第10話 見えない王子様

兵士たちが戻ってから数日経ったが、誰も王子の事は気にしていない。

国王のサルシも気にしなくなっている。

みんな王子はもう帰ってこないと思っているのがネリカには寂しい。

ネリカだけは王子が生きている・・生きて帰ってくると信じている。

王子の事ばかり考えているネリカは失敗ばかりして侍従長に毎日、怒られている。


「ネリカ、またなの!」

「もうここはいいから外を掃除して!」

ネリカは二重の悲しみに包まれている。

王子の事をずっと考えているから失敗を繰り返してしまう。

今まで王子の世話ばかりしていたから居ない時間が長いと落ち着かないのだ。

姉弟のいないネリカにとってサーニは弟のように思っている。王子という立場を抜きにしても特別な存在だから寂しいし心配なのだ。

ネリカの悲しみなど知るよしもなく国中の人たちはもうサーニ王子の事を過去の人のように思ってる。

ネリカが一番悲しく思うのは国中が王子の事を忘れているからなのだ。


「あれほどみんなに優しくしていた王子様が帰ってこないのに誰も心配していない」

「王子様が可愛かわいそう」


ネリカが悲しみに暮れていたある日、元気な声が耳に響いた。

「ただいま~」

突然、行方知らずだったサーニが帰ってきたが、誰も気付かない。

「あれ、どうしたの?」

「みんな大好き!王子様が帰って来たんだよ~」

いくら呼んでも誰一人気付く者がいない。

誰にも気付いてもらえないと落ち込みたくなるがサーニに”落ち込む”という言葉はない。


「みんな、機嫌悪いの?それとも忙しいのかな。」

「そうだ!父上にあいさつに行こう」

「僕が帰ってきたことを知らせないと」

そして、玉座にやってきてサルシに「ただいま~父上~」とあいさつしたが全く顔を向くこともしない。

「父上も機嫌が悪いのかな?」

不思議な顔をして玉座の間を後にしたサーニ。


城中を歩き回っても誰も気付いていない。

「う~ん、本当にみんなどうしたのかな?」

「みんなの好きな王子様が帰ってきたのに」

何が何だか分からないまま城の中を歩いていると呼ぶ声が聞こえた。

「おう・・じ・・さま?」

「今、誰か呼んだ?」

「王子様、無事・・・」

そこまで言って止めた。


サーニが振り返るとネリカがいた。

「あ、ネリカ!ただいま~」

「おかえりなさい王子様・・じゃなくてどうしたんですか?」

「どうしたの?僕だよ。王子様だよ」

「それは分かっていますが、私の言いたいのはそのお姿です!」


サーニの身体はうすかった。

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