走るとレベルが上がるタイプのメロス
数奇ニシロ
メロスは走った。レベルが上がった。
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐な王を助走をつけて殴らねばならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。政治以外もわからぬ。王がどこにいるかも当然わからぬ。仕方がないので、その辺を適当に走っていると、レベルが上がった。メロスは走るとレベルが上がるタイプだった。
【メロスはレベルが上がった Lv.1→Lv.2】
ステータスも上がったが、メロスはよく見ずにメッセージウィンドウを閉じた。なお、INT(知力)は上がらなかった。上がらなかったので、メロスはまだ、王の居場所がわからないままだった。
しばらく走って老爺に逢い、からだを揺すって質問した。
「国王はどこにいる」
「王様は、人を殺します。」
「それはさっき聞いた」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「それもさっき聞いた」
老爺は、同じ会話を何回か繰り返さないと新しい会話パターンに入らないタイプの村人だった。メロスは、イライラしながら、決定ボタンを連打した。
「王様は、王城に居られます。」
「王城……だと……!?」
メロスは激怒した。まさか、国王が王城にいるとは。まさに灯台下暗し。当たり前のことすぎて、逆に盲点だった。このメロスの裏の裏をかくとは、なんと邪智に長けた暴君よ。無駄に走らせやがってクソッ、クソッ。要するに、八つ当たりであった。
「呆れた王だ。生かしては置けぬ。」
メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそと王城に向かって走った。そこそこの距離を走っていたので、王城に到着する前に、メロスはまたレベルが上がった。
【メロスはレベルが上がった Lv.2→Lv.3】
ステータスが上がり、メロスは一端の兵隊並みに強くなった。だが、INT(知力)は上がらなかった。
低い知力のまま王城に入ると、たちまち彼は巡邏の警吏に見つかり、戦闘が始まった。強制敗北イベントかと思われたが、レベルが上がっていたためか、メロスは普通に打ち勝ってしまった。
「どうすんのこれ」
メロスはしばらくその場に突っ立っていた。しかし、一向にイベントが進まないので、懐中から短刀を抜き出し、ペロペロと舐めながら王城の中を散策し始めた。適当な扉を開けると、運良く王の前であった。
「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」
暴君ディオニスの台詞で、イベントは再開した。メロスはやっとストーリーが進行したことに安堵しつつ、決定ボタンを連打した。
「ああ、王は利巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟でいるのに。命乞いなど決してしない。ただ、――ただ、私に情けをかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。」
メロスは「むっちゃ命乞いしてんな」と思いつつ、短刀をペロペロと舐めた。舐める行為に、特に意味は無い。何となく、ヤバい奴感を出したかっただけである。あと、鉄のひんやりとした感触が気持ちよかった。短刀をペロペロと舐めている間も、メロスの台詞は問題なく続けられた。どうやらメロスは、腹話術も出来るタイプらしかった。
「私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」
さらに会話は進み、妹の結婚式に行く間、無二の友人セリヌンティウスを身代わりに差し出すことになっていた。メロスは「酷いシナリオだな。2周目は会話スキップ出来るんだろうか」と思った。あと、殺し方まで指定する必要ある?
竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。彼に罪は無いが、セリヌンティウスは、縄打たれた。酷い仕打ちである。しかし、設定上の親友といえども、所詮はNPC。特に気にせず、メロスはすぐに出発した。初夏、満点の星である。
メロスはその夜、一睡もせず十里の路を走りに走った。アイテムを探してマップの隅々までウロウロ走り回ったために、実際の走行距離は十里を大幅に超えていた。それだけ走り回るうちに、メロスのレベルはどんどん上がった。
【メロスはレベルが上がった Lv.3→Lv.30】
さらにステータスが上がり、メロスは破茶滅茶に強くなった。だが、INT(知力)は上がらなかった。
寄り道をしまくり、村へ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事を始めていた。メロスの十六の妹も、きょうは寄り道してサボっている兄の代わりの羊群の番をしていた。妹は堂々と遅れて帰って来る兄の姿を見つけて驚き、うるさく質問を浴びせた。メロスは決定ボタンを連打した。
「市に用事を残してきた。またすぐ市に行かねばならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう」
「はぁ? 何勝手に決めちゃってんの、キモ。明日なんて、そんな急に無理じゃん」
妹は怒りに頬をあからめた。好感度が足りていないようだ。メロスは一つ舌打ちをすると、おもむろに妹を威圧した。
「あすがよかろう。異論はないな?」
容赦なく放たれた
「さあ、これから行って、街の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
重々しく放たれる言葉に、妹は肩を震わせながら首肯する。その瞳にあるのは、力に対する純粋な恐怖だけだった。
メロスは、また、走り出し、村の家々を巡ってアイテムを拾いまくった。アイテムがあれば、拾えるだけ拾うのが義務である。ウロウロと走り回っていると、またレベルが上がった。
【メロスはレベルが上がった Lv.30→Lv.33】
ほとんどの家を巡り終わったのは、夜だった。残すは一軒、花婿の家だけだ。メロスは走り、勢いのまま、花婿の家の扉を蹴破った。
「結婚式を明日にしてくれ。」
婿の牧人は驚き、答えた。
「それはいけない、こちらには何の支度も出来ていない、葡萄の季節まで待ってくれ。」
メロスにも事情がある。だが、それを説明する気はなかった。原作でも、説明などしていない。言葉でわからぬなら、拳で語るのみである。レベルの上がった肉体を頼りに、メロスは婿に殴りかかった。
メロスも怪物であったが、婿の牧人も頑強であった。元来、村一番の力持ちとして名を馳せた男である。幾度のレベルアップを経て、とうとうレベル三十代まで到達したメロスの力をもってしても、容易には勝てぬ相手であった。夜明けまで戦いつづけて、やっと、どうにか婿を打ち倒し、脅してすかして、説き伏せた。
結婚式は、真昼に行われた。新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつりと雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持ちを引き立て、陽気に歌を歌い、手を拍った。メロスは、このイベントシーン飛ばせないかな、と思った。無心で決定ボタンを連打していると、眠りにつくシーンでイベントは終わった。
眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。メロスは跳ね起き、南無三、と自バフ呪文を唱えた。呪文の影響で、各種ステータスに補正がかかった。だが、INT(知力)は上がらなかった。メロスは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出した。
村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、さらにレベルが上がっていた。
【メロスはレベルが上がった Lv.33→Lv.35】
メロスは、ここまでレベルを上げれば大丈夫、もはや走る必要はない。ゆっくり歩こう、と好きな小歌をいい声で歌い出した。しかし、ぶらぶら歩いて一里も行かないうちに、歩くの時間かかるし怠いな、と思い直し、デフォルト設定をダッシュ移動に戻した。メロスは、この身体がスタミナ制ではなく、無限に走れることに感謝した。
走って二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、振って湧いた災難、メロスの足は、はたと、とまった。見よ、マップ前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛省一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木端微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。あと、レベルがますます上がっていた。INT(知力)は上がらなかった。
【メロスはレベルが上がった Lv.35→Lv.45】
濁流は、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻消えていく。ふと、メロスは思いついた。走って渡れば良くね?、と。理論上、水上を走ることは不可能ではない。右足が沈む前に左足を出せばいい、というアレである。低いINT(知力)故の浅慮だが、案外悪くない考えだった。今や、メロスのレベルは、常識では考えられない程に上がっている。常人では成し得ないことも、実現できる可能性はあった。メロスには、この思いつきが、天啓のように思えた。
そうと決まれば、メロスの行動は早かった。ああ、神々もご照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠と偉大なレベルの力を、いまこそ発揮して見せる。メロスは、十分に助走をつけ、トップスピードで濁流に走り込んだ。満身の力を脚にこめて、右が沈む前に左を、左が沈む前に右を、なんのこれしきと駆け抜け駆け抜け、めくらめっぽう獅子奮迅に走る姿は、まさにレベルの暴力という他ない。最後は沈みかけたものの、見事、対岸まで走り抜くことが出来たのである。
メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた走り出した。メロスはスタミナ制ではないので、特に休む意味はない。陽は既に傾きかけている。峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊が躍り出た。イベント戦闘である。あと、レベルがまた上がっていた。
【メロスはレベルが上がった Lv.45→Lv.47】
「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かねばならぬ。放せ。」
「どっこい放さぬ。持ちものを全部置いていけ。」
メロスは激怒した。これほどのアイテムを集めるのに、どれほどの時間がかかったか、どれほど走り回ったか。此奴らにはわかるまい。他人の家のタンスを勝手に漁り、壺を割り、必死にかき集めたアイテムを、置いていけ、とは。人でなしどもめ、成敗してくれる。
「さては、王の命令で、ここで待ち伏せていたのだな。死ねぇええええっ!」
メロスは、言いがかりをつけ、凶鳥の如く山賊に襲いかかった。その辺の山賊程度、レベルを上げたメロスの敵ではない。精々が、しゃべるアイテム袋である。
「気の毒だが正義のためだ!」
猛然一撃、ワンターンで三人を殴り倒し、残る者も次のターンで仕留めた。まるで歯応えがない。しめしめと戦利品を頂戴し、さっさと走って峠を下った。これでは、どちらが賊か、わかったものではない。一気に峠を駆け降りると、またレベルが上がった。
【メロスはレベルが上がった Lv.47→Lv.49】
メロスは、ここにきて、若干飽きを感じ始めていた。戦闘が
午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来る中、林中の草地を通って行った時、一匹の猛虎が
「あぶないところだった。」
と繰り返し呟くのが聞こえた。その声にメロスは聞き覚えがあった。驚懼の中にも、彼は咄嗟に思いあたって、叫んだ。
「その声は、我が友、リチョウンティウスではないか?」
リチョウンティウスはメロスと同年に生まれた、セリヌンティウスに次いで二番目に親しい友であった。前半でセリヌンティウスを『無二の友人』と表現したが、これは、メロスの友人が一人しかいない、という意味ではない。友人が一人しかいない、あるいは一人もいない筆者のような人種は、言うまでもなく圧倒的少数派であり、普通は数多くの友人がいるものである。本筋に戻ろう。
メロスは、二番目の友人リチョウンティウスに呼びかけた。
「何故叢から出て来ないのか。さあ、戦おう。血湧き肉躍る死闘を、繰り広げようではないか。」
メロスは、どうしてリチョウンティウスが虎の身となるに至ったか、は気にしなかった。そんなことは、メロスにとって、何の関係もない話(山月記)である。作者も違う。
リチョウンティウスは虎であったが、メロスもまた、レベルの暴力に狂った獣であった。一番親しい友人セリヌンティウスすら、平気で身代わりにしてきたメロスである。二番目の友人リチョウンティウスを打ち倒すのに、何の躊躇も無かった。まあ、どうせNPCだし。
ややあって、低い声が答えた。
「如何にも、リチョウンティウスである。今や自分は、狂い廻る一匹の虎。君を裂き喰ろうて何の悔も感じないだろう。」
「面白い。もう勝ったつもりか。」
一匹の虎が草の茂みから道の上に躍り出たのを見て、メロスは獰猛に笑った。それが、戦闘開始の合図となった。レベルアップを重ねたメロスの動きは、尋常のものではない。黒い風のように走り、躍りかかる。人喰虎も、二声三声咆哮し、それを迎え撃った。
彼らは幾度となくぶつかり合い、その度に、互いの身に傷を刻んだ。心まで虎に身を窶した獣と、レベルの力に魅入られた怪物。両者の力は、完全に拮抗していた。
しかしやがて、その均衡も崩れ去る。レベルアップである。
【メロスはレベルが上がった Lv.49→Lv.50】
突進を繰り返し、満身創痍だったメロスの身に、力が満ちる。ほうと長いため息が出て、確信を得た。勝てる。行こう。セリヌンティウスの命なぞは、問題ではない。私は、この敵を打ち倒さねばならぬ。いまはただその一事だ。走れ! メロス。
メロスは、最後の突進を決行した。守りを捨て、速度と破壊力のみを求めた、ぶちかましである。高レベルの暴力が、虎を押しのけ、跳ね飛ばし、遂に息の根を止めた。
「いい戦いだった。」
メロスは、ドロップ品を拾い、再び走り出した。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駆け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬は動物愛護の観点から蹴飛ばさず、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。なお、本当に十倍で走ったとすると、その速度はおよそマッハ10となる。レベルが上がったメロスと言えども、さすがにそれ程の速度は出ていない。つまり、十倍という数字は、間違いである。仕方あるまい。メロスは、計算の出来ぬ男であった。レベル上げしか出来ぬ、悲しき怪物であった。またレベルが上がった。
【メロスはレベルが上がった Lv.50→Lv.55】
メロスは、いまは、ほとんど全裸体で走っていた。布切れの残骸を、薄雲のように、辛うじて纏っているだけである。度重なる戦闘と、高レベル故の激しい動きに、服が耐えられなかったのだ。雲の隙間に小さく、塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきらと揺れている。
「ああ、メロス様。」
うめくような声が風と共に聞こえた。
「誰だ。」
メロスは走りながら尋ねた。
「フィロストラトスでございます。トラトスと言っても、虎ではございません。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。」
その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。レベルの上がったメロスに追いつくとは、恐るべきスピードである。
「もう、駄目でございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、貴方は遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ陽は沈まぬ。このフィールドを出るまでは、イベントフラグは進行しない。」
「な、なにを???」
メロスは走りながら、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。このフィールドに入ってからというもの、あの夕日は少しも沈んでいない。時間の経過がないのだ。次のフィールドに移らない限り、進行しないタイプのイベントである。こうなれば、走るより他は無い。
「それだから、走るのだ。レベルがカンストするまで走るのだ。クリアする、クリアしないは問題ではないのだ。セリヌンティウスの命も問題でないのだ。私は、なんだか、とにかくレベルを上げたくてしょうがないのだ! ついて来い! フィロストラトス!」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。メロスは走った。メロスの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。レベル上げは、無心で行う作業である。次のフィールドに進まず、うろうろと同じフィールド内を走り回り、メロスはレベルをカンストさせた。
【メロスはレベルが上がった Lv.55→Lv.99】
レベル上げを終えたメロスは、疾風の如く次のフィールドに突入した。刑場である。
「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。」
と大声で刑場の群衆に向かって叫ぶと、大半が泡を吹いて気絶した。レベルの上がりきったメロスは、その声ですら兵器であった。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられていた。メロスはそれを目撃して最後の勇、邪魔な群衆を腕の一振りで纏めて吹き飛ばし、
「私だ、刑吏! 殺せるものなら、殺してみろ! 彼を人質にした私は、ここにいる!」
と叫びながら、ついに磔台を蹴り砕き、釣り上げられてゆく友を、力尽くで解放した。セリヌンティウスの縄は、指先一つで消し飛ばされたのである。
「セリヌンティウス。」メロスは短刀をペロペロしながら言った。
「私を殴れ。ちから一杯に頬を殴れ。勝手に人質にされたんだし、そのくらいしてもいいと思う。殴れ。」
セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。メロスはびくともしなかったが、逆に殴ったセリヌンティウスの腕が変な方向に折れ曲がった。涙目で微笑み、セリヌンティウスはやけくそ気味に言った。
「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。」
「いや、やめとけって。死ぬでしょ。レベル違い過ぎるから。」
「君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
メロスは優しく、セリヌンティウスの頬にデコピンをした。セリヌンティウスは目にも止まらぬ速さで吹き飛び、壁に大きなクレーターを作ってめり込んだ。群衆の中からも、息を呑む音が聞こえた。しかし、彼は立ち上がった。石工らしい頑丈さで、セリヌンティウスは、再びメロスの前に立った。怪物の友は、やはり怪物であった。
「ありがとう、友よ。」
二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから決定ボタンを連打した。
暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、ガタガタと震えながら見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、華麗に土下座を決めて、こう言った。
「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしに戦わずして勝ったのだ。どうか、わしを配下に加えてくれないか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
それは、武力で名を馳せた暴君の、完全なる敗北宣言であった。圧倒的なレベル差を前に、心が折れた瞬間だった。
どっと群衆の間に、歓声が起こった。新たなる王の誕生である。
「万歳、王様万歳。」
ひとりの少女が、緋のマントをメロスに捧げた。メロスは、片眉を上げた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。新たなる国王、覇王の証だ。」
「私が覇王か。なるほど、悪くない。」
メロスは、マントを身に着け、群衆を見渡した。
レベルの暴力に怯える、哀れな子羊の群れを。
【 Cエンド:“暴”の時代 】
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