第3話 あまり近くで観測すると観測対象に影響を与えてしまう

「…ァン君…シアン君、起きて朝だよー!」


鬱陶しくも朝がやってきたようだ……また、重い瞼をすこしだけ開き、声の主にとりあえずお礼を言う。


「ハツネか…ありがとう」


そして、おやすみ。人間感謝を忘れてはいけないね。これですがすがしく寝れるとうもの。


「………。何が…ありがとうなの?!!早く起きてよ!」

「この世界に…感謝…むにゃ」

「は、や、く起きてえええ!」


布団でだらだらしていると、ついに布団をはがれてしまう始末。


そう、俺を起こしにきたのはこの世界の主人公であるハツネさんである。

俺が転生してから数年、家が近いからなのか、ハツネとはご近所付き合いが続いていた。


ハツネも成長期を迎え、より一層美人になり、可愛さに磨きが掛かっている。


溌溂とした性格は男女構わず人気が出てそうである。


え?何で語尾が予測形かって?


クラスの陰キャに「誰と誰が付き合っている」という人間関係の情報が伝わらないのと同じことである。


当然だな、人間関係が無いから情報が伝わらない、だから無謀にも告白をして振られるのだ。


そして学ぶ、というか気付く、人間情報収集して行動して動かないと痛い目を見るということを。


「今日は何?何かあったっけ?」

「シアン君!まだ寝ぼけてるの?今日からお祭りの準備期間だよ?」

「あー…うん、思い出した…」


確か10年に一度この村では祭りを開く風習があったなあと思い出す。祭りの名前は知らないが、10年間無事過ごせたことを、祝う感じだったと思う。


そして、村が滅ぼされる日でもあるのだが……


一気に憂鬱になった


「シアン君!早く支度して準備を始めよう?」


仕方ないので言われるがままに支度をして家を出る。


ハツネも楽しみなのか、ふだんより声が高い


今にも踊り出しそうなくらいテンションも高い


「今日は天気がいいね!あ、今日はみんなお花飾りを作ってる!」

「そうだなー」


準備場所に向かう途中チラホラと、花で冠を作っている子を見かけることから、今日は、花束を作るのだろう。


ハツネと一緒に歩きながら目的地に向かっていると、何やら言い争う声が聞こえて来る。


視線を向けてみれば男の子と女の子が喧嘩してるようだ…


男の子の方がジャン君でガタイがいい。そしてくすんだ赤髪のショートボブの女の子は、アネットちゃんだ。


「こんな、ことやってられるか!」

「ちょっと男子もちゃんと仕事しなさい!!」


うわー久しぶりに、そのちょっと男子ー、を聞いたよ。それはもう学級崩壊の合図なんよ…


「あ!喧嘩してる!ちょっと止めて来るね!」

「ういー」


ハツネは、喧嘩を止めに仲裁をしに行くようだ。じゃあ、俺は見守ることにしよう。


「何を喧嘩しているのかな?みんなで仲良く、だよ!」


おー流石ハツネ


彼女はいわゆる正道タイプだ。物事を正面から受け止めて、正攻法で対処するのが、彼女の方法だった。

物事に真摯に取り組み。そして明るく、みんなから頼られる人気者。


そんな人格がもうこの時期から形成されているとは…少し大人びすぎている気もするがまあいいだろう。


そして、そんな、人気者のハツネが時折浮かべる笑顔には憂いを帯びている。それがラノベの中の彼女。


まあ、その憂い顔も彼女の溌剌さとのギャップになり人気に拍車をかけることになるのだが……。


もちろんその憂いは、村が魔物をによって滅ぼされたことが原因であり、物語が進むにつれて、仲間に打ち明けていくと言うストーリーだ。


「ああ!!!!、ジャン、あなた、なんでそんな酷いことするのよ!」

「うるせえ!キャンキャンうざいんだよ」


物語のストーリーを思い出していると、言い争いがヒートアップしているようだ。


ハツネが仲裁に失敗するなんて珍しいこともあるんだな…


なぜだろうと疑問に思っていると、ジャン君が花飾りを踏みつけてどっかに行ってしまった。そして、ショックを受けて泣きそうなアネットちゃんをハツネが慰めている。


あーあ。ジャン君…それはダメだよ…それは、花じゃなくて、気持ちも踏みにじったことになる。


とりあえず、くしゃくしゃになってしまった花飾りを魔法で修復する


そのあとは、アネットちゃんはハツネに任せて、俺はジャン君の方に行くとハツネにアイコンタクトを取る。


彼は剣の練習場にいるだろうなあ。





§






練習場を覗いてみると、一人素振りをしている人影を見つける


今回の祭りで、自分達の強さを競う試合がある。そのために剣を振って型を確認しているようだ。


ジャン君はハツネに続く実力者でよく突っかかっているところを散見する。ラノベでは、「私の良きライバルが一人いた」なんて、初恋を匂わすフレーズがあったが多分彼の可能性が高い。


実際、ストーリー上で彼女はライバルとう言う存在に憧れていた節が存在した。


青春だね〜。


俺はどうかって?

残念だが俺は全然


「おい、さっきからジロジロみて何の用ようだ!」

「いや〜頑張ってるなあと思って」

「ヒョロガリにはどうせわかんねえだろ!あっちへ行け、怪我するだろうが!」


おや、俺の心配をしているようだ。根は優しいのか。でも、試合前ということでピリピリしていると。気持ちはわかるが……


ジュン君は最近この村にやってきたいわゆる新参者だ。ハツネとは関わっているのは、みたことあるが、俺が絡んでみたのはこれが初めてかもしれない。


彼の両親が冒険者で身を固めるためにこの村にやってきたと又聞きで聞いた。


普通、閉鎖的である村においては受け入れられのには時間がかかるものだが、いつも動物を狩ってきてくれるので村ですぐに馴染んでしまっている。


そんなジャン君であるが、お察しの通りハツネに惚れている。側から見れば一目瞭然で、好意の裏返しでハツネに突っかかっているようだ。


別にジャン君はチョロインなどではなく、ジャン君が惚れてしまったのにはちゃんとドラマが存在している。


あれは、ジュン君がこの村に来て間もない頃、野生の熊がこの村にやってきた。

勿論、危険であるので村人は、狩を行なっている人達が帰って来るまで、家に中で待機を命じられていた。


俺は、今晩は熊肉かーと呑気に考えていた時、外から争うような音が聞こえひょっこり顔を出して覗いてみるとジュン君が戦っているではないか。


親が冒険者であるジュン君はどうやら熊を退治して認めてもらいたかったらしい。


しかし言うて、10歳にも満たない子供はあんな筋肉の塊の存在に無力である。もうすでにジャン君は満身創痍であり、今すぐにでも熊にやられる!と思った瞬間。


ハツネが家から飛び出していき一撃の元に切り捨てた。ちなみに、その剣は彼女の9歳の誕生日に買ってもらったと自慢してきたものだった。


もうね、かっこよかったね、家から見ていた俺もときめいちゃったもん。間近でみたジュン君は確実に心を射抜かれただろう。


なんて言うか、かんばれ!ジュン君。君の恋、実るといいね!俺は君が死なないように頑張るからさ!


「ごめんごめん、邪魔したいわけじゃないんだ。ジュン君は今余裕がないかもしれないけど、後でアネットちゃんに謝っておくんだよ?」

「うっせえ!あっち行ってろ!雑魚が」


あらあら、随分と舐めた口聞いてくれるじゃないか兄ちゃんあんちゃん。ボコボコにすんぞ


その後も色々言ってみるが全然取り合ってくれない。もう少し、頭を冷やしてからもう一回話して見ようと、諦めて帰ろうとした時、真後ろにいたハツネに気付きびっくりする。

「ヒッ」


ジュン君をみる目が据わってる。俺、こんなキレてるハツネ初めてみたぞ………


いや…原作でもあまり見なかったぞ


「ねえジュン君」

「え!あ!ハツネ!? な、何の用だ?」

「知らないだろうけどね…私が知ってる本当に強い人って、優しいんだよ?」


いきなり、背後から俺を抱きしめてきたと思ったら、普段から考えられないくらい低い声で話す。


見せつけるように…


そして、ジャン君の脳みそを十二分に破壊した後、俺から離れたと思ったら、踵を返して戻っていく。


「は?、お、おいどこ行くんだよ!?」

「うん?祭りの準備の手伝いに戻るの、まだやるべきことはいっぱいあるもん」

「れ、練習場しなくいいのかよ!それでも俺に勝てると思ってるのか?!!」

「うん」


そしてハツネはもうジュン君に顔を向けずに


「今、別に練習しても変わらないでしょう?それに、ジュン君には、練習しなくても勝てるもん」


じゃあね、シアン君も行こう、といい残して去って行く。


じゃあ俺も脳戻ろうかな〜なんか気まずいし。というか、ハツネよ…その年から脳破壊をするなんて、かなり罪な女だぞ…


「オレは、お前に認めて欲しくて………」


そう、ジュン君が呟くがハツネには聞こえないだろう。個人的にはこっから認められるのか、それとも失望されてしまうのか。これからの未来が気になる


俺はこんな間近で原作の絡みを観測できたことにテンションが上がるのだった。

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