七・五・三分喜劇集

須賀正俊

月曜日〜取り乱す“スーパー吉原”〜


私の名は吉原純也(ヨシハラ・ジュンヤ)。



バスケットボールの、現役の世界的な名プレーヤーである。



自分で言うのはおこがましいとは思ったのだが、事実なのだから仕方がない。



バスケットボールの本場であるアメリカのプロリーグで、6年連続で3ポイントシュートでの得点で1位を記録し、来シーズンでも記録の更新を狙っている。



そう、私は日本のみならず、世界中のバスケットボールを愛する者たちが認めるスーパースター、“スーパー吉原”なのである。



現在はシーズンオフであり、アメリカから日本に帰国していて、北海道函館市の実家で過ごしている。



今はリビングのソファーに座ってテレビを観ている。



全国中学校バスケットボール大会の決勝戦の模様が放送されている。



『フリーになっている本間にパスが渡った、本間、スリーポイントシュート。決まりました』



男性アナウンサーの実況が部屋の中をこだまする。



『シューティングガードの本間は“スーパー吉原”の大ファンということでして、本日の決勝戦は、宝物である“スーパー吉原”のサイン入りのシューズを履いてこの大事な試合に臨んでいます』



(……そうだ、あの時の少年だ。私がシューズにサインしてあげたら泣いて喜んでいた子だ。大丈夫、君には“スーパー吉原”がついているんだ)



純也は握りこぶしを作って、テレビに映る本間に向けてエールを送った。



試合は終盤に差し掛かり、本間の属する中央中学は1点差で負けている。



残り時間は3秒、本間は相手陣内に切り込んでレイアップシュートを決めようとした所で、相手チームの選手からファールを受けた。



本間には2本のフリースローが与えられ、2本とも決めれば奇跡の大逆転優勝である。



本間は極度の緊張のためか1本目を外し、そして2本目も外してしまった。



リバウンドを相手チームのセンターが取り、試合終了のブザーが鳴った。



中央中学校の選手たちはその場で泣き崩れた。



そんな中、本間の姿がアップされると、彼は“スーパー吉原”の直筆サインの入った右足に履いていたシューズを脱ぐと、“このクソが!” と言わんばかりに、思いっきり床に叩きつけた。



「オレのせいかい! このクソガキが!」



スーパースター・吉原純也はソファーから立ち上がると、思わず声を荒げて取り乱してしまった。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る