3-4 『魔石』と『魔骨石』と『魔鉱石』


 少々、話が脱線してきたようだ。


 魔物から得られる『魔石』と『魔鉱石(まこうせき)』の違いに話を戻そう。


 『魔石』と『魔鉱石(まこうせき)』では何が違うのか?

 サノスやワイアットが身に着けている『オークの魔石』と、母(フェリス)から届いた『魔鉱石(まこうせき)』では何が違うのか?



 1つ目の違いは、その生成方法と成分に違いがある。


 先ほども述べたが、『オークの魔石』等の魔物から得られる『魔石』は、魔物の体内で生成される。

 一方、『魔鉱石(まこうせき)』はエルフに伝わる秘伝で特定の鉱石を用いて作られる。

 『魔鉱石(まこうせき)』の製造法方は俺でも知らない。

 母(フェリス)は知っているようだが、俺には伝授されていない。


 俺が以前に勤めていた研究所には『魔石』を調査分析する部門がある。


 この部門では、幾多の魔物から得られた『魔石』を調査分析していた。

 その部門の報告によると、魔物から得られる『魔石』には、各魔物の骨等と同じ成分が大量に含まれているという。

 例えば『オークの魔石』では、オークその物の骨と同じ成分が含まれているというのだ。

 この報告に触れた魔道師や魔法使いは、魔物の骨等を取り寄せ『魔素』の充填を試み成功した。

 出来上がったのは『魔骨石(まこっせき)』と呼ばれ『魔石』の代替品として流通している。

 『魔骨石(まこっせき)』の登場は、市中の魔道師や魔法使いの凌ぎを増やし『魔法円』と組み合わせて王国経済の活性化に繋がった。


 『魔鉱石(まこうせき)』に話を戻そう。


 何の因果か、研究所の『魔石』を調査分析する部門が『魔鉱石(まこうせき)』を手に入れた。

 大胆にもこの部門は『魔鉱石(まこうせき)』の一部を切り取り、その成分の調査分析に挑んだ。

 部門が『魔鉱石(まこうせき)』を調査分析した結果、魔道師や魔法使いにとって興味深い調査分析結果が報告される。

 『魔鉱石(まこうせき)』には、魔物から得られる『魔石』のような、魔物由来の成分が一切含まれていないというのだ。


 この報告は、またしても魔道師や魔法使い達にとって興味深い題材となった。

 何故なら『空の魔石』に『魔素』を充填する事を生業にする魔道師にとっては、『魔素』を入れる器とも言える『魔石』を魔物から得る必要が無いからだ。


 この『魔石』を調査分析する部門の報告を受けて、著明な魔道師や有名な魔法使いが挑戦した。

 『魔鉱石(まこうせき)』と同じ成分の鉱石を取り寄せ、『魔素』の充填を試みるが上手く行かない。

 果てには類似した成分の鉱石へ『魔素』を充填しようとするものも現れた。


 そうした背景からか、俺の研究所時代には『魔石』を調べる部門が執拗にハーフエルフの俺に纏わりついてきた。

 エルフに伝わる秘伝を教えろと迫ってきたのだ。

 けれどもエルフの秘伝を知らない俺に近付いても、彼等は何も得られなかった。



 2つ目の違いは『魔素』の保有量に関わる違いだ。


 『魔鉱石(まこうせき)』は同質量の『オークの魔石』と比較にならない『魔素』を保有できると言われている。

 だが、残念ながら『魔鉱石(まこうせき)』が保有できる『魔素』量は明確に測定されていない。

 理由は簡単で『魔素』量を数値化して計る手段が無いからだ。


 それでも『魔鉱石(まこうせき)』が保有する『魔素』の量を調べる実験は行われた。


 まずは『魔鉱石(まこうせき)』⇒『魔石』方向での『魔素』充填の実験が行われた。

 実験には成功し3個分の『魔素』の充填に成功した段階で中断となった。


 続けて『魔石』⇒『魔鉱石(まこうせき)』方向での『魔素』充填の実験が行われた。

 これは4個分の『オークの魔石』が空になった段階で中断となった。


 中断となったのは実験を実行した魔道師と回復魔術師の2名が実験中に『魔力切れ』で亡くなったからだ。

 『魔鉱石(まこうせき)』に関わる実験は、この死亡事故で中断となった。


 この中断された『魔鉱石(まこうせき)』の実験は再開されなかった。

 実は研究所が手に入れた『魔鉱石(まこうせき)』は、エルフの長から魔王国との戦闘に出兵が決まった父(ランドル)への励ましの品物として贈られた物の1つだった。

 どんな経緯で、そんな物が研究所に持ち込まれたかは不明だ。


 後に行われた王国議会命令での調査でも、父(ランドル)=ケユール家の誰もが、その存在を知らなかったと判明した。

 父(ランドル)が俺を思って研究所に渡した説も囁かれた。

 エルフ絡みと言うことで、正妻(ダイアナ)が母(フェリス)への嫌がらせで研究所に流した説。

 またエルフ絡みと言うことで、母(フェリス)が俺を思って研究所に渡した説も出てきた。


 何れにせよ『魔鉱石(まこうせき)』を入手した部門は、大胆にも『魔鉱石(まこうせき)』を切断して成分を分析し、保有できる『魔素』量を調べる実験を強行し、死者を出してしまった。


 そうした事実が国王の耳に入り、研究所では『魔鉱石(まこうせき)』への調査分析は全てが中止となった。

 対象となった『魔鉱石(まこうせき)』は国王に没収され、王城の宝物庫で厳重に保管されているという。


 また、当時の研究所は『魔法円』の産業化に舵を切ろうとした時期でもあり、研究所は大きな組織編成の変更も求められるに至ってしまった。



 ここまでの話を整理しよう。


・『魔石(ませき)』

 魔物から得られる『魔石』を指す。

 『魔石』本体の組成は、得られた元になる魔物の骨等と同じ物が主成分となっている。

 魔物であるオークから得られた『魔石』は『オークの魔石』と呼ばれ、『魔石』を得た魔物の名前が付される。


・『魔骨石(まこっせき)』

 魔物の骨等を使い、市中の魔道師や魔法使いが『魔素』を充填したもの。

 『魔素』の保有量は『魔石』よりも少なく『魔石』の代替品として実際に流通している。

 オークの骨等から造られた物は『魔石』と同じく、『オークの魔骨石(まこっせき)』と魔物の名が付されている。


・『魔鉱石(まこうせき)』

 エルフの秘術で造られた『魔石』で、その主成分は鉱石とされている。

 幾多の魔道師や魔法使いが製造に挑んだが成功した例は報告されていない。

 『魔素』保有量が膨大らしいが、実際の計測調査は国王命令で中止されている。

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