第2話 謎の彼女について………。
「ただいま」
と、帰りを知らせると、辰爾は外で行っていた猪の解体を一旦止めて、おかえり、とだけ言ってまた解体作業に戻っていった。
それは手作業でやっているので時間がかかる。
なんでも、魔法で切るより美味しくできるからだそうで。
「シャルル、辰爾が夕食を作り終えるまでの間、聞いておきたいことが幾つかある。
後、言っておきたいことも。どうせ辰爾は外のこと何一つ教えてないだろうから」
「ん、分かった」
「まず一つ。
君は今日見たその女性をどう思った?
あくまで直感の話だから深く考えないで」
「直感………か………。それだけで考えるとどこかツンとした感じだったかな?
でも、動き出すと………」
ここで言葉が詰まる。
「動き出すと、何?」
「動き出すと、冷たかったのが急にあの太陽に当てられた様に熱く感じだ。別に俺に向かってきた
(そうか。シャルルが今日あったのは少なくとも上位─────クラス5以上の冒険者、あるいはそれ以上か)
「じゃあ、シャルル。私から言っておきたいことが幾つかあるから言っておくね。
まず、勇者とか賢者とかは何となく分かるね」
頷く。
「じゃあ、この世界の詳細については知ってる………ワケないか。
説明するよ。
まずは、種族だね。種族についてはある程度教えてるけど、今からはその細かいところを教えていくよ。
七大種族は分かるね。
七大種族、それは神種、魔神種、龍種、天魔種、妖魔種、精霊種、人種の七つ。
そこから色んな種族が派生していく。
神種、魔神種、龍種からは派生が無く、その他四つから派生していくんだ。詳細は省くけど、その最上位の派生を十さ………」
「どうした?」
「いや、何でもないよ。
その最上位の派生を十二種族と言うんだ。
これが一個目だね。
次が戦いについてだ。
基礎となるのが魔素と魔力だよ。
自然に存在するあらゆるエネルギーの元が魔素で、それを自分に適合させるように練ったものが魔力だ。
魔法は魔力を使用して、術や技と言われるモノの一部は魔素を使用する。
そして、魔法や
魔法なら、元素魔法、精霊魔法、継承魔法で三竦み。深淵魔法、神聖魔法、核子魔法で三竦みとなっていて、スキルなら、コモンスキル、エクストラスキル、ユニークスキル、そして各種族の固有スキルと別れている。各スキルに
それに………」
難しい。俺には理解が追いつかないや。
ちょっと頼むから一旦止まってくれ。
「そこまで真剣に覚える必要はないよ」
頭を抱えている俺に、解体作業を終え、お茶を持ってきた辰爾が言った。
「軽くそんなのがあったな〜、って感じで覚えておけばいい。固く考えすぎるとただ生きづらいだけだよ。
他のことは追々覚えていけばいい」
その言葉に、まだまだ話したいことがあったなっぽいシノンも頷いた。
「他にもあったけど、それは後からでいいしね」
あー、しんどっ。
「今はもう、夕食にしようか」
丁度いいサイズにカットされた牡丹肉の臭みを抜き、下味を付け、揚げるといい匂いがしてきた。
完成した唐揚げを食べると、よく食べるあの唐揚げだった。一年に数回食べる料理だからか、飽きはせず毎回美味しくいただける。
辰爾の謎のこだわりで、上質な肉じゃないと唐揚げはしない。普通は逆だと思う。
やはり、これだけで一食が終わるな。
(まあ、三人分………ふたりと一匹(?)分合わせて7キロほどあるんだけどね)
食べ終わると、膨れ上がった腹を撫でる俺は、すぐに睡魔に負けて寝てしまった。
辺りももう真っ暗で星が見えるほどだから時間的にも遅いのだろうから当たり前なんだけどな。
「やあ、シノン。こんなところで何してるんだい?」
両手にホットコーヒーを持った辰爾が俺たちの住んでいる森が見渡せる場所の岩の上にいるシノンに話しかける。
スライムがコーヒーを飲むというちょっと異端な光景が広がった。
「白々しい。そういうのはいいから」
片方をシノンに渡す。
「結局、今日のその謎の女は誰だった?」
「僕の予想ならクラス5以上の冒険者。あるいはそれ以上………」
「お前も白々しいな。
で、実際ところは?」
「十中八九異世界人だ。もしかしたら、何かもう一つ………例えば賢者とかも兼ねてるかも知れない。一番厄介な勇者だけは避けたい。
後はシャルルから話を聞く限り、ユニークスキルを持ってるかもしれないってことかな。多分相当な猛者だろうね」
「そうか………。
そろそろ俺の終点ってところか?」
意味不明な『終点』という言葉に、シノンは意味も聞き返さず話を続けた。
どうやら何かを知っているらしい。
「結局、
「俺の逝去までだよ。
死に方、時間までは分岐が多くて絞れないが、俺の死は確定してるらしい」
「そっか。そうなんだね」
「そんな哀しい顔すんなよw
お前だって鬱陶しい邪龍が消えて清々するんじゃないのか?
確かにさ、基本俺はお前に逆らえなかったけど、それでも俺は結構な自由人だからな。お前もそろそろ呆れてきた頃じゃないのか?」
「アホか。
もうずっと昔に呆れてるよ。ただ目的が同じだったから一緒にいただけだ。まあ、性格の一致っていうのもあったけど。
僕達はある意味では姉弟、ある意味では家族でもあるからね。そんな間柄のヤツが死ぬっていうのに、清々するような輩がいるなら、それは僕じゃない。もし本当に居るのならこの僕が直々に息の根を止めに行ってやる」
「そうか」
「そろそろ僕はシャルルのところに向かうよ。どうせ、今日も寝相が悪くて風邪を引きかけるんだろうから」
シノンがスライムの身体を弾ませながらシャルルの下へ向かっていく。
「そうそう、一つ言い忘れていたよ。
300万年は一緒にいる仲なのに僕の性格を把握してないなんて、今日もまた、一つ呆れたよ、辰爾」
去っていくシノンの後ろ姿を見ながら飲むホットコーヒーに映る辰爾の顔は少しニヤけて笑っていた。
まるで、その返事を待っていたかのように。
「まあ、もう結構長いこと一緒にいるんだ。
俺だってお前がそう言ってくれると信じていたさ。
さてと、そろそろ俺にとっての決戦………いや、最終戦が来るだろうな。
いつかは分からないが、まあ一ヶ月以内なのは確かだな。
ここだけは、何がなんでも思い通りの
***
あれから七日程が過ぎていった。
丁度、朝日が見える日、俺はいつも起きない時間帯にふと目が覚めてしまう。
どうも今日は深くは眠れないらしい。
「こんなに綺麗な朝日、見るの何年ぶりだろう」
「もう起きたのか。早いな。
いつもならシノンを敷いてふたり仲良く寝ている時間帯なのに。
………まあ、確かに今日は少々冷やっとしてるからな、起きるのも無理ないかもしんねえな」
右耳にだけつけている赤い椛の耳飾りが、今日は、今日だけは何故だか一層輝いて見えた気がする。
赤い朝日の中に混じってもはっきりと存在を認識できる程度には。
「にしてもこの時間帯にしては静かだな。
ここ数日で一番静かかもしれん。
そろそろ動物・魔物が起き始めて活動を開始する頃なのに」
「そうなの?この時間帯起きてないから分かんね。
じゃあ、冷えてきたし帰る。めっちゃ寒い」
「分かった。風邪引くなよ?w」
まだ冷え切らず少しの温もりを含んだ身体を擦りながら俺は家へと帰っていった。
まだ季節は秋だからと言って衣替えしなかったことが裏目に出たな。
めっちゃ寒い。上一枚どっかから引っ張り出して来るか。
辰爾って寒くないんかな。まあ、季節問わず白いあの長袖の服だからな、まだ寒くは無いかもしれないけど。
「行ったか。
───さてと、この感じ。やはり、か。
この分岐、何がなんでも俺の望む道に進めてやる」
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