第5話:赤角に殺されたい④
ギルドでは驚愕と納得と呆れの入り混じった視線に出迎えられた。
銀等級複数を要する依頼に単独で向かうなどということは普通なら生存は絶望的である。そういう意味での驚愕。
だがクロウならやりかねないという納得。
無茶ばかりやってる、相変わらずの死にたがりだなという呆れ。
銀等級パーティのシルファたちが後を追ったことを踏まえてみても、やはり討伐はもとより、生存すらも危ういというのは堅実的な見方であった。まあ普通なら。
「よく、ご無事で…!」
アシュリーが感極まったようにクロウを迎える。
「はい」
クロウは返事とともに、赤い角の残骸をカウンターに置いた。
そして、ちらりと背後のシルファたちに目をむけ、アシュリーに対して軽く頷いた。
クロウとしては、彼らの力も借り討伐することができた、という意思表示である。
だがここまで簡略化されると、普通はクロウが何をいっているか分からない。
しかしアシュリーはさすがにクロウとそれなりに付き合いがあるだけあって、彼の言いたい事のおおよそを察した。
「シルファ様!グランツ様、アニー様、クロウ様の救援にむかってくださったことを感謝します」
「いえ、クロウ様には以前命を救われました。当然のことをしたまでです」
シルファはそう答えると、後ろの2人に目配せをする。
グランツとアニーは黙したまま肯く。
「クロウ様も本当にありがとうございます。達成された今だからいえますが、あの依頼は王都のギルドでも正直手に余るものでした…」
アシュリーが深々と頭を下げる。
「はい」
クロウは相変わらず一言で答えた。
だが、その表情はいつもよりもほんのすこし柔らかかった。
ギルドでのやりとりを終え、クロウ達は帰路につく。
宿は別だが、途中までは同道することになった。
「それにしても驚きです。まさかクロウ様が銀等級冒険者だったとは……いえ、それより低いとおもっていたわけではないのです。逆に、そこまでの実力がありながらもなぜ銀等級に留まっているのかということで…」
「はい」
クロウがいまだ銀等級なのはそのコミュニケーション能力の低さと、そもそも本来のクロウが銀等級に昇格したばかりというのもあった。
ギルドの規定で、昇格後は暫くその位置に留まることになっているのだ。これはその等級に本当に相応しいかギルドが見極めるための期間でもある。
「…しかし、グレイウルフの一件もありますが、クロウ様はもはや金等級でもおかしくないとおもいます」
「いいえ」
「……えっと…」
「はい」
「……はぁ」
シルファは溜息をつくと、前を歩くアニーとグランツに視線を向ける。
・・・・
(クロウ様はなんというか…変わった方ですね。というより、はいかいいえでしか話している所を見た事がないです…)
クロウはシルファの質問に対し、首を横に振るだけだった。
シルファとて彼と出会ってまだ日が浅いが、彼が受けてきた数々の依頼内容を鑑みれば、確かに金等級であってもおかしくない実力を持っていると思える。
しかしクロウは頑としてそれを認めようとしなかった。
金等級冒険者になるには、推薦なども必要だ。
クロウは見る限りでは人付き合いが上手とはいえない。
おそらくそのあたりの折衝がうまくいっていないのではないだろうか?
「まあ、クロウ様の事情もあるでしょうしね」
シルファはそう独り言ちると、ふと自分の足が止まっていることに気付く。
どうやら考え事をしていたせいで、いつの間にか立ち止まったままになっていたようだ。
「すみません、お待たせしました!」
シルファは慌ててクロウたちの後を追う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます