T字路の雑件

端役 あるく

前半

収穫の後なのか空いた田畑、カメの跋扈するため池、古い瓦屋根の家。

道を歩きながら、ここらは随分と見晴らしが良く、気持ちが良かった。

ただ、昔らしさの名残か歩道部分が右側にしか無く、左側には白線さえ引かれていない。若干の歩きにくさを感じる。さらに加えてがある。


帰宅の途中。

兄はまたしても私の横について歩いている。

ある学期の定期テストの帰り道であることを考慮するならば、その行動自体には何も疑問の余地はないと私も思う。兄妹であることで、向かう場所は限りなく同じで、廊下を越えた先に入る扉が違うだけである。


さらに情報をつけ足せば、今日と言う日は定期テストの中日に当たり、明日にも新たなテストが控えている。そのため、昼にテストが終了したとしても誰として学内には勉強という名目で居残る人間はいても、学友と話したりすることで時間を無駄にしようとする者は多くない。


幸いにも、学内に残るということを選択するまでもなく私には家があるし、そこは住宅街から少し道を中に入ったところにあり、騒音の心配は少ない。


これを幸いだというのは心からの感想である。況や、住宅街をスクールゾーンとして使っていた身としてはその保有する万雷の音の恐ろしさは染み染みだ。


新宅の多い住宅街は一本通った広小路に面し、朝から晩まで交通が絶えないと聞き及ぶ。夏などは特にひどいらしい。昼は整然と並べられた街路樹から発せられるセミの鳴き声の多さに、夜は磊落の精神をもってモラトリアムを消費する暴走族のやんちゃに付き合わされる。彼女の怒りようは本物だったから、話を掘り返せば掘り返すほど熱くなっていって、正直その時は大変だった。


次に会った時には叫んでやると豪語していたほどだ。

その上での今年だったが、どうやら新宅の開発が進むにつれてそちらの問題は漸減の動きを見せているらしい。無論、子供達はひどいらしいが。


それは仕方ないなと自分に言い聞かせる時、T字路に差し掛かる。

我々はT字路の短辺の左側より侵入する。

開けた環境にある私の視界にはあるものが飛び込む。視界で説明すれば右側。T字路で言うならば長辺の部分より接近が確認できた。


トラックなのは確認できる。

随分と入り組んだ道を使っているものだと感心する。

その脇道は確か、広小路に直角に接する道からの派生だったと思う。

そのトラックの正体はいまだ側面が良く確認出来ないため手に入る情報はあまり多くない。


まだ少し距離がある。このままのスピードを維持して歩き続けさえすれば、トラックを余計に停止させることなく事なきを得られる。


さらにトラックは接近する。

側面の情報はそれに伴い目に届き始める。

あまり見ない引っ越しトラックだ。積み荷の有無と言うのは分からないが、コンクリートのひび割れにタイヤが跳ねる。

ナンバープレートには4桁の番号と、地名がここらでは見たことのないようなものになっている。驚いたことが一つあり、アルファベットがかかれている地名の横の数字の一部が数字ではないのだ。

そんなものもあるのかと感心した。


歩みを進めて、T字路を渡りきる。

トラックはおよそもう数秒でその左右をどちらかに曲がることだろう。


ここで問題に直面する。

標と歩く右側のみに引かれた白線。それを堂々と跨るようにして軽自動車が止まっている。製紙工場か何かの車らしいが、道の3割ほどを占める。


この一本道の停止する車の横を私は通ることが出来るのだろうか。

軽自動車、人二人、トラック、これが横並びに慣れるほどの余裕はない。

背後からのトラックの音はドップラー効果を生み出すほどではなく、排気ガスの発生音が均等に聞こえる。

軽自動車のミラーは接触の危険を知っていてか、律義に仕舞っている。


後ろを確認するなら、止まってしまえばいい。

無論、止まるなら、歩き続けたい。

ものぐさ私は判断をする。



しかし、直前ふっと体は引かれた。

突然のことに現実の状況を理解するのに須臾の時間を有した。

兄が私の学生カバンのひもを引っ張って歩を定速で進めている。


軽自動車の体を8割ほど過ぎたところで後ろを振り返る。

トラックはその後ろ姿を向けているところだった。


「分かってたんですか。」


「何が?」


いつもながらに、分からないような顔をする兄に睥睨する。


「トラックですよ。止めるのも嫌ですし、追い立てられるのも嫌でしょう。」


「二択遊びだったし、多少ここの状況からね。」




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