第2話 一日の始まり

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 ここは不思議の国と呼ばれることが多い国。

 ここで暮らしているドールは、この国の土台であるマザーの子供。

 今日のドールは、朝から何やら急いでいる様子。



「わぁ!もうこんな時間だ!急がなきゃ!」



 彼女は大慌てで地中にある家から、大きな花の茎の中を通って外へと飛び出した。



「まふぁー!いっへひまふ!」



 朝食を口の中にたくさん頬張った状態の彼女は、おそらくマザーへ向けて行ってきますと言ったのだろう。

 彼女は大きな花弁の滑り台をするりと降りて、地面へと降り立つと目的の場所があるようで迷いなく一目散に走り始めた。

 どうやら向かっている方向は、雲の城の方向だ。

 その名の通り、雲でできたふわふわな白いお城で、中には大きな純白の羽根を生やした女王が住んでいる。


 実は、ドールは雲の城の女王お抱えの、この国で唯一のサーカス団の一員で。

 今日はそのサーカス団での練習がある日なので急いでいたわけだ。

 なんと、近々他国からお偉い方がご家族を連れて来日されるらしく。

 そのための練習というわけだ。


 目的地は雲の城の中の横の庭に建てられているサーカステント。

 彼女は行く先々で挨拶してくれる花や動物達に返事を返しながら、真っすぐではなく、くるくると寄り道をしているようで実は最短距離を走りながら目的地へと向かうのであった。






「ほっほっほっほ」



 短く息を吐きながら、ようやくついた目的地の雲の城。

 お城のお庭を横切っていると、真っ白な花に囲まれたふわっふわの東屋に女王の姿が。



「あ! 女王様ー! おはようございますー!」

「あら、ドールじゃない。おはよう」

「食後のティータイムですかあ」

「えぇ、一緒にいかが?」

「やったー! ここのお茶美味しくて好きなんだよねって、ぐぇ!」

「お前はまたそうやって寄り道をする。今からショーの練習だろう。何言ってんだ」



 ドールが女王からの嬉しいお誘いにのろうとしたその時、彼女の首根っこを掴んで引き留める一人の少年の姿が。



「げほっ! ジャックー!! 急に首元引っ張られたら苦しいよー!」

「あほ、お前が誘惑に負けるからだ。女王陛下も、分かってて誘うのやめてください」

「あら、叱られちゃったわ。ごめんなさいね」



 その少年はドールと同じサーカス団の団員の一人であるジャックであった。

 ドールより少し身長の高い彼は実は本当の姿は綺麗な美しい不死鳥なのである。

 今は髪全体が黄金色で前髪に赤いメッシュの入っており、鼻筋がスッと通った少年の姿だが。


 彼はドールの首根っこを掴んでいた手を離すと、彼女よりも先にサーカスのテントの方へと歩き出した。

 そんなツンケンとした彼の態度に雲の城の女王は怒る事もなく、逆にクスクスと笑い返しながら謝るのだ。同じ羽根を持つ眷属故か、元々温厚で、誰にでも優しい女王だが、特にジャックには甘い節がある。



「あー! ジャックー! 僕を置いていかないでよー! 女王様、お茶せっかく誘ってくれたのにごめんなさい! 僕行かなきゃ!」

「えぇ、行ってらっしゃいドール」



 可愛い小鳥たちの囀りに微笑みかけて、女王は再び美しい庭を眺めながらお茶を楽しむのである。



「待って、ジャック! 僕も行くよ!」



 そう言ってドールがジャックを追いかけているうちに、最終目的地のテントへと辿り着いてしまった。


 大きなふわふわなお城の横に、これまたお城の半分もあるのではないかと思われるほど大きさのあるテント。

 お城の庭の三分の一は確実に占めているだろう。


 最初にジャックとドールを迎えたのは、大きなお腹を叩くと立派な太鼓の音がする楽器人間のマルクだった。



「おろろーん。二人ともおはよう。今日は一緒に来たのかーい?」

「違う。こいつが寄り道してたのを見つけて注意したらついてきただけだ」

「まぁ、そんな感じかな!」

「おろろろろ~、そーうかー。ドールー今日もいい声期待しているぞー」

「はーい!」

「ジャックはジョーカーがもう中で待っているから、早く行った方がいいぞー」

「それを早く言え!!!」

「おろろろろ~ん。怒られちったなぁ」

「ジャックはいつもカリカリしてるもん。いつものことだね」

「あれがないと最近、一日が始まった気がしないろ~ん」



 マルクから待ち人の存在を知ったジャックは、大慌てでテントの中へと入って行き。

 そんなジャックの姿をドールとマルクは、ようやく一日が始まったとのんびりテントへ入って行くのであった。








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