さぁ、王都へ行こう その2

~アルスの自室~

 

 良かった。これでオークションには問題なく行けそうだ。


 アルスは自分の部屋へと戻ると、すぐに明日のための支度を始める。


 そんなアルスは手だけは動かしながらも、頭だけは既に別の事を考えていた。


「何て偶然だよ! 王都に行きたいと考えていた矢先に、こんなにも早く王都へ行ける機会に恵まれるなんて……。再来週に食事会だって言ってたよな……、ということは1月の初め頃か……」


 アルスは覚えている範囲内で書き記したグレシアスの設定資料(アルスの手書き)を確認し始める。


 *グレシアスの世界は1年が12ヶ月。日数に直すと360日で、1ヶ月が30日。


「おっ! やっぱり王都最大の裏オークションが12月30日にあるな。このオークションには絶対に参加するとして、他のオークションは……」


 次々と設定資料をめくり、あるページで手が止まる。


「おっ。毎月25日に開催される奴隷オークションも参加出来るな。12月に開催されるオークションは特別規模がでかいやつだから、他の月に開催されるオークションよりも良い奴隷が出品される。これならいい仲間が見つかるかもな」


 アルスはいい時期に行けるなとルンルン気分で荷物をまとめる。



 一応言っておくが、俺は奴隷制度に忌避感は一切持ち合わせていない。


 たまに、奴隷と言っただけで口を合わせて可哀そうだとか、解放してやれだとか言う奴らがいるが、そいつらは本当に奴隷たちの現状を分かっているのか? と考えてしまう。


 奴隷と言っても、犯罪奴隷や戦争奴隷。口減らしを理由に奴隷に落ちた者等、理由は様々だ。もちろん、違法に捕まえて、売られてしまった者もいるであろう。そのような者たちまで俺がどうにかするというのは無理な話だが、奴隷の全体数を考えると、その者たちは少数派なはずだ。


 そんな奴隷たちは皆、一様に言える事がある。それは、奴隷という身分に落ちたからからこそ助かった命であるという事だ。


 先ほど挙げた者達は皆、ゆくゆくは口減らしや飢えなどで亡くなってしまう運命の者たちばかりであろう。その者たちを制限的ではあるが、主人という衣食住を用意してくれる人の元で命の保障と引き換えに自由は失うが、生きていけるならいいのではないだろうかと俺は思っている。



 アルスは設定資料を閉じると、引き出しから新たな紙を取り出し、王都に着いてからすべき事。何をするかの優先順位を付け、次々と書きだしていく。


「でもな……、再来週に開催される食事会には行きたくない。王が亡くなっている事を知っているのは、俺とゼンブルグ商会の一握りと王の関係者ぐらいだと思うが、いつバレて大事になるか分からない。その食事会で面倒なことに巻き込まれたりしたら……流石にそれは大丈夫か。王国各所の貴族が来る食事会だ。その分警備もしっかりしてるだろうし……でも心配だな。用心していった方が良さそうだ……」


 グレシアスでは絶対という言葉は滅多にないため、ほんの些細な可能性すらも考慮し、行動する必要がある。


 アルスはぶつぶつと呟きながら、思った事や注意すべきことを書き出していく。



~数時間後~


 時間も忘れ、長時間机に向かっていると、その間にも時間が秒の様に過ぎていき。


「……うん? 今何時だ……ってもうこんな時間かよ」


 気が付いた頃には、小鳥がさえずり出し始める様な時間であった。


「もう外が明るくなってきてるじゃん。寝ないと」


 いつの間にか夜が明けてきていることに気づいたアルスは、急いでベットへと潜り込み、少しでも寝る時間を確保しようと、目を閉じたのだった。

 


~王都へと出発する朝~


 朝早くからアルザニクス家の屋敷の庭には、沢山の使用人と護衛の姿があった。


 その近くには椅子に腰かけるアルスの姿もあったのだが、何故か異様に眠そうな顔をしており、しきりにウトウトしていた。


 その様子を心配したエバンが……


「アルス様。大丈夫ですか?」


 そっと近寄り、驚かさない程度の声量でアルスに声をかける。


「ちょっと眠くてな……。だが、馬車でもうひと眠りするから心配無用だ」


 片目をつぶりながら欠伸をするも、きちんと返答するアルス。


「道中は心配しないでください。私が怪しい者、一人たりともアルス様の馬車には近づけさせません」


 エバンは任せてくださいと言わんばかりに自分の胸を叩き、そう答える。


 今回、王都へ向かう馬車は4台あり、一番豪華な馬車がサラが乗り、二番目に豪華な馬車にはアルスが乗る。


 そして、その他の2台は使用人たちが乗る馬車である。


 何故、サラとアルスが同じ馬車に乗らなかったかというと、当初の予定では、二人は同じ馬車に乗るはずだった。しかし、アルスがどうしても一人で乗りたいとお願いしたため、サラとアルスは別々の馬車で移動することとなったのだ。


 そんなアルス曰く、何故一人で乗りたかったかというと。


『だって恥ずかしいじゃん』


 という訳であった。



 そんなアルスたちを乗せて、今回、王都へ向かうのは馬車4台と、馬車を守る護衛たち。


 その護衛たちは11人いるので、野盗相手なら十分すぎる人数。


 それに加え、エバンもいるため安心できる編成となっている。



 アルスがウトウトする事1時間。


 その間にも使用人たちはテキパキと王都へ出発する準備を整え、予定時間よりも早い時刻に屋敷を出ることができた。



 そんな道中は、初日に15名ほどの野盗の襲撃が一度あったが、エバン一人で5名ほどの野盗を制圧し、他の護衛たちも無事に討伐に成功した。


 こちら側の被害としては、エバンにはかすり傷一つもなかったが、護衛の中で2名ほど軽度の傷を負った者がいたぐらいだった。


 それ以外では特段、出来事と言えることは何もなく、残すところ後少しというところまで足を進めることになったのだった。

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