無花果

軽気球を見送った後、警官隊は舟のように揺れる橋の上に立ち、眼下に見下ろす惨状を見つめた。

警官隊の一人が言った。

「ひどいものですよ、警視殿。あの女、人を一人殺しましたね」

「......そうだなあ......」

「あれは......人間ではないな......鬼だ」

「ええ」

「人喰い鬼ですよ!」

「うむむ」

警官たちは、欄干に立って身を乗り出した。

そこには、川面に広がる赤黒い血だまりと、散乱する人間の遺体があった。

その中には、見覚えのある顔もあった。

つい昨日の事だ。

それは、ある民家の前を通る時だった。

奥さんが産気づいたのだ。

産婆さんが中に居る間に、旦那である主人を呼んで来いというので、奥さんと一緒に部屋に行くと、旦那は既に部屋の中で死んでいたのだ。

産婆さんも死体となって発見されたのである。

「おぎゃああ、おぎゃあああーーっ!! うわああああーーーん!!」

産婆さんは、赤ん坊の泣き声に気付いた。

すると、産婆さんの腹の中から、“どん”と大きな音がなったかと思うと、すぐに泣き声は消え失せた。

産婆さんが恐る恐る腹を覗くと、そこには頭だけが浮いていた!

頭の下からどさりと倒れたのは夫の体であった。

妻の体が何処に消えたのか?

疑問は解決されないままに、また新たな犠牲者がうまれたのである。

こうして、事件が起きた場所は次々に変えられて行くのであった――。

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