最恐が招魂されて霊力最強の魂修復仙師になりました 招魂されて蜘蛛宗主と呼ばれるまで

玲瓏

第1話 招魂

 桃華とうか一三七年に起きた出来事だった。

 その日はどちらの世界も記録的な豪雨の嵐だった。現代日本の紗々ささ大学8年目の25歳は七月七日招魂された。

 そして謝砂しゃさは自らの魂と引き換えにし招魂術を成功させた。後世に最高の魂の修復師としてその名を残すことになる。

招魂にされる魂は千年修行し悟りを開いた仙と同じく輝くような霊力に満ちている。

その目は邪を見極める心眼であり、亀裂がはいった魂魄もその霊力で修復し天に再び帰す。





紗々がテレビをつけるとちょうど天気予報だった。天気図と共に解説がされるが終わりかけだったようで最後しか聞けなかった。

「今日は突然上空に現れた前線で台風並の嵐になっています。お気をつけください」

ビュービューと吹きあれる風でベランダ側の窓が閉じているのに音をたてて揺れていた。カーテンは閉め たまま外を覗いてないが荒れているのは感じる。

降り始めたようでポツポツと雨の音が聞こえた。

今のうちにと湯を溜める。しばらくすると雨足が強くなって窓を叩きつけるように降り始めた。

(天気予報当たってる。嵐がくる前に入っとかないと)

ちょうどよくアナウンスの音声が流れる。

「お湯が溜まりました」

自動ボタンをもう一度押して切った。

「分かったよ」

一人暮らしをはじめてから何でも会話してしまう。

何もつけてないと怖くてテレビの音量を大きくしてつけっぱなしにしたまま浴室にいく。

服を脱いで浴室に入るとゴロゴロっという雷の合図が換気扇から聞こえた。

そしてドーンという雷の音にざーっと叩きつけるような雨の大合唱が始まる。

微かに聞こえてくるテレビの音で少し安心する。

「こわっ」

急いで湯が貼られた浴槽のなかに大人しくはいると頭まで湯の中に浸かってから顔を出し犬のように頭を振って水しぶきを飛ばす。

「ふぅー。気持ちいい」

入浴剤として入れたバスソルトに入っているラベンダーのアロマの香りが紗々の気分を落ち着かせた。

最近同じような夢ばかりみてうなされていた。

(嵐なんて大っ嫌いだ。雷じゃなくて大きな腹の音。雨音は海で)

 ゴロゴロっと大きな空の腹の音が一瞬やむとドンという腹に来る重低音の雷音が轟いた。紗々は大きな音にも敏感で心臓が止まりそうになる。

 お風呂に肩までゆっくり浸かりほぐれると眠りに落ちるような感覚でいきなり声が頭に響いた。

「君が私の代わりに奴らから守ってくれ。私にできる最後の最善の行いだ」

 またいつもの夢の続きのようだ。それか部屋のテレビをつけっぱなしにしていたからドラマのセリフが聞えてきたんだろうか。しかし換気扇とは逆風で雷雨が入ってくるのではないかというぐらい吸い込む音がすごい。

「この術式で呼び出せるのは長年の雪辱を晴らす者であり、悪鬼の魂よ」

 頭の中で言いたい放題言われて聞き流そうとしたが自分に言われているみたいですごく不愉快だ。

(なんだ悪鬼って。健全過ぎる生活を過ごしている者に対して失礼だろが)

「この魂の代償として捧げる」

 ポタっと水滴が天井から落ちたような気がして怖くなりぱっと目を開いた。天井から水滴がぽたぽたと落ちてくる様に見上げると頭上に陣が現れた。

 外の嵐は勢いを増してドンと突き上げるような雷音が近くで落ちたように建物が波打つような揺れを感じる。そしてシャワーのようにざーっと水が降ってきて息を思いっきり吸って湯の中に全身をいれた。

(勝手に捧げるな。ちょっと待って!!)

 遠くで別の人が誰かの名前を叫んでいる声も聞えるが聞き取れない。

「知古を代わりに必ず奴らから守ってくれ」

 叫ぶような最後の約束のような声が聞えるとつんざくような激しい豪雨の音とともに天井の換気扇に落雷したような一瞬の光とすさまじい地響きに大型の洗濯機の渦に引きずられるようなねじれるような感覚が紗々を襲った。

(これは栓が抜けて水が勢いよく抜けただけだ。そうに違いないがもう息がもたない……)


 紗々は何かをつかもうと手を伸ばすと手首を誰かに掴まれて引っ張られて顔を出して息をした。

 口のなかに空気と一緒に水を飲んだ。掴まれたまま引き上げられている。

 地面に寝かされてるとゴホゴホと咽るように咳込み体が飲んだ水を気管から追い出そうとする。

 体を横向けに直されて背中をさすられる手に紗々は落ち着きをとりもどし息を吸って吐くこだけに集中できると呼吸が整った。

「ぷっは。はぁ。はぁ。はぁ。生きてる……」

 背中から手が離れると身を起こした。お湯に入っていたはずなのにすごく体が冷えてる。風が吹きつけると芯から冷えて唇が勝手に震えきゅっと体が縮こまった。

 顔についた水を手で払うように何度も手のひらで拭う。顔に張り付いた髪を後ろに流すが背中まで髪がはりついている感覚があり重たい。絡まっているようで自分の髪のように痛い。

 水滴を払いのけると目を開けた。自宅の浴室で湯舟に使っていたはずがどう見渡しても場所が違う。

 あたりは薄暗くすさまじい嵐が去った後のようで建物の中だというのに床まで水浸し。神聖な廟の中ようなのようだ。もしくはスーパー銭湯の大浴場。

 溺れかけるように入っていたのは浴槽ではなく円形をしたジャグジーのような人工的な池みたいだった。そして滲んで消えかかっているが周りを囲むように呪文のような文字が書き込まれている。

(しかし寒い。このままじゃ凍えちゃう)

 ないかないかときょろきょろとするが何もない。紗々は両腕を擦っていると背後に気配を感じた。

 すると背中から上着をかけられ全身をくるむように包まれた。暖かさを感じて顔をうずめると花と柑橘のような香りを感じて深く吸い込んだ。

(ーーそうだ。助けてくれた人)

 目の前に座る気配を感じ顔を上げた。その人は懐から一枚の術が書かれている紙札を指で挟むように持ち一瞬でライターのように火がつく。そして火を飛ばし燭台に灯された。

さっきまでは見えなかった鳳凰のような大きな鳥が翼を広げている像があった。恐ろしくて目をそらし見ないふりを決める。

「術でつけた火は風で消えない。落ちついたか?」

「ここはどこ?」

「一つの体に一つの魂しか入れない。君は誰だ?」

「紗々」

「何歳だ?」

「えっと二十代」

 正直に本当の年齢は言いたくはない。適当に誤魔化した。

「この体は十代だ。若くなってよかったな」

「よくない。まだ死んでいないし、異世界に行きたいって望んでもいない。転生者でもないから能力も備わっていないはずだ。自慢じゃないが怖がりだから心臓も弱いんだ」

 どこにいるのか分からない恐怖を感じていたのについつい返事をしてしまうのは目の前に今いるのが面識がないのに夢の中で毎日のように見ていた顔だった。面識もないし夢の中なのになぜ記憶があるかというと、テレビや2次元でしか拝んだことがないぐらい仙人のような神々しい美人だからだ。

「今までを前世だと思え。これからを今世だと思えばいいじゃないか。招魂で耐えられた魂は今までみたことがない」

「帰ってこれた」

自然と零れるように出た言葉だった。

紗々の意識ではなく魂が言ったようにとても小さな声。

真面目に目の前にいる人は紗々が意識が帰ってきたと言いたいのだと思ったようで丁寧に答えてくれる。

「東の国に伝わる邪術の招魂で召喚されたんだ。術者の自らの魂と引き換えに自分の体に同じでも違う魂を召喚する術を成功させた」

「なんか難しい。あなたはなぜここにいるの?」

 整った顔をくしゃっと歪ませた。

全身を震わせて怒っているようで泣きそうな複雑な表情に手を差し伸べるとぱっと手をつかまれた。

力強くて白くてその美しい顔の頬に触れる。

「この体の主を止めにきたのが遅かったんだ。すでに術が発動されて消える瞬間だった」

「あなたは誰?」

「私は桃爛とうらんという。らんとよんでくれ」

紗々がみていた夢の中で見覚えのある顔だった。

「爛」

「そうだ。以前の君は名を時々しか呼んでくれなかった」

(だから知らないわけだよな)

「記憶もある程度は引き継がれるはずなのだが覚えてないか?」

「まったく覚えがないし、教えられてもない」

「招魂される前の記憶はあるか?」

「あるよ。怖がりも覚えてるし今でも怖いんだ」

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