未完の小説(短編集)

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第1話 愉快な猫

私は猫だ。

どこで生まれたかすらわからぬ、我が生の始まりを知らぬのだ。

ただ覚えているのは、暗く狭い場所に閉じ込められていたこと、そして壁や床が淡く光っていたことだけである。

それだけを頼りに生きてきた我が名は“ねこ”というらしいのだが......その猫の名も姿も分からぬのでは、これからどうしていけばよいのか見当もつかんぞ?

そもそもここは何処なのだ?

私はどこへ向かって歩いている?

いや......それ以前に何故ここに居るのかさえわからないのだが。

誰か説明せぬか! この何も判らぬ不安、恐怖、心細さをどうにかして晴らせたなら良いのに......!

とことこ歩いていると、やがて目の前に巨大な扉が現れた。

その扉が突然開き始め――否(いな)っ、この中に引き込まれたらまずいッ!! そう思った時にはもう遅く、私は既に扉の中にいた。

その扉を抜ければそこはまた見知らぬ場所だった。

どうやら屋内のようだけれど......窓が無い!? まさか地下なのか......?

「ようこそいらっしゃいました」

そこに居たのは一頭の馬であった。

しかも喋っているだとッ!?

これも魔法の一種であろうか? 何にせよありがたい。

「貴方は?」

『我はミドリ。ここより更に下層にある世界“ユグドラシル”を管理するaiだ』

ほう、管理者ならば道がわかるかもしれぬな。

しかし“ユグドラシル”とはどこの国の言語なのだろうか?

それにあの者が言った地名のことも聞きたいものだ。

「ここから出たいのですが......」

『そうか。では案内しよう、付いて来たまえ』

言うが早いか、その者は歩き出す。

慌てて追い縋りついてみれば、彼は立ち止まりこちらを振り返った。 「――そうそう言い忘れていたが」

その顔に浮かぶ笑みを見て理解する。

また何かを思いついたのだろう。

私が何を言っても止まるまいよ。

「君は人間ではないようだ」

「......そうですか。まぁ仕方ないですね」

実際そうなのだし、今更だ。

「人型にもなれぬようだが、それはどうかしたのかい?」

「どうもこうもないですよ。元々こういう生き物なんですから」

「ふむ......?」

私の言葉を聞いて、首を傾げる者。

「あぁそういえば、貴方の名前はなんと言うのですか?」

「私かい? 私には名前がないのだよ。君の好きに呼ぶといい」

「なるほど、では......」 少しの間の後――

「貴方はにゃん太なのですにゃあ」

「なに?」

「にゃん太。それが貴方の名ですにゃー」

これが私と彼の出会いであり、私が生きる為の全てが始まった瞬間でした

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