第四話:加護の乱用
うーん。
なんか……おかしくない?
私は姿見の前で何度も身体をくるくる回して見ていた。
すくすく育つのはいいけど、育ちすぎでしょ。
まだ十二歳なのにすでに百六十センチ超えて、アミラお姉様より身長高いんですけど。
ま、まぁいいわ。他の子たちもなんかゲームの原作より大きいけど、私のせいじゃないわ!
おそらくも何もないが、あなたが水の加護を乱用しみんなの身体を強靭にしたからだと思いますよ。
私は髪を靡かせながら部屋から颯爽と出る。
ふふっ、今日の私は一段と素敵ね。
あっ、セドリックお兄様だ!
「お兄様!」
「お、マリー。今日も元気いっぱいだな」
や、やっぱりセドリックお兄様もなんか大きいな。
原作だと百八十センチだったよね……なのに、十七歳でもう百八十センチを優に超えてない? いや、気にしたら負けだ!
気にしてください。
「お兄様はこれからどちらへ?」
「あぁ、魔物の討伐にな」
なぬ! 魔物だと!
「私も魔物討伐へ行きたいですわ!」
「だめだ」
即答するセドリックお兄様。
「ぷぅぅ」
私が頬を膨らませると、セドリックお兄様が私の頬を突っついて、しぼませてきた。
「むぅぅ」
これしきのことで!
「そんなにむくれたってダメだぞ」
セドリックお兄様は私の頭をひど撫でして、廊下を去ろうとした。
くぅ……今のうちに魔物の対処方法を知らないと将来攫われるのに……。
そんなことを考えていると、なぜか涙がこぼれて絨毯にシミを作っていく。
「マ、マリー様!」
侍女のリヌが血相を変えてハンカチを渡してくれた。
「ん? おいおい……そんなに行きたいのか?」
私がハンカチで顔を拭きながら頷くと、セドリックお兄様が深いため息をする。
「はぁ、わかった。ならお父上に話を通して、許可を得てからだぞ?」
「お兄様!」
私は思わずセドリックお兄様の胸元に飛び込んだ。
「おいおい。身体は大きくても中身はまだまだ子供だな」
お兄様は眦を下げて私の頭を何度も撫でる。
というかやっぱり身体大きくありませんか? い、いえ、別にイケメンで優しいからいいですけど……。
よくありません。
◆◇◆
「お父様ぁぁ!」
「むぅ。しかしなぁ……」
「うぅ、お父様ぁ……」
「し、しかし」
「お父様!」
「も、もうしょうがないのぉ……近隣の安全な所だけじゃぞ?」
ふん。私の泣き落としに負けたか。余裕だったわね。
その時、ドアの隙間からチョロチョロと影が動いていた。
ん?
私が疑問に思っていると、それは飛び出すように入ってきたと同時に声を発した。
「じゃ、俺も行きます!」
は?
ジャックが右手を挙手するようにぴょんぴょん跳ねていた。
「むぅ……マリーを良いと言ってる手前、しょうがないのぉ……おぬしら二人だけじゃぞ?」
「ありがとう! 父ちゃん!」
と、父ちゃんって……一応、皇帝陛下だぞ。
お前も一応ってつけてるだろというのは置いといて。
二人が去った後、末っ子のアルが皇帝陛下に「僕もいく!」と懇願するが却下された。
アルが目をバキバキにさせながら筋トレに励むことになるのはまた別の話。
◆◇◆
「はぁ……魔物を倒せると思ったのに、ずっと馬車の中でつまんないな……」
「そうね……」
私はジャックに同意しながら馬車の椅子から滑り落ちそうなほど深く座っていた。というかもうほとんど後頭部で椅子に座っていた。
「どっこらせ」
「おばさんかよ」
「一々、うっさいわね……」
つい、出した声にジャックがツッコミを入れてきた。
肩肘をついて窓の外を胡乱げに見ていると、遠目に何かを発見する。
「うーん?」
「どうした?」
ジャックは私の声に釣られて一緒に外を見る。
「ん? ゴブリンっぽいけど、なんか変じゃないか?」
「そうね」
ジャックの言う通り、頭にツノが生えているが美男子だった。
確か、ゲームに登場した魔物だと思うけど、こんな早くからいたかしら? 確か主人公が十四ぐらいの時だったと思うんだけど……。
まぁ、私という存在がいるし、そういう魔物もぽんぽんいるんだろう。
いません。
私たちが気づいているぐらいなので、お兄様たちももちろん察知していた。
「お前たちは馬車にいろ」
セドリックお兄様は強い口調で言ったが、私は興味心がくすぐられこっそり馬車から降りた。
馬車を守っている騎士が私にすぐに気づいて天を仰いだが、後ろからジャックもついてくる。
騎士も立場上強く言えないようで口パクで「遠くからですよ!」と言った。
私が親指を立ててグッとすると、ジャックも頭を傾けながら私の真似をした。
「オ、オレ、オソワナイ。ヒトリ」
キャー! 魔物がしゃべったぁぁ!
と言うのは嘘で、実はこの世界では知能が高い魔物は普通に喋るのよ。
私はゴブリンをジロジロ見る。
うーん。ますます、ゲームに登場した魔物に似てるわね……兄弟かしら?
お兄様たちは剣を振り上げたので、私はパッと手を広げて真ん中に入る。
「おい! マリー!」
私のために争わないで!
一人心の中で小芝居をしながら、少し怒っているセドリックお兄様を無視し、ゴブリンへ顔を向ける。
「初めまして」
「ハ、ハジメマシテ」
その時、ピカーン! と私の灰色の脳細胞に雷が落ちた!
「私、マリー。あなたは?」
「マリー、マリー。オレ、名前ナイ」
「そうなの?」
ゴブリンは特段攻撃してくる気配もなく、ビクビク怯えながらマリーと会話をする。
そんな二人のやりとりをセドリックと騎士たちは油断なく警戒を続けていた。
「なら私が名前つけてあげる! うーん、そうね! ウィリアムで、ウィルとかどうかしら?」
「ウィル! ウィル!」
ふっふっふ。この子を仲間にして、強くすれば憎き魔王に対抗できるわね。ぐふふ。
取らぬ狸の皮算用という言葉をこいつの頭に植え付けてやりたい。
ゴブリンがそう言って喜ぶと、私の身体から大量の金色の何かが飛び出してゴブリンに入っていく。
えっ、嘘。
何……これ……。
そして私は意識を失った。
◆◇◆
「マ、マリー! ガァァァ!」
ゴブリンはマリーを名を叫びながら自身の胸を掻きむしる。
「「マリー!」」
すかざずセドリックとジャックがマリーに駆け寄った。セドリックはマリーを後ろから支え、騎士たちはゴブリンを強く睨みつける。
ジャックはいつもの飄々とした顔からサッと表情を変え、マリーの呼吸を確認してから腕に指を置いて心拍音を測る。
「セドリック兄様。問題ありません」
ジャックは真剣な表情でセドリックに報告した。
「ふぅ、よかった。しかし、どういうことだ? 寵愛の子が関係……いや」
「……セドリック兄様、寵愛の子とは?」
いつもの言葉遣いすら変わったジャックは長兄のセドリックに聞く。
「お前が生まれた翌年だから知らない……か。マリーが生まれた日、帝国の各地で黄金にキラキラと輝く光が降って来たそうで、それに触れた人たちはたちまち病が治ったらしい。それからマリーは国民から寵愛の子と呼ばれるようになったんだ」
「妹のマリーが?」
ジャックはピクッと片方の眉尻を上げて、セドリックに聞き直した。
「あぁ、医者の話では第四皇妃のマリヴォンヌ様も出産時に危篤状態だったが……いや、忘れろ」
「はい」
兄のセドリックが言葉を断ち切ると、ジャックは深く聞かずゴブリンを見た。
「しかし、これは……伝承にある進化でしょうか? そんなことは……」
「おそらく……な」
騎士たちは油断なく周りを警戒している中、二人の意味深な声が森の中で響いた……。
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