エバン VS ガイル 勝負の行方 その2
~エバン視点~
「エバン! お父様に負けるなよ!」
アルス様の声が聞こえる……
エバンはアルスを見たい気持ちを制御し、ガイルから視線を外さない。
こんな私を応援してくれる、アルス様の期待に答えるべく今まで訓練を積んできたんだ。
私は出来る。ガイル様に勝ち、認めてもらう。
エバンは自身を鼓舞する。そして、深く自身の集中を高めようと、自分へと言い聞かせる。
「おいおい。お父さんの応援はなしか? こりゃ、ますます負けられないな」
対してガイルは、緊張の一つもしておらず、笑みを浮かべたり、凹んだりしている様子であった。
ガイル様はこんな状況でも自然的だ。まるで私が相手ではないかのように。
「エバン、来ないのか? 先手は譲ってやるぞ」
ガイルは木剣を肩の乗せ、何処からでもかかってこいと言わんばかりの発言をする。
こんなチャンス、自分から捨てるほど馬鹿ではない。戦闘では常に先手先手を行くのが必勝。
「では、お言葉に甘えて……、いかせてもらいます!」
エバンは小さくフッ、と息を吐き、一瞬にしてガイルとの間合いを詰める。
まずは近づき、ガイル様の反応を見てから攻めに転じる。
凄い勢いで距離が縮む両者だったが、ガイルはエバンが自身の間合いに入っても一歩も動かず、エバンは焦りの表情を見せる。
まだ動かない? まだか…、まだか…。くっ、もう限界。
痺れを切らしたエバンは自身が放てる精一杯の威力で、ガイルの喉を狙い、鋭い突きを放つ。
これは……、もらった!
確信をもった一撃を繰り出し、小さく笑みを零すエバン。しかし……
「甘いな」
ガイルは正確な剣裁きでエバンの一撃をいなすと。最小限の動きで足をかけ、エバンを転ばす。
なっ! まだまだ!
エバンは転ばないよう、体幹に力を入れ、態勢を整えようとするが間に合わず、綺麗に受け身を取り、転びながら一回転すると、すぐに立ち上がり、ガイルへと剣を向ける。
「目線で攻撃がバレバレ。それが通用するのは格下だけだ。基本は……」
ガイルがエバンへと迫り、目線をエバンの右脇腹へそらす。その視線移動にエバンは咄嗟に右脇腹を剣で守る。
「それが甘いって……、言ってるんだ!」
視線で騙された!? くっ、ヤバイ!
ガイルはがら空きの左脇腹を木剣でフルスイングする。
「がはっ!」
もろに左わき腹にフルスイングが直撃。その衝撃でエバンがガイルから見て右方向に飛ばされ、ワンバウンドし、地面に転がる。
くっ……、早く立たないと。
エバンは激痛をこらえ、直ぐに起き上がろうとする。
「結構いいのが入ったな。じゃあ、このままいかせてもらうぞ!」
ガイルは確かな手ごたえを感じたのか、ニヤリと笑みを浮かべる。そして、自身より格下相手にも関わらず、容赦なく、追撃する。
やばい。ガイル様がくる……
怒涛の連攻から視線を外すことなくエバンは、痛みをこらえながら立ち上がり、木剣で牽制をはかる。そして、ガイルの足が止まったのを確認後、後ろへ飛び下がる。
しかし、それを許すガイルではなく
「そんな当てる気もない牽制は意味ない。牽制するなら相手を殺す気でやれ」
飛び下がったエバンに合わせるように、もう一度前へ出るガイル。
「ふん!」
そして、エバンの手首を狙った、正確無慈悲の一撃。
これが当たったら利き手である右手の負傷は免れない! こうなったら……
エバンは一か八か、手首を捻り、ガイルの一撃に上手く合わせてガード計る。
「お、この一手はいいな。だが……」
それを狙っていたと言わんばかりに、ガイルはエバンの木剣ごと弾き飛ばす。
い……、一撃が重い!
エバンの木剣は円弧を描くように、エバン後方へと弾き飛ばされ、ガイルがエバンの首筋にピタリと木剣を合わせる。
「お前の負けだ」
ガイルは冷たい視線をエバンに浴びせる。
「これが戦場だったらお前は死に、アルスが危険にさらされる……。もう少し出来る奴かと思っていたが、この程度だったとは……、期待しすぎた……っ!」
ガイルがため息をつき、勝負は決まったとばかりに、その場から離れようとすると、突然エバンが素手でガイルに殴りかかってくる。
「まだ……、まだ終わっていません。この命が尽きない限り、負けることはない!」
血気迫った覚悟でエバンは突撃。しかし、その攻撃を簡単によけるガイル。
「……根性だけは認めてやろう。だが!」
流れるようにエバンの腹に木剣の一撃を浴びせる。
「ぐふっ。……まだ!」
エバンは一撃を食らったにもかかわらず、果敢にガイルへと飛び掛かる。
「無駄だ」
が、またしてもガイルはエバンの攻撃を避け、もう一撃食らわそうとする。
「何度やっても結果は……」
それがエバンの罠だとも知らずに……
今だ!
ガイルの向き的にエバンの左手が見えなくなった瞬間。エバンは狙っていたかのように手に隠し持っていた何かをガイルの目、めがけて投げる。
「なっ!」
突然の目への激痛。いくら猛者だといっても所詮は人間。鍛えられる部位とそうでない部位が必ずある。
「これは……、砂か!」
ガイルは咄嗟に後方に飛び下がり、感覚を頼りに周囲の状況把握に努める。
しかし、次の瞬間。ガイルは左腕に痛みを覚える。
「しまった!」
ガイルは痛みを覚えた瞬間、前方を大きく薙ぎ払い、全力の防御を繰り出すが。
「そこまで!」
セバスの試合終了の合図が発せられた。
「やっ、やった……、のか?」
エバンは信じられないと言った具合にセバスを見る。
するとセバスがエバンの視線に気づき、首を縦に振る。
「や、やった! アルス様! やりました!」
エバンはその場で喜びをかみしめる。
「ははっ! 俺の負けだ」
エバンが喜んでいる時、ガイルは大声を上げ、一気に全身の力を抜き、やっと開けられるようになった目を少し開く。
「戦場では身の回りにあるモノはすべて使い、死なない事を第一にするのが鉄則。それにしても、服の中にそんなものを隠してたとは……」
段々とガイルの視界が戻り始めているのか、エバンが手にしていた短刀をちらりと見る。
「認めざる負えないな。俺に一撃をくらわしたその覚悟。認めよう。エバン! このままアルスの従者をやるといい。しかし……」
ガイルはその日一番の不気味な笑顔を見せながら、エバンへと近づいてくる。
「えっ? あの……、ガイル様? っ!」
そんなガイルに恐怖を感じたエバンはその場から退散しようと身を反転させるが。
「俺もやられたんだ……、もう一撃ぐらい加えても罰は当たらんよな?」
ガイルは木剣を右手に持ち替えて、一瞬にして間合いを詰める。そして……
「ふん!」
自身が持てる最大の一撃を、エバンの腹に叩き込む。
「がはっっっ!」
その一撃を食らったエバンはとんでもない勢いで後方に飛ばされ、地面に強くたたきつけられると、ピクリと痙攣し、そのまま意識を失った。
シーン。
その様子にアルザニクス家の関係者一同、愕然としていたが。
「はっ! エバン!」
真っ先にアルスが我を取り戻し。
「……おい! 誰かエバンを見ろ! あと、お父様のケガも見て差し上げろ!」
すぐに、アルスが声を張り上げて、その場にいる者たちに指示を出す。そのあとは一同大慌てで、自分たちの配置につくと、その場は自然とお開きとなり、慌ただしく使用人たちが後片付けに追われるのであった。
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