若きギャングが殺そうとしていた相手の娘に一目ぼれした話

クリヲネ

第1話

佐藤小太郎さとうこたろうside


「なんで、俺が……こんな目に」


 俺は佐藤小太郎40歳、俺は今明らかに堅気かたぎではない人たちに追われている。きっかけは昨晩会社で、怪しげな取引を目にしてしまったことだ。なんとかごまかしその場からは逃げたものの、今日の朝、雨の降りしきる中、通勤に使っている駅に着くと手をつかまれ、背中に硬いもの――おそらく拳銃――を押し付けられた。人もたくさんいる中で発砲はできないだろうと判断し、必死に振り切って逃げてきたが、もうここまでだろう。


「はよ出てこないと家族が痛い思いすることになるぞ! オラッ、早く出てこんかい!!」


 家族…………俺の脳裏に妻と17歳の娘の姿が浮かぶ。学生時代から付き合って結婚し今でも仲の良い妻と、今日の朝も顔色の悪い俺を心配してくれた可愛くて気立てのいいよくできた娘……どうにかできないのか、愛する妻子のために命を投げ出すしかないのか。


「――こっちだ」


 突然路地裏から声が聞こえる。

 罠でもなんでもいいから、なんとかしたい。藁にもすがる思いで狭い路地を抜けてクローズドの札がかかっているバーの前に出る。だが人影は見えない。


「どこだ? ――ッ!」


 扉から腕が出てきて、突然口を押えられ、バーの中に引きずり込まれる。


「こんにちは。佐藤小太郎さん、だったかな? 運が悪かったね」

「お前もッ……」


 そこにはスーツ姿のいかつい男が3人いて、真ん中に赤いスーツを着た若い男がいる。今話しかけているのは若い男だ。しかし彼らもとても堅気には見えない。


「おっと、言葉遣いに気を付けたほうがいいよ? それに僕たちはあいつらとは違う」

「君たち堅気じゃないだろう、それに違うってどこがだよ」


 どっからどう見ても同じアンダーグラウンドな人間だ。


「紹介が遅れたね、僕は大神だ。君を追いかけていたのは金宮という男で、同じブラックカンパニーという組織に所属している。僕の担当は情報・地下娯楽施設『ヘヴン』の運営、彼はカネだ。汚いカネもきれいなカネも集めて、増やす。君が見てしまったのは汚いカネの取引だろう」


 そんなことはいいんだ。


「頼む、俺を……妻子を助けてくれ」

「そこが彼と違うところだ。妻子は助けてやる、商品として価値があるからだ。だがお前はダメだ。首を持って行って彼に貸しを作る、そうすればもう少しカネを回してくれるだろう」


 この顔からするに、この男――大神も金宮ってのにいい感情は抱いてないんだろう。だが俺は死ぬ、妻子を救ってくれるだけ感謝するか……


「リーダー、別動隊から連絡です」

「成功したようだな、最期に奥さんと娘さんの声でも聞かせてやるか……いいだろう、ビデオでつなげ」

『――お父さん! 無事なの? お兄さん、お父さんは父は無事でしょうか』


 娘の声が流れてきた、後ろからは妻のすすり泣きが聞こえる。絞り出すように応える。


花梨かりん、お父さんだ。無事だよ、今のところは……な。これからそのお兄さんに俺は殺され「――この方は本当の娘さんなんですよね?」え? そうだが」

「……作戦は変更だ、車を呼べ。こいつはうちで引き取ろう、異論はないな」


 なぜか命は助かりそうな雰囲気になってきた。


『奥さんと娘さんはどうしますか?』

「事務所に連れてきてくれ、僕たちも向かう」

「ちょっと待ってくれ、いきなりで……俺は助かるのか?」

「そうですよ、お義父とうさん。さあ車に乗ってください、高級車ですよ」

「あ、どうも」

「さあさあ」


 背中を押されるように裏口から出て、やけに車高の低い黒い車の後部座席に乗せられる。大神は助手席に座り、一番でかいのが運転席に座り静かに発進した。

 大神はくるくると拳銃を回しているかと思えば、手鏡をのぞき込んでぼーっとしたりしている。突然機嫌がよくなったのか? それにさっきから優しいような、どういうことだ?





☆☆☆☆

 一話だけだとあれかなと思うので、二話と同時に出てると思います。もう片方の話と両立しつつ頑張ります。

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