第24話 ニールの妹患い(重症)
「それで、話ってなんだよ、シグート」
ユミエとの、庭先でやったピクニックもどきが終わった後、俺は約束通り屋敷にある俺の部屋でシグートとの話し合いに応じていた。
ユミエとの楽しみが、こいつのせいで少し減ったと思うと腹立つけど、どうも真面目な話みたいだから怒るに怒れない。
そんな俺の内心に気付いたのか、シグートは苦笑を浮かべた。
「そう睨まないでくれ、ニール。僕だって好きで来てるわけじゃないんだ」
「俺をからかって遊ぶのと、ユミエにちょっかいかけようとするのは好きでやってるよな?」
「否定はしないよ」
余裕の笑みではぐらかされて、俺は少しだけ負けた気分になる。
俺より年上なのもあってか、シグートには口でも剣でも勝てた試しがないんだよな。
魔法を絡めた戦闘なら、最近は良い勝負になってきたんだけど。
「まあ、そんなことはいいじゃないか。仕事の話をしよう」
「それって、前に言ってた魔物対策の話だよな? 父様と話はついてるんじゃないのか?」
シグートは今、王宮で開かれる予算会議で、魔物対策にかかる予算を他の貴族と奪い合っている最中だ。
俺はまだあまり詳しく知らないけど、王家による干渉や支配を快く思っていない貴族達が結束して、度々シグートの邪魔をしてるんだとか。
だから、今回は邪魔されないようにって、父様に助力を求めてたみたいなんだけど……どうも、少し違う話らしい。
「以前話したろう? 裏で魔物を取引する貴族達がいると。その取引が行われる場所を突き止めたから、近々そこへ踏み込む予定なんだ」
「……そこに、俺も参加するのか?」
「ああ。取引が行われる場所が場所だし、確実な証拠を掴むためにも、出来るだけ少数で……かつ、相手に警戒させないメンバーで制圧したい」
「場所……?」
「ベルムント公爵家の私有地だ」
予想外の名前に、俺は驚いて目を見開いた。
魔物の裏取引に、公爵家が関わってるのか!?
「どこまで関与しているかはまだ分からないが、公爵家所有の倉庫で取引が行われることだけは確かのようだ。僕が遊びに誘う唯一の友で……僕が知る限り最も才能ある魔法使いの君にしか頼めない。お願い出来るかな?」
考えていたよりも、ずっと大きな仕事だ。正直、怖くはある。
でも、それ以上に……ベルムント公爵家の名は、無視出来なかった。
ベルムントの令嬢が、シグートに執心なのは有名な話だし……それもあって、あの令嬢はユミエにやたらと対抗心を燃やしている様子だったからな。
タイミングがタイミングだけに、放っておける話じゃない。
「当然だろ、俺に出来ることなら協力する」
「ふふ、君ならそう言ってくれると思っていたよ」
そう言って、シグートは嬉しそうに笑う。
同性の俺から見ても、絵になるくらい綺麗なその顔を見せられたら、思わずなんでもやると頷いてしまいそうだ。
……俺でさえそうなんだから、ユミエから見たら余計魅力的に見えてるんだろうな。
くそっ、甘いマスクでユミエを誘惑するなんて卑怯だぞ!! さっきも当たり前みたいに頭撫でてたし……それは俺だけの特権だぞ!!
「ニール、思考が脇道に逸れてないかい?」
おっと、確かに今はシグートとユミエのことは関係なかったな。ついあいつのこととなると頭がそれでいっぱいになっちまう。気を付けないと。
「全く……本当に、すっかり妹にゾッコンだね。以前君が僕に送ってきた手紙の内容、この場で読み上げてみたくなるよ」
「やめろ、本当にやめてくれ、死にたくなるから」
以前の俺は、本当にどうかしていた。あんなに可愛いユミエを邪険にするなんて、本当に馬鹿げてる。
もし過去に戻れる魔法があったら、今すぐユミエが来た日に戻って過去の俺をぶん殴りたい。ちゃんとユミエの味方になってやれって。
そうしたら、きっとユミエも今以上に俺に懐いてくれて……それで……。
「おーいニール、そろそろ現実に戻ってきなよ。顔が気持ち悪いくらいにやけてるよ」
おっといかん、またやってしまった。
「やれやれ、これは本当に重症だ。恋患いならぬ、妹患いかな? こんなの医者でも治せないし、君の寿命はあの子が結婚するまでだろう。ご愁傷さま」
「おいこら、勝手に殺すな。まだユミエが結婚すると決まったわけじゃないだろ」
「結婚したら死ぬって部分を否定しようよ、そこは」
そりゃあだって、ユミエと会えない毎日だなんて、想像しただけで死にそうだし。
今の俺は、ユミエの可愛さからしか得られない栄養で生きてるんだ。間違いない。
「今回の作戦、多分一週間以上はあの子と会えなくなると思うけど……大丈夫かい?」
「…………」
ユミエと、一週間以上、会えない……?
は、ははは。それくらい、どうってことないさ。そもそも、ユミエのために行くようなものだしな。
兄として、当然の責務を果たすのに、大丈夫も何もあるわけが……。
「えっ……ちょ、ニール、もしかして泣いてる? しかもなんか口から血が!? えっ、想像しただけで唇噛み切るほど離れたくないのかい!?」
「ソンナワケナイダロ。ミマチガイダ」
どうにかそう言葉を返すも、全く納得されなかった。
シグートは俺の様子を見て天を仰ぎながら、一言。
「本当に、重症だね……」
うん、まあ……今この時ばかりは、俺もそう思った。
……出発前に、たくさんユミエを抱き締めておこう。少しでも長く耐えられるように。
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