第13話 マイナスかけるマイナス
……。
…………。
………………。
「せめて食うか喋るか――」
「食べます」
だろうね。
間髪入れずに食事を選択したレリエルを尻目に、俺は少しだけ待つ。と言っても、初回のように食べ終わりまで待つつもりなどさらさらない。
「よし、行くか」
「エッ、イクってこの学食――」
「やかましいぞ色ボケ天使!」
突っ込みながらも選択する逃走経路は前回と一緒。
違うところがあるとすれば、俺が少しだけ待ったことでエリートアサシン兼トップアスリートが俺を
「白神ィ……よくも私を売ったなぁ!!!」
「帰宅部が陸上部エースから逃げられると思うなよォ!!!」
窓からポーンと飛び出た鹿間は
クソッ!
思ってたよりも時間がねぇ!
「そこに直れ! 陸上部エースの秘伝でお前の首を
「そんな陸上部の秘伝があってたまるかァッ!」
必死に逃げながら体育館へと転がり込む。
窓から侵入し、目指すのは前回と同じく舞台袖。中には着替え中の生徒がいるはずだけれども必要経費として割り切ろう。
ごめん、と脳内で謝罪をしながらカーテンの中に飛び込んだ。
「きゃぁぁぁっ!」
「すまんッ! 股間を守るなんだッ!」
「変態ぃぃぃぃっ!」
「違う! 本当にこのままだと股間が危ないんだ!」
「誰か助けてェ!!!」
必死に説明するも、女生徒は何故か
普通に捕捉されていたので鹿間もカーテンをはためかせて中へと侵入してくる。
下着を露わにしたまま目に涙を浮かべる女生徒と俺を見比べると、懐からスイッと何かを抜き出した。
「……一体何をしている……!」
「いや誤解だ! ただ単純に爆発しそうな股間を救うために行動してるだけで――」
「ほうほう。爆発しそうな股間の処理を無理矢理させようとしたってことかこの強姦魔め」
「誰が強姦魔だ?!」
「お前以外にいないだろうが」
絶対零度の視線を向けた鹿間がスチャっと構えたのはクナイだ。
いや何でそんなの持ってんの? っていうかどこから出したの?
絶対絶命である。
――ただし、ここに三峰先生が来なければ。
「ほうほうほうほうほう。よく分からないが、私の授業から逃げた白神と私のお説教から逃げた鹿間がこんなところで仲良く密会か。人が近くにいて見られちゃわないかドキドキしたほうが燃えるタイプか?」
こめかみに青筋を浮かべた三峰先生がどす黒いオーラを放ちながら舞台袖に入ってきた。不意を突かれた鹿間はもちろんのこと、強烈なプレッシャーに俺も動けなくなる。
唯一動けたのは、何故か錯乱状態に陥った着替え中の子だけだ。
「せ、先生助けてっ! あの人が突然入って来て『股間が危ない』って!」
「……白神。ここで去勢されるのと裁判で言い訳を並べるの、どっちが良い?」
「ご、誤解ですッ! 本当に股間が――」
「若いリビドーってのはは嫌いじゃないけれども、それも同意があってこそだ。――ましてや私というものがありながら別の女に手を出そうとは」
「それこそ誤解だろうがァッ?!」
大声で否定をするが、三峰先生は完全に俺をロックオンしていた。
背後にはクナイを構えた鹿間。
完全に詰んでいた。
くそッ!?
鹿間と三峰先生をぶつけることでお互いを消耗させ、その間に逃げる作戦だったのに!
「死ねぇ強姦魔!」
「あの世で悔い改めろ若さ至上主義のケダモノめ!」
二人が同時に肉薄する。
そして。
俺の首が宙を舞い、股間が爆発した衝撃で吹き飛んだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁッ!?!?!?!?」
着替え中のまま動けずにいた女生徒の前に俺の生首が転がり、俺は再び死に戻りした。
……。
…………。
………………。
「せめて食べるなら静かにな」
「……」
俺のことばにコクリと頷いたレリエルがパフェに取り掛かったのを見て、大きな溜息を吐いた。
……やはり股間が爆発なんていう
ましてや、相手は股間に何もぶらさがっていない女子だ。理解されないのも仕方ない、と思う。あんなに必死に説明したのに、変態どころか強姦魔扱いというのは心外だけども。
鹿間と三峰先生から誤解された俺は挟み撃ちで
どうすれば二人をうまくぶつけることができるのか。
「まぁ、トライアンドエラーでいくか」
エラーの痛みに耐えてくれよ、と股間を撫でるとパフェを食べていたレリエルにとんでもなく白い目を向けられる。
「……もしかしてアスモデウスが覚醒しました?」
「いや? これから始まるであろう地獄に備えただけだ」
釈然としない顔でパフェを掻き込むレリエルを尻目に、俺はこれから何度も爆発するであろう自らの股間に祈りを捧げた。
「ッだぁぁぁぁぁぁ! 無理過ぎる!」
白い空間。
俺はそこで頭を掻きむしっていた。レリエルは俺からやや距離を取りながらお腹を擦っていた。
「優斗さん。優斗さんが股間爆発マニアなのは個人の趣味だから良いですけど、そろそろパフェも飽きてきました。サッパリ系のフルーツパフェが食べたくなってきましたよ私は」
「誰が股間爆発マニアだ!?」
「えっ……股間爆発フェチですか?」
「そこじゃねぇぇぇぇぇッ!!!」
あれから14回爆発した。
つまり現在、三回目の白い空間である。
どんな方角に逃げて、どんな場所に隠れようととも確実に見つけ出してくる三峰先生の【蟲の知らせ】もえげつないんだけども、もっと厄介なのは鹿間である。
クナイに鎖分銅など、どっから出したか分かんない秘密アイテムと驚異的な身体能力で無理矢理距離を詰めてくる。
屋上から校庭までダイブしてきて無傷ってのは人間辞めてるんじゃないかとすら思う。
しかも流れるような動作で俺の首を絞めに来たし。
一応、着替え中の女生徒が関わって来なければ本気で殺しには来ないっぽい。
いや、首絞められたり鎖分銅でぐるぐる巻きにされたりするからぶっちゃけ怪しいけども、少なくとも刃物を取り出して「クリティカル! くびをはねられた!」みたいな事にはならない。
「まぁボコボコにされている間に三峰先生もやってくるし、最終的には詰むんだけども」
はぁ、と溜息を吐く。
もうこの白い空間で余生を送った方が平和なんじゃないだろうか、とさえ思ってしまう。
「三峰先生もイカれるまでの間隔がどんどん短くなってるしなぁ」
俺の言葉にレリエルがアナライズを出してくれる。
「優斗さん……無自覚とはいえ一人の女性をこんな状態にしてしまったんです。しっかり責任を取るべきだと思いますよ? いえ、優斗さんが女性を
「急にガチなトーンで諭して来るのやめて!?」
『名前:三峰紫音(28)
種族:人間 ♀
能力:秀才タイプ
健康:ガンギマリ:フェロモン(レヴィアタン:封印)
備考:処女
【蟲の知らせ】』
ガンギマリ。いわゆるイケないおクスリを摂取して精神的にぶっ飛んでしまった状態を指す言葉だ。
うしろにフェロモン、とついているので【魅惑のフェロモン】のせいで正気を失っているのは間違いないんだろうけども……。
「何で三峰先生だけこんな状態なんだ?」
「ほら、薬とかって効能に個人差があるじゃないですか。きっと三峰先生はキマりやすいタイプのフレンズだったんですよ」
「嫌なフレンズだなオイ」
「それに、別に三峰先生だけじゃないですよ?」
「エッ!?」
驚く俺に、追加で二枚のポップアップウインドウが渡された。
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