美少女に誘われたので、僕は神絵師を目指すことになったのだが。
ういんぐ神風
第1話 西園寺亮は筆を折る
絵画の作品を応募し続けた10年間。
気づくとコンテストを一度も受賞したことがない。駄作の油絵の創作者だ。
西園寺家は画家の才能を持つものだった。例えば、亮の父親は天才的でフランスのコンテストを容易く毎度、一位を受賞していた。
亮は天才な父親から教われた通りにただひたすら絵画を描いていたのだったが、結果的には受賞することもなく。誰から認められなかった。評価すらされなかった。
『あの天才画家の息子なのに、絵の才能がない。残念な画家。西園寺・亮』
そんな事実に耐えられず、亮は大きな声で批判家に尋ねる。
「僕の絵は何がいけない! どうして受賞できない? 何がいけない? 僕の油絵は何が足りない!?」
ムカムカしてたのだ、丁度中学を卒業した時に大賞展会場にやってきた批判家に答えを求める。
すると、批判家がそっけなくこう告げる。
「君の絵はつまらないのさ。人に感動する絵じゃない、心に響かない。君の絵は写真見ているようでね。そう、写真みたいな絵だ。陳腐な作品だ」
「ッツ!?」
そんな事実に亮はハッと口を大きく開ける。
逃げ出したい事実。芸術才能が亮には全くないことには胸を突き刺さるほど、痛かった。
問題を見ないフリをして、このまま創作を続けていればいつかは才能が芽生えて来る可能性もある。
あるいは時代がやっと追いついて来て、作品が評価されることもある。あの、セザンヌみたいに。彼も同じくかつては作品については認められなかった。徐々に時代が追いつき、「近代絵画の父」まで呼ばれていた。
けど、亮の心はそこまで強くない。
(……いや、違う。僕には才能がないだ)
何千枚の作品を手掛けているうちに、自分自身は絵画を描けなくなった。
自分に才能がないと気付いてしまった。どう頑張っても、どう足掻いても、どうやっても無駄だった。完全に描けなくなってしまった。
―――毎日血の涙を垂らし流れても、何も芽生えることはなかった。努力をすれば結果が必ず答えてくれる、なんて言うものは嘘だ。ありえない。
「……父さん。僕、絵を描くのをやめるよ。普通の人生を歩むよ」
それから2年が経過し、西園寺亮は筆を折った。
高校2年生の時に亮はこの業界から足を洗うことを決心した。周囲からはやっと安堵され、天才画家の息子だと気を遣う事なくなった。
自分は普通の人間だ。決して天才でも有能である人間ではない。画家と言う夢を諦めて普通に戻る。絵画がない人生を送るだけ。生涯はこの人生を突き通す事しかできないことを悟った。
そんなことを考えていると、毎朝起きるのがつらくなった。
亮は無気力な毎朝と戦いながら、普通の人生を送るように笑いを浮かべる。自分に才能がないと悔しさを隠すようにベッドの上で隠れて泣いていた。
だが、そんな西園寺亮に転機が現れる。彼が布団にもぐっていると、誤ってテレビのボタンを押してしまう。ピット、テレビがつけられる。
しまった、とは思うが、時すでに遅し。テレビ画面に放送している映像が流れる。それはいつしか見たこともないアニメ映像だ。
一人の少女が魔法のステッキで魔物と戦う姿。魔物を倒して、世界の平和を守る少女。倒れても何度も立ち直し、魔物を倒す。可憐で優雅な少女たちの友情には心が打たれた。
その三十分の短い放送に、亮は感動した。
日本が誇るテレビアニメなんだと、すぐにわかったのだ。
「……続き、みたいな」
など、ぽつりと涙を流しながら言葉がぽろりと出る。
それは自分の本心。心の奥底に感じたありのままを告げた思い。十年間絵画しか作らなかった亮に取っては衝撃的なものだったのだ。
あのあと、毎晩。亮は深夜アニメを見るようになった。
それを派生に、初めて漫画を購入し、読んだりとかもする。
漫画も胸熱くなる展開が待っていて、読んでいれば読んでいるほど、楽しくて、楽しくてたまらなかったのだ。
亮は新しい世界の扉が開いたようで、ワクワク感が走る。
まるで、画家になる夢を折った幼き日々の日常だった。芸術と最初に出会えた頃、今とは違い、毎日が楽しかった。
こんなに楽しい気持ちは久しぶりな気がした。だから、亮は自制することも忘れて、お絵かきに再挑戦する。
スケッチブックに絵を描いた。今まで描いた芸術の方ではなく、二次創作の絵を描いた。
テレビアニメで感動したキャラクターをスケッチブックに収める。最初に描いたのは、自分が最初に見たアニメの『魔法少女アイラ』だった。
そのあと他のアニメを手掛けるようになった。
魔法少女、幼馴染キャラ、ツンデレ、お嬢様、クーデレ、妹、先輩先生、エトセトラのキャラクター属性に彼はスケッチブックの中に描き出す。自分の妄想と見た段階の数々のキャラクターを一つの鉛筆で描き出した。
「楽しい……」
思わず亮はそう呟く。
見たアニメのワンシーンをスケッチブックに描くことに夢中になり、自分がみじめな芸術家であることを忘れた。
気づけば、スケッチブックに何冊も使って、二次創作していた。
ああ、これが自分の新しい道だ。と、亮はそう思いながら一人で暗い部屋の中に黙々と描く。西園寺亮のオタク活動はここから始まりなのだ。
亮は自分がオタクになったことに感謝をする。
オタク活動は人生の暗闇に照らしたほんの小さな光。それを掴むまで、亮は必死に追いかける。何も考えていない。ただ、絵を描くことに没頭した。
絵を描くことが自分の唯一の救い。
誰にも認められなくてもいい。
ただ、自分の妄想を爆発させて描く。
描けば描くほどが楽しくてたまらない。
いつしか、亮は世間一般で言われる隠れオタになる。学校では普通の高校生活を送り、帰宅後にはアニメや漫画を鑑賞する。感情が爆発したら、スケッチブックに絵を描く。
これが、西園寺亮の物語であった。
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