女勇者は「個人事業主」だから確定申告しなさい！

６．店員「いらっしゃい」女勇者「レギュラー満タンで♪（ペガサスの餌ください）」

◆前回から引き続き、冒険者労働組合『ギルド』の食堂広間――

男商人（ユウジ）「今さら聞くのも何だが……天翼馬（ペガサス）との『使い魔契約』の締結時に、

　　　　労働報酬として「現物給与（食事支給）」を明示してもいなかった

　　　　のにどうして女勇者（タカ）は天翼馬（ペガサス）に食べ物をあげたんだ？」

女勇者（タカコ）「そりゃ～よく働いてくれましたから！　きっと天翼馬（ペガサス）も腹ペコです

　　　　から！　かわいそうですから！」

男商人「……。あのさ、女勇者（タカ）はどうやって天翼馬（ペガサス）の餌（エサ）代を経費にするつも

　　　　りだったんだ？」

女勇者「よくぞ女勇者（わたし）の作戦（プラン）を聞いてくれました！　私も勉強したんですけ

　　　　ど……「仕事のために使用した自動車の燃料（ガソリン）代」は問題なく経費に

　　　　なりますよね？」

男商人「お、よく調べたな。仕事のためであれば「燃料（ガソリン）代」は経費になるぞ。

　　　　……それに何の関係があるんだ？」

女勇者「天翼馬（ペガサス）の食事（エサ）も、燃料（ガソリン）みたいなものかと！」

男商人「幻獣種（レアモンスター）を乗物（クルマ）扱いするなよ！？」

男商人「やれやれ、自動車のない異世界で「燃料（ガソリン）代」という発想を持ち出す

　　　　とは……それで、ギルドの相談係（キノミナ）さんは何て言ってたんだ？」

女勇者「片眼鏡（モノクロ）をクイッと上げて「却下ですわ（いてつくはどう）」の一言でした（ガクブル）」

男商人「すっげ怒ってるじゃねーか！？」

女勇者「税務署（だいまおう）に、女勇者（わたし）の理論武装（アストロン）は効きませんでしたよ……」

男商人「異世界（こちら）の住人（エルフ）達は、知性ある幻獣に対して敬意を持って接するから

　　　　な。地域によっては信仰の対象になってるくらいだ。荷馬車（のりもの）と同じ

　　　　扱いにしたら、そりゃ怒るさ……」

女勇者「何を言いますか、勇者の旅において「馬車」は超重要（キーアイテム）じゃないです

　　　　か！　毒沼やマグマの上を移動しても大丈夫（ヘッチャラ）だし、穴に落ちたり

　　　　爆裂呪文（イオナズン）を受けても全く壊れなくて――」

男商人「そろそろ怒られるからやめようね！？」

男商人「そう言えば、天翼馬（ペガサス）とは仕事（クエスト）の時にだけ召喚する『登録型派遣』の

　　　　『使い魔契約』だったよな。仕事（クエスト）のない時、天翼馬（ペガサス）は何してるんだ？」

女勇者「普段は「霊峰ハダノ」の山麓で仲間（ペガサス）達と静かに暮してますよ」

男商人「その時、天翼馬（ペガサス）の食べ物（エサ）はどうしてる？」

女勇者「え、自分で探して食べてるんじゃないですか？」

男商人「やっぱりそうなるか……だとすると、天翼馬（ペガサス）の餌（エサ）代を経費にするの

　　　　は難しいかもしれないな」

女勇者「えぇ～どうしてですか！？」

男商人「説明するとだな――そもそも「経費」とは「事業を運営するため、

　　　　つまりは利益を得るために必要となる支出」のことだ。逆に言えば

　　　　「事業に関わらず、日常的に、誰もが必要とする支出」は、経費に

　　　　できないことになる」

女勇者「……あれ、と言うことは？」（←食べていた尾蛇鶏（バジリスク）の親子丼を見る）

男商人「うむ。例えば俺たちの「食事」も、仕事（クエスト）の有無に関わらず日常的に

　　　　必要とするものだ。よって、食事代は経費にならないね」

女勇者「うう、つまり天翼馬（ペガサス）にも同じことが言えると？」

男商人「そうなるな。まあ、日本（あっち）だと「残業時間中の食事」は経費になる

　　　　場合もあるらしいが……食事代に関しては「家事費（個人的支出）」

　　　　として処理するのが一般的だろうさ？」

女勇者「く、社畜（オレたち）は残業中の夜食を……強（し）いられているんだ！（集中線）」

男商人「おいやめろ、涙で前が見えない」

女勇者「けど困っちゃったなぁ……何とか天翼馬（ペガサス）の餌（エサ）代を経費にする方法は

　　　　ないですか？」

男商人「う～む。天翼馬（ペガサス）が「従業員」扱いであれば「現物給与（食事支給）」

　　　　として「給与手当」に計上したり、「福利厚生費（法定外福利）」

　　　　に含める方法もあるけど……」

女勇者「いやぁ～『使い魔契約』と言っても、女勇者（わたし）と天翼馬（ペガサス）との間に主従

　　　　関係はありませんからね。天翼馬（ペガサス）を「従業員」扱いするのは難しい

　　　　と思いますよ？」

男商人「そうだよな。女勇者（タカ）と天翼馬（ペガサス）は、あくまで対等の関係（イーブン）だもんな……

　　　　ん、待てよ？」

　◇　◇　◇

『へぇ、あの人見知りの激しいことで有名な幻獣（ペガサス）と、よく仲良しになれたな？』

『異世界（こちら）の住人（エルフ）達は、知性ある幻獣に対して敬意を持って接するからな。地域によっては信仰の対象になってるくらいだ』

『いやぁ～『使い魔契約』と言っても、女勇者（わたし）と天翼馬（ペガサス）との間に主従関係はありませんからねぇ……』

　◇　◇　◇

男商人「そうか……おい女勇者（タカ）、天翼馬（ペガサス）の餌（エサ）代を経費にできるかもしれない

　　　　ぞ？」

女勇者「え、本当ですか！？」

男商人「たぶんだけどな。よし、さっさと食べてギルドの相談係（キノミナ）さんに相談

　　　　してみるか」

女勇者「あ、ちょっと待って下さい……親子丼（バジリスク）の毒で両足が「石化」しちゃ

　　　　いました（テヘペロ♪）」

男商人「異世界（こっち）の食事は命懸けだな！？」

女勇者「おぉ～毒消し草のおひたしを食べたら治りました～◎」

男商人「冒険者（オレたち）は異世界の食事を……強（し）いられているんだ！（リアルタイム）」

＜次回につづく…！＞

◆おまけ◆

男商人（ユウジ）「ちなみに「燃料（ガソリン）代」の他に「自動車保険料」や「車検代」も経費に

　　　　できるぞ。ただし、自家用車が事業用車を兼ねる場合は、費用按分

　　　　する必要があるけどな」

女勇者（タカコ）「ふむふむ。ちなみに「燃料（ガソリン）代」の勘定科目は何になるんです？」

男商人「燃料（ガソリン）代などの「自動車に関連する費用」には、仕訳する勘定科目に

　　　　決まりがないんだ。よって、各経営者が「車両（関係）費」「燃料

　　　　費」「消耗品費」などから記帳方法を自由に選ぶことになる」

女勇者「そりゃまた自由（テキトー）ですねぇ……」

男商人「業種によって「燃料（ガソリン）代」を別管理する必要性は異なるからな。例え

　　　　ば客先訪問の時ぐらいしか「燃料（ガソリン）代」を使わない営業職なら、「交

　　　　通費」などに含めても問題ないだろうね。一方、トラック運送業や

　　　　バス観光業のように「燃料（ガソリン）代」が経費に占める割合の高い業種では

　　　　一括（ひとくく）りにしないで別管理した方が、経営分析しやすくなるだろ？

　　　　業種によって事情が異なるので、特定の勘定費目を定めていないのさ」

女勇者「おぉ、なるほどですね」

男商人「ただし、注意しないといけないのが――記帳方法を頻繁に変更する

　　　　と「財務諸表による年度別の業績比較」が難しくなるので、「一度

　　　　決めた勘定科目はめったに変えてはいけない」ということだ。これ

　　　　を「確定申告における継続性の原則」って言うんだ。最悪の場合、

　　　　税務署（だいまおう）から「利益操作（せんせんふこく）」だと疑われる恐れもあるので、しっかりと

　　　　覚えておこうな」

女勇者「むむ、またしても税務署（だいまおう）ですか……」

男商人「税務署（だいまおう）とは仲良くしておけよ。還付金とか貰えるぞ？」

女勇者「……商人（ユウジ）さんって「仲間になれば世界の半分をやるぞ」と言われて

　　　　＜はい＞を選んでビビったタイプじゃないですか？」

男商人「そ、そんなことないぞ……（目を逸らす）」

※何度も（しつこく）申しますが、この物語はフィクションです。

　登場する人物・団体・名称などは架空であり、実在のものとは関係ありません。

　税務署（だいまおう）は本当に素晴らしい御方です。