アンタ

 おや、久しぶりに何かを見たな。

 アンタの目、こんな暗がりでも星みたいに光るんだね。真っ黒な宙にガラス玉が二つ浮いてるようだよ。一体どこから来たんだい? 俺ァもうずっと……はて、どこから歩いてきたんだっけな。まあとにかく、ずうっと遠くから歩いてきたんだけれども、ここは一度も夜明けが来なくってさ、だからアンタの瞳の光すらそれはもう有難くなるもんなんだよ。

 いつか最後に見た光は、赤くて、目が潰れそうになったもんだ。あっちから俺ンとこへ近づいてきて、手を差し出して、「友達になってくれ」と言ってさ。笑っちまうよな。そういえば丁度アンタと同じ赤色だったっけ。

 俺ァ律儀に握り返したけれども、熱くって握り続けられたもんじゃねぇ。火傷しちまうってんで思わず振り払ったら、ヤツは「ごめん」なんて言うんだよ。俺の友達になりたいってんなら振り払うのも構わずに、ずっと握っていりゃあよかったんだ。そうしたら俺は火傷を負わせたヤツを一生忘れなかったさ。今じゃあ顔も朧げだよ。声なんか最初に忘れたよ。覚えてンのは手の熱だけだ……。

 んん? なんだよ急に、改まって。アンタも俺と友達になりたいって? 握手から始めようなんて、粋なことをするもんだ。

 どら、俺の手を握ってくれよ。暗くってよく見えねぇからよ。アンタの目なら見えるだろうよ。ああ、そうだ、ぎっとやってくんな。ぎっと、ほら。

 んん? おや。これは……。

 ははっ、なんだ、アンタだったのかい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る