1-10 冒険者と冒険者ギルド


 俺が住み、俺が店を持ったリアルデイルの街中を歩き、俺が向かっているのは冒険者ギルドの建物だ。


 冒険者ギルドとは『冒険者(ぼうけんしゃ)』と呼ばれる、自由業な方達を取りまとめる組織のことだ。

 そもそも冒険者とは、己の力に自信があり、国王や領主や雇主(やといぬし)に忠誠を誓わず、己の義侠心(ぎきょうしん)を第一にしたいもの達が選ぶ職業と言われている。


 この冒険者、男性だけではない。

 中には体格や戦闘に自信のある女性も冒険者として活動している。

 彼ら彼女は『冒険者』と呼ばれてはいるが、探検者であり、探索者であり、狩人であり、護衛であり、傭兵でもある。

 その実、戦士だったり、俺と同じ魔道師だったりと特定の技能を持っている。

 だが、特定の雇主を持たないために、日雇労働の立場なのも事実だ。


 そんな冒険者な方々を取り纏め、一般市民からの依頼や国や領主からの依頼を、仕事として冒険者に斡旋するのが冒険者ギルドの役割だ。


 このリアルデイルの街は東西南北からの街道が交差する街だ。

 荷馬車が街道を行き交い、物資が運ばれ、売買され再び運ばれて行く。

 その街道には、魔物や盗賊が時として現れる。

 それに伴って、この街の冒険者達は魔物を狩り街道の安全を高め、盗賊から物資を守るのが主な仕事になっている。


 冒険者によって狩られた魔物は、一応、資源となる。

 魔物の牙や皮革は、魔物が持っていた魔法を再現する誘導体となる傾向が高く武器や防具の素材となる。

 また魔物の一部の肉は食料にもなる。

 オークと呼ばれる二足歩行の豚の魔物の肉などは、歴(れっき)とした食料と認識されている。

 そして魔物から得られる『魔石』は、俺のような魔道師が欲するものでもある。


 一方、冒険者が成敗する盗賊は『人間』であるため、何の資源にもならない。

 盗賊を成敗して得られるのは、領主や国からの報奨金と、盗賊が溜め込んでいた金品、そして治安向上を手助けした名誉ぐらいだろう。

 なぜなら人間を魔物のように資源や素材として扱うことは、宗教的に許されないからだ。


 国や領主が兵を出して魔物や盗賊を退治する方法もあるが、そうしたことが行える規模の兵団を常に抱えることは多額の費用が発生してしまう。

 その為に一時雇用の冒険者という職業が成立しているのも事実だ。


 この冒険者の中には、古代の遺跡に出向き、探検者としての活動を好む者達もいる。

 古代の遺跡からは、時として宝石や古代金貨、有益な『魔道具』や『魔法円』が発見されることがあるからだ。

 古代遺跡から得られる品々も冒険者ギルドは買い上げる。

 そして買い上げられた魔物からの資源や肉、古代遺跡からの品々は、それを欲する組織に転売される。

 例えば古代の遺跡からの古代金貨や宝石は美術商が買い上げて行く。

 『魔法円』と『魔道具』は『王国魔法研究所』や俺より金を持っている魔道師が買い上げて行く。


 こうした冒険者や冒険者ギルド、そしてそれを取り巻く仕組みは、この国の経済を回す一端を担っているとも言えるだろう。


 冒険者ギルドの建物に入って、直ぐに顔見知りの冒険者から声を掛けられた。


「よう、イチノス! あの水出しはかなり便利だな。重宝してるよ」


 彼は先週、俺の店に『水出しの魔法円』を求めに来た冒険者だ。


「そうか、それは良かった。『魔力切れ』には注意しろよ」

「ああ、大丈夫だ。これがあるから」


 そう言って彼は首に下げた黒いヒモに指をやる。

 そう言えば彼は一緒に『魔石』も購入していたな。

 ああして布で包んで首からぶら下げてるのだろう。


「今日は薬草の仕入れか?」

「いや、ワイアットを探してるんだ」


「ワイアットか? あいつならギルドには居ないぞ」

「そうか⋯」


「向かいの食堂か、いや、風呂屋かも知れんな、それとも家に戻ったか⋯」

「わかった、もうギルドには居ないんだな?」


「ああ、昼に護衛から戻ってきて若い奴に捕まって⋯ 消えたよ(笑」

「わかった、ありがとう」


 そう告げて話を切り上げ、俺はギルドのカウンターに向かった。


 ギルドの受け付けに座っている馴染みの女性に声をかける。


「こんにちは」

「あら、イチノスさん」


「ちょっと教えて欲しいんだが⋯」

「はい、何でしょう?」


「ワイアットを見かけなかったか?」

「⋯⋯」


 そこで黙りですか?

 確かに、誰が何処に居るかを彼女が答える義務はない。

 冒険者ギルドでは、冒険者の所在を教えない規則になっている。

 これは、どの冒険者がどんな仕事をしているかを知らせるに等しいからだ。

 冒険者ギルドは、冒険者の自由業である権利を、頑ななまでに守ろうとする。

 だからこそ冒険者は冒険者ギルドから受けた依頼を真摯にこなそうと努めるのだ。


「イチノスさん、ワイアットさんをお探しですか?」

「いや、知ってたら教えて欲しかったんだ」


「では、ご依頼ですね(ニッコリ」

「⋯⋯」


 この女性、固いというか職務に忠実というか⋯


「いや、そうじゃなくて⋯」

「人探しや、お目当ての方への伝令であれば依頼になります。見習い冒険者さんが担当すると思いますが依頼を出しますか?」


 はいはい。

 冒険者ギルドでは、そうした依頼も仕事として受けてますね。

 さっきのヴァスコやアベルは、以前はそうした伝令の仕事も受けてたんだな。


「わかった。依頼を出そう」

「ありがとうございます。ワイアットさんへの伝令で良いですね」


 俺も冒険者ギルドや冒険者には世話になっている身分だ。

 ポーション作りに使う薬草や、魔物から取れる魔石を得るために、冒険者ギルドを利用し冒険者な方々に頑張って貰っている身分だ。

 伝令の依頼だが、ここで見習い冒険者の稼ぎに貢献するべきだろう。


「ああ、それでお願いする」

「伝令は手紙にしますか?」


「手紙にする。期限はそうだな⋯ 明日の朝までに渡して欲しい」

「ちょっと急ぎですね(笑」


 そう言って、受付の女性は手紙の伝令で使われる冒険者ギルドの印の入った用紙を渡してきた。

 その用紙を受けとり、次の内容で手紙を書いた。


ワイアット殿


 ヴァスコとアベルの件で会って相談がしたい。

 可能な日時を知らせて欲しい。


            イチノス


「では、こちらの封筒に納めてください」


 そう言って彼女が封筒を渡してきた。

 この封筒にも冒険者ギルドの印が押されている。


 俺は自分が書いた手紙を封筒に納めて彼女に渡すと、その場で彼女は糊付けした。

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