第9話階段の前

「え?」


至は、今いる荒れ果てた廃別荘にそぐわない間抜けな声を出す。


本当に、理解しがたかったから。


葵が告げた真実で、出来た緊迫した雰囲気も飛んだ。


「えっ…」


至にすぐ分かって貰えたと思いこんでた葵も、直立不動で戸惑う。


しかし…


「あっ、えーっとそうだなぁ…残留思念っていうのは…もっと至に分かり易く噛み砕いて言うと…」


葵は、右手を口元に当てて下を見て、余りオカルトに理解力の無い至の為に優しく真剣に悩む。


するとクスっと、至が笑う。


葵は、怪訝そうに視線を至に向けた。


「あっ…いや…ゴメン…葵って、やっぱ優しいなぁって…4年ぶりに会ったけど変わってなくて、俺ちょっと安心した…」


至がニコニコすると、葵は、何だかバツが悪そうに、まるで照れているように視線を横に向けた。


しかし、至には分からん事だらけだし、葵には、さっきは僚の真似をしていたのか?他にも聞きたい事が山のようにあったので…


兎に角、本当に女性達がこの建物にいるなら先に助ける事にして…


葵とは、後でゆっくり一緒に話しをしようと思った。


「よく、分かんないけど、女の人達、ここにいるんだよな?」


至は、ミシッと足音をさせ一歩前へ出た


しかし…


そこを、又葵が至の左腕を持って止めた


「ちょっと…待ちやがれ!」


その葵らしからぬ言い方に、至は変な予感に戦慄して、恐る恐る振り返った。


そして、至のそれは正しかった。


葵は一変、又、僚のような目付き、表情になっていた。


「おっ…お前って、今もしかして僚?」


至が呟くと、僚のような葵はニッと笑った。


「よく分かってんじゃん!さっすが至!」


葵の体が、至を抱き締めた。


強く…


「やっぱ、お前だけは…お前だけは、俺達が分かるな…」


「俺…達?」


至は体を離し、僚のような葵の顔を見た。


「そう…俺達だ…」


僚は、死んだはずだ…


もう、葵しかいないはずだ…


至は、言ってる事が又訳が分からなくて…


真実かどうかも分からなくて…


ぼーっと見続ける。


そこに、僚のような葵が突然呟き、目の前の広い階段下を指さした。


「至…おばちゃん達を助けに行くのはいいが…その前に、あの階段の前に女がいるの分かってないだろ?」


「女?」


階段の前には、誰もいない。


ただ、上の方の窓から光が差して、その光に埃の細かい粒子が舞っているのしか見えない。


「何?女なんて…見えないよ…もっ、もう止めろよ…そんな事言うの…本当に俺ダメだから」


「それがいるんだよ。黄色のワンピースを着てる」


だが、何度見ても、至るには見えない。


そして、少しヤケになってしまい聞いてみた。


「じゃ、その幽霊、幾つ位の人?かわいい?美人?」


それを聞き僚のような葵は、何を思ったのか?チラっと至を冷めた目で見た。


「お前、そこが気になるわけ?」


「おっ、おお…」


至が引き気味に答えると、僚のような葵は、又ニッと笑った。


「そうだな…若くて、すんげー美人」


「えっ?えっ?本当に?そんなに美人?そんなに?」


単純な至は思わずめちゃくちゃ食いつくと、僚のような葵は不機嫌そうになり言った。


「なら…見てみるか?その美人…」


「え?」


「見せてやるよ…お前に…」


僚のような葵は、あの黒紫色の渦模様のある左手を、今度は至の頭上にポンと置いた。


すると…


至の目の前に…


黄色のワンピースを着た、サラサラのキレイな長い黒髪の…


顔から全身、ガイ骨の女がいた。





















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る