第6話 初めての戦い
森の入り口で最後の確認をした。
「銃に異常は?」
「私はありません」
「ユリアは……はあ、脳に異常があるようだな」
エルンストさんがため息をつく。
「何で? おかしくない? チラ見で何でそんな悪口を言われなくちゃいけないの?」
「自爆ベルトを自分に装着している人を見たら、大体の人がそう言う反応をすると思うのだが?」
「だって、戦闘地帯に行くんでしょ?」
「……ん? 終わり? ユリアは生還する気ないのかな?」
「いや、歩くの面倒になった時は自爆して、リスポーンした方が早いじゃん?」
「もう少し命を大事にしようね」
「私の準備は万端。自爆した際は遺体は自動的に魔力に分解されて消滅するし、持ってる武器と服は土に還るようにしている。私は環境への意識が高いからね」
「環境へ配慮するのは良いけど、命にも配慮しようか。それで、テレーゼ。この森にどんな魔物がいるか分かるか?」
「はい。初心者向けらしいので、ゴブリン、ホーンラビット、ゴブリン、スライム、森の奥に行くとワーウルフやオークが出てくるみたいですね」
「じゃあ、今日は森の入り口付近でゴブリンやホーンラビットとかを狩るとしよう」
「分かりました」
「ねえ? 私は今から何をするの?」
ユリアさんが真剣な表情で聞く。
「は? お前、何を聞いてたの?」
エルンストさんがドン引きしている。
私もドン引きだ。
「え? 何も聞いてないけど? と言うか、ここどこ?」
「頭、大丈夫?」
「大丈夫に決まってるじゃない」
「大丈夫じゃないから、言ってるんだよ。いい加減気付こうね」
ユリアさんは気にする事なく、話を進める。
「昨日、記憶力を強化するために海馬を増設したんだけどね」
「その外科手術失敗してるだろ? あと、海馬を物理的に増やす前に努力をしろ」
「エルンストさん、指摘する所が違いますよ。ユリアさん、そんな日曜大工みたいな感覚で自分を改造してるんですか?」
私がそう言うとユリアさんがすぐに反論してきた。
「私にとって自分の改造手術は朝飯前なの。つまり、食事をする感覚で改造できる訳」
「その発言が自分の評価を下げている事にお気づきでない?」
思わず思っている事を口にしてしまった。
「テレーゼ、もう行くぞ。コイツといると延々と駄弁る事になる」
「ちょっと、どういう意味?」
「そのまんまの意味だろ」
「違う、そうじゃない。駄弁るってどういう意味?」
「そんな事は自分で辞書を使って調べろ!」
エルンストさんはそのままダンジョンに入った。
私もその後に付いていった。
私たちは森の入り口付近にいる。
入り口付近はモンスターの出現率も低いため、比較的安全である。
ユリアさんが引き金を何度も引いている。
ゴブリンに対し。
「何これ? 当たらない銃の存在価値とは?」
「学習しない頭の存在価値って何だろうね」
エルンストさんがえげつないツッコミを入れている。
「何で私が悪いの? どう考えても銃の性能でしょ?」
「テレーゼを見てみろよ。普通に遠距離で全部仕留めてるだろ?」
ユリアさんの獲物にヘッドショットを決める。
「だから何? 今、私の話をしてるんだよ? テレーゼ関係ないじゃん」
「話を聞いてないのか、理解していないのか、どっちなのかな?」
「聞いてもないし、聞いたとしても理解できないよ? やっぱり昨日の施術に問題があったみたい。だって、私、今釘バットが欲しい気分だもん」
「因果関係が謎過ぎて、怖いのだが? あと、何で釘バット?」
「殴殺したいから?」
「そろそろ、キレるよ?」
「論点をずらさないで。まず、弾幕の張れない銃に存在意義についてよね?」
「そんな話は一切していない。妄想で話すなら黙っていてくれ。それに存在意義はあるから」
2人が話している間に、視界の範囲内のゴブリンを討伐し終えた。
エルンストさんは喋りつつも結界や土魔術で私が狩りやすいように、補助をしてくれていた。
ユリアさんは……魔力の無駄遣いをしているだけだった。
「エルンストさん、ユリアさん。ゴブリンの討伐が終わったので、魔石の回収をしましょう」
「ああ、分かった」
「歩くの面倒だから、2人で言ってきて?」
「足を斬られたいのか?」
「分かった。行けば良いんでしょ、行けば」
そう言う割にユリアさんはその場から動こうとしない。
「そう言うのは動いてから言おうね」
「歩いてるじゃない。1時間後には着くから、待ってて?」
「馬鹿言ってないでさっさと歩け」
私たちは倒れているゴブリンに近づく。
全部、倒したと思っていたが、息の根が残っているゴブリンがいた。
私はそのゴブリンの頭に照準を向け、引き金を引く。
「え? テレーゼさん? 手慣れ過ぎてない?」
ユリアさんが私に衝撃的な物を見るような目を向ける。
「これでも、魔道具技師として働いていたので、銃に関しては慣れていますし、ある程度の実践は積んでますから」
「ゴブリンの売れる素材って何だ?」
「胸のあたりにある魔石ですね」
私はゴブリンの死体にナイフを突き立て、切り開き魔石を取り出す。
「ねえ? テレーゼってこんなワイルドな子だっけ?」
「まあ、冒険者家業に詳しいから、俺はなんとなく想像できていたけどな。まあ、驚いてはいるが」
「2人とも何してるんですか? 早く魔石を取ってください」
「え? 私もやるの?」
「当然じゃないですか。早くしないと血の匂いで他の魔物が来ちゃいますよ」
「えー、切り開くのは人間だけが良いな」
ユリアさんが恥じらうように言う。
「「……え?」」
私とエルンストさんが思わずシンクロしてしまった。
「2人とも、私何か変な事言った?」
「常識と倫理感を学んで欲しい、と切実に思う」
エルンストさんがそう言ったので私は頷いた。
私たちは喋りながらも、ゴブリンの魔石を回収した。
「こんなちっぽけな魔石じゃ、大した値にはならないよね?」
ユリアさんは魔石を掴みながら言う。
「はい。この魔石は銃弾の一発分の魔力量ですね」
「じゃあ、私たちみたいに自分の魔力を使わない場合はマイナスなのね」
「私たちはこの高価な武器をお金のことを考えないで使えますから、普通の冒険者と比べると有利ですね」
「ねえ? 角がついているウサギ肉が来たんだけど?」
「ホーンラビットな。生きてる段階で肉と呼んで差し上げるな」
エルンストさんが間髪空けずに言う。
「でも、私からすれば、大概の生き物は動く肉塊だよ?」
「自分の発言が社会的な評価に反映される事を考えてから喋ろうね」
「エルンストさん、ホーンラビットが接近してきていますけど、どうします?」
私はいつでも引き金を引けるようにして言う。
「俺がやってみようかな」
エルンストさんがそう言うと、ホーンラビットが地面から延びる蔓に捕まり、首を絞められている。
さらに追い打ちをかけるように、口や穴を塞ぎ始めた。
ホーンラビットはジタバタしていたが、しばらくすると大人しくなった。
「久しぶりの戦闘だったが、案外何とかなるもんだな」
「エルンストが魔術を使ってる所を久しぶりに見たかも」
ユリアさんがそう言う。
「お前、記憶力を一回検査してもらった方が良いぞ? この前の銃を乱射した時に使ってるからな。それに転移の時も。それにさっきもな」
「銃の乱射って、私そんな危ない人じゃないから。失礼しちゃう」
「怖っ」
「え? 待って? なんか意味深な反応されたんだけど?」
私たちはホーンラビットの角と肉、皮、魔石を回収した。その後、出会う魔物を10体ほど狩ってダンジョンを出た。
森を出た私たちは街に戻って、魔石や魔物の素材をギルドで換金した。
「今夜は宿を取ろう」
エルンストさんがそう言うとユリアさんが反発した。
「嫌だよ。私、家に帰りたい」
「引きこもりを発動するのが早すぎだろ。まだ、1日も経ってねえぞ」
「私、繊細なの。自分の部屋じゃないと寝れないの」
「帰っても良いけど、食費を調達できてないだろ」
「そんなのエルンストが何とかすれば良いじゃん」
「ふざけるな」
「ケチー!!」
「まあ、宿代ぐらいは出してやるよ」
「何言ってるの? 私、ダンジョンで稼いだじゃない。だから大丈夫でしょ?」
「子供の小遣い程度の額をな」
「え? まさかだけど、マイナスなの?」
「ああ」
「テレーゼ、今の話本当?」
ユリアさんは今日さえ働けば、しばらくは大丈夫だと思ったらしい。
「……はい」
ユリアさんが絶望の叫びをあげる。
「そんなー!! 帰りたい!!」
「良いから、今日は宿だ」
「ねえ? 宿って個室よね? 少なくとも私は個室よね?」
「働きで部屋を決めるなら、ユリアは野宿だな」
「それ、部屋じゃないじゃん」
「あと、今日の稼ぎじゃ、全然足りないから3人で1部屋だ」
ユリアさんは自分の胸と股を隠すようなポーズをする。
「やだ! エッチ! 何、考えてるの?」
「それはこっちのセリフだ。100歩譲って、テレーゼに言われるなら、分かる。だが、ユリアには言われたくない。お前にそんな事言われたら、俺がネクロフィリアと誤解されるだろ!」
「ちょっと! 私、死んでないから! 私、生きてるから! 何回か死んだ経験があるだけで生きてるから!」
「説得力に欠けるな」
ユリアさんはその後、ヤダヤダと地面に寝転がり、回転しながらジタバタと手足を動かして抵抗した。
ユリアさんを言葉で説得する事が面倒になったエルンストさんは一撃でユリアさんを眠らせ、強制的に宿屋に連行した。
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