傷ついてはならないと思ったからだったが、天勝に竹笛が貴様を拒んでいるなと言われて、竹笛を傷つけているわけではないとわかり安堵しつつ、どういうことだと一瞬戸惑ったがすぐに答えが出た。
「俺が竹職人じゃないからですか?」
「そうかもしれないしそうではないかもしれない。しかし理由が何にせよ。竹笛が拒んでいるのであれば、貴様に預けるわけにはいかないな」
「はい」
「そう気落ちするな。こいつが単に気紛れ屋なだけかもしれんし、もしくは他人に預けずに俺にどうにかしろと言っているだけかもしれないしな。ふむ、そう言えば、今更だが、何故貴様は突然ここに現れたんだ?」
「それはあの、じゃぼん岩に触れてしまって。あの。鍛錬不足です失礼します」
じゃぼん岩に期待してしまったこと。
竹笛を受け取れなかったこと。
竹職人一本に絞らずに剣士も諦めないなんて豪語してしまったこと。
ここに立つ資格がないと改めて強く認識したこと。
全部が全部恥ずかしくなった竹葉は深く頭を下げると、脱兎の如くこの場から逃げ去って行った。
(2022.10.4)
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