第10話
「食べ物を冷やすんですか?」
「そう。マイスの作ったマジックバッグは食べ物を入れたら腐る?」
「量は無限に入れられますが、時間経過はしますから腐ります」
マジックバッグに時間経過を止める機能を付けたら便利かな。良いアイデアだな。でも、時空魔法を魔道具にするのはかなり難しいから、すぐにはできない。
「ならやっぱり冷蔵庫が欲しいわね。食べ物を冷やすと腐りにくくなるのは知ってる?」
「はい、魚を氷魔法で凍らせたりしますよね」
氷魔法が使えるだけで、一生食いっぱぐれないというのは有名な話だ。
「そうなの、冷やすと食べ物は傷みにくくなるのよね。常に10℃以下の温度を保てる箱があれば冷蔵庫になるわ。あと、冷凍庫も欲しいわね」
なるほど。箱の中を冷やすのか。そんなの聞いたことないな。でも、かなり便利そうだ。冷凍庫ってのは何だろう?
「冷凍庫があれば、アイスとか作れるかなっ?!」
「良いですね。わたくしはレモンのシャーベットが食べたいですわ」
アイスってなんだろう? レナさんが嬉しそうに耳をピクピクしてるから、相当美味しいんだろうなぁ。シャーベットは、たまに夏に売ってるよね。ものすごく美味しいらしいんだけど、制作に氷魔法を使うから値段が高くて食べた事はない。
冷凍庫ってのを作れば、僕もシャーベットが食べられるかな?
マジックバッグの改造は時間がかかるけれど、食べ物を冷やす箱ならすぐ出来そうだ。
「箱の中を一定の温度にすれば良いだけならすぐ出来ますよ。冷蔵庫は10℃ですか?」
「んー……5℃くらいでいける?」
「もちろんです。少し温度を調整出来るようにしましょう」
「冷凍庫! 冷凍庫できる?!」
「どのくらいの温度ですか?」
「マイナス12℃以下ですね。可能ですか?」
氷点下か……。ちょっと調整がいるな。冷気が漏れないような箱を作らないと。
「少し調整が要りますが、出来ます。大きさやデザインの希望があれば教えて下さい。すぐ作りますね」
「今日はもうおしまい! ご飯にしよう。今日はご馳走だよ!」
そう言ってアオイさん達が用意してくれた晩御飯は、たくさんのおかずに、麦ご飯。果物まである。
今まではパンだったけど、麦を炊いて食べると美味しい。おかずもたくさんあって、美味しそうに食べるアオイさんに、優雅な所作のカナさん、尻尾を振りながら幸せそうなレナさんと一緒に食べるご飯はとても美味しくて幸せだ。
ここに来てから良いことばかり。
僕が出来るのは物を作ることだけだから、皆さんの欲しい物をこれからもたくさん作っていこう。
という事で、まずは冷蔵庫と冷凍庫を作った。
冷蔵庫は、すぐに完成した。温度を調整する魔道具をつけた箱を作るだけだからね。大きさが分からなくて、大きめのタンスくらいのサイズで作ったら大きすぎって言われたよ。
「大は小を兼ねますから問題ありませんよ」
「あっさり冷蔵庫作っちゃったね。さすがマイス。これ、販売出来る様に調整しようね」
「冷凍庫! 冷凍庫は?!」
「レナ! そんなに急かしてはダメですよ」
「こんなに大きくなくて良いんですね。1メートル四方の箱くらいなら、調整が簡単なので今日中に冷凍庫が出来ますよ」
最低でもタンスサイズは要ると思ってたんだけど、そんなに大きくなくて良いらしい。それなら冷気が漏れないように加工するのも簡単だから、できそうだ。良かった。
「やったー!」
レナさんが、大喜びで踊り始めた。踊るっていうか、アクロバッティックにあちこち飛び回ってる。獣人の方は運動神経が良いと聞いていたけど、こんなに身軽なんだね。僕は鈍足だから、羨ましい。
「建物に登ってはダメですよ。家は制作途中ですからね」
え?! レナさんを捕まえるカナさんの動きが見えなかったんだけど?!
「さすがカナ」
「レナさんがいちばん素早いと思ってましたけど、カナさんも凄いですね」
「本気のレナならともかく、今は遊んでるだけだからね」
「今のスピードで、遊んでるだけですか……。凄過ぎますね」
「今ので2割くらいのスピードかな。レナが本気で動いてる時なら目で追うのがやっとだよ」
「……凄いですね」
皆さん一流の冒険者さんなんだね。アオイさんも、あっという間に土魔法で基礎作ったり、浴槽作ったりするし、きっと他の魔法も凄いんだろう。そんな風に楽しく話しながら作業していたら、冷凍庫が完成した。
「冷凍庫も出来ました。台所は水も出るし魔導コンロもつけたし、魔導オーブンもあります。僕が分かる範囲の設備は付けましたけど、他に何かありますか?」
「完璧だよ! ありがとう! まさかオーブンまで作ってくれるなんて思わなかったよ!」
「オーブンがあるなら、ケーキとかクッキー焼こうよ! あたしカナのクッキー食べたい!」
「分かりました、材料は揃うので作ってみましょうか」
「でもまずはアイスだよ!」
「「そうね!(ですね)」」
その後、夕食のデザートに出てきたアイスは、この世のものとは思えない美味しさでした。
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