逃げた先

第1話 逃げ癖

俺は知っている。

この世の全てのものは替えがきく。

だから逃げてきた。

学校から。社会から。そして現実から。

今俺が暮らす世界は仮想現実だ。

住んでいる地球も現実のものじゃない。

2099年、精神転送システムを搭載した量子コンピュータの中の仮想世界「META EARTH」によって人類は「一人一人が個性を発揮できる社会の建設」に成功した。

この仮想世界は基本的には現実を模して作られている。

ただ一つだけ違うのが、「一人一人が個性を発揮できる」ことだ。

この世界の俺の容姿は現実そっくりだ。五感だって何一つ変わりはない。

ただ俺には特殊能力が与えられている。コンピュータが脳をスキャンして、俺の性格に最も馴染むスキルを選んでくれるのだ。

俺に与えられたのは「瞬間時効」。

犯罪行為をしても1日逃げ切ればコンピュータ上のすべての人間の記憶から俺に関する記憶を全て消すことが出来る。

逃げてばかりの俺の人生にぴったりだ。