第十二話:勇姿を見せつけましょう!
その晩の食事、家族全員が怒りに震えていた……一部を除いて。
「ほっほ。マリー、まだ他国に行ったことがなかったじゃろ? 見聞を広めるため、行ってきなさい」
えぇ……パパン、あいつら明らかに挑発してきてるのに、可愛い娘をそんなところにいかせるつもり?
そんなことより、私は体を鍛えたいんですけど……。
私がそんなことを考えていると、パンっと扇子の音が響く。
「私たちを舐めてるなら、やっておしまい……」
ヴァネッサ様の背後から竜が見えてくるほど怒気を孕んでいた……が、頭の上には可愛いハムスター型の魔物を乗せている。
「あらあら。招待されてるなら歓迎されそうですね」
えぇ、ニノン様はなんでいつもちょっと間違った方向に賛成なの?
どう考えても歓迎じゃなくて挑発なんですが……。
ちょっと姿勢を傾けて、ニノン様の横を見ると可愛らしい羊の魔物を撫でていた。それをいつのまにか席から離れたアミラ姉様が顎をもふもふして楽しんでいる。
私が半ば呆れていると、セドリックお兄様が机をバンッと強く叩いた。
「魔物たちの訓練を激しくして一端の兵にしてやる!」
えぇ……セ、セドリックお兄様はなんでそっち方面に行くの。
後日魔物達の訓練が苛烈になり、魔物達が神聖国を毛嫌いするようになるのは別の話。
続いて向かい側の席にいる第三皇妃のヴァネッサ様が、縦ロールを震わせながら机を叩く。
「帝国をバカにしてますわね! マリーさんそのまま、神聖国を攻め滅ぼしなさい! 私が許可しますわ!」
さ、さすが王国と何百年にも渡って殺し合いをしている公爵家出身のヴァネッサ様。
言うことがおっかないですよ……。
パトリックお兄様は特になんともない顔で、黙々ご飯を食べているがどこか怖かった。
ヴァネッサ様は怒り心頭のご様子で、何度もバンバン机を叩いていると皇帝陛下が口を開く。
「ほれほれ、ヴァネッサ。そういうことを言うんじゃない」
「ですが!」
「ヴァネッサさん」
お、ママン!
「いいじゃありませんか、マリーに行かせましょう」
えぇ……。
擁護してくれると思いきや……いきなり背後から刺された気分だよ、ママン。
「でしたら……ジャック、ジェレミー!」
「ん?」
「どうされましたか? 母上」
ヴァネッサ様にいきなり呼ばれたジャックはもぐもぐしながら顔を上げ、ジェレミーは頬をピクピクしていた。
「マリーさんと一緒に行きなさい!」
えぇ、ただでさえ嫌なのに……ジャックとジェレミーもぉぉ?
私が嫌な表情をしてジェレミーを見ると、ジェレミーも嫌そうな顔して私を見た。
「何よ」
「こちらのセリフです」
ジャックはよくわかっていないのか、頭を傾けてまたご飯をかきこんでいる。
「「ふんっ!」」
「ほっほ。決まりじゃな。今回はジャックとジェレミーそしてマリーが神聖国へ行って参れ。ただそれだけじゃ舐められるからのぉ、第一騎士団の精鋭たちを連れて行きなさい。わかったな?」
皇帝陛下は笑顔を貼り付けて言うが、その中から般若が伺えた。
パ、パパンが珍しく怒ってる。
◆◇◆
「ひゅー! こんなに騎士と魔物達が勢揃いだと壮観だなぁ」
ジャックは口笛を吹きながら、腕を頭の後ろに組んで外を見ていた。
「たくっ。なんで僕まで一緒に……」
「いつまでも言ってんなよ、ジェレミー。旅は道連れ、世は情けって言うだろ?」
ジェレミーはその横で、馬車の窓に肘をつけイライラした様子を隠そうともしない。
「マリー様、私たち魔軍も精鋭中の精鋭を連れて参りました」
そ、そうですか。
「魔軍?」
「はっ、ジャック様。我ら魔物の軍団としてパトリック様が新たにつけていただいた名です」
ウィルがすかさず答えた。
「へぇ」
へぇ。
あっ、ジャックと被っちゃったわ。
く、悔しい……。
「パトリック兄さんってそこまでしてんだ、暇なの?」
「お前はもう少しは帝国内のことを知れ。学園でも赤点だらけ……よくのほほんとしていられるな」
ジェレミーがジャックに毒づいた。
「べぇつに俺は皇帝になるつもりないし、魔物たちと戯れることができるなら、なんでもいいよ」
いつものやりとりなのか、ジャックはジェレミーの言葉に対して、暖簾に腕押し。空返事で返す。
「チッ。本当、ムカつくやつだな」
ヴァネッサ様ぁぁ……。
どうしてこの二人をセットで押し付けてきたんですか?
もう厄介ごとしか見えてこないですよぉぉ……。
馬車に揺られながら憂鬱になった私は、ついつい意識からシャットアウトしていた外を見てしまう。
「「王ノ中ノ王ヨ。我ラガ気高キ魔ノ王ヨ!」」
「「寵愛にして慈愛の神マリー様よ! 我らはあなたの
帝国を出てから魔物たちが外で、ずっと私を称えるように歌い続けていた。
くぅ……やっと頭から消していたのに……。
本当やめてちょうだいよ……恥ずかしくて死にそうってのに……。
「ふっ」
私が馬車の中へ顔を戻すと、ジェレミーが馬鹿にしたように鼻息をたてた。
こ、こいつ……。
私は口をパクパクして「宝箱」と動かすと、ジェレミーが顔を赤くして私を睨みつけてきた。
ふんっ。
「宝箱?」
私の口元を偶然見ていたジャックが口に出す。
「お、お前は気にするな!」
「うぅん?」
ジェレミーはジャックの胸ぐらを掴んで前後に揺らして忘れさせようとするが、ジャックはアホなのかよくわからず頭を捻っていた。
みんなに宝箱が何かを華麗な私が教えてあげましょう!
先日、私がジェレミーの弱みを握るために部屋を捜索した時に見つけたのよ! 私がニタニタしながら鍵をぶっ
くくく……。
それを知ってから私はジェレミーが何かするたびに脅しに使っていた。
そろそろ、魔物たちの歓声のせいで頭から湯気が出そうになったので、窓から手を出し魔物たちの声をやめさせる。
「そろそろ神聖国に入ります。あなたたちは今まで魔物、魔物とまるで侮蔑されるように言われてきましたが、すでに私たち帝国の宝であり私の子でもあります。胸を張りなさい」
馬車の中から顔を出して魔物のみんなを見渡す。
「私たちの勇姿を見せつけましょう!」
「「「うぉぉぉ!!」」」
と、とりあえず賛美を止めるために適当なこと言ったけど、大丈夫よね?
むしろ鼓舞になっていますよ。
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