101 悪役令嬢のエリーレイドは生存ルートへ行くが……

「我が主、この攻略本によると光の大聖女の伝説ルートというのがあり、誰も死なない。ヒロインは誰ともくっつかないまま、諸国の瘴気問題に解決へ向けて、旅に出て伝説になるとあります」


「ええ、ええ、そういえば抜けてました。抜けてましたよ」


「我が主、この攻略本によると悪役令嬢であるエリーレイド様は、アライン王太子と結婚し、共にサンウォーカー王国を支えていくと書かれています。行く先々で大聖女の噂を聞き、嫉妬に狂うとも書かれていますがおおむね……命に別条はありません!」


「ええ、そう。そうね。命の別状はないわ……ないんだけれども……」


 光の大聖女の伝説、それは全てのルートをクリアした後に出てくる真のエンディングである。

 エリーレイドは、これは繰り返す事の出来ない現実世界だから、そんなルートは不可能だと書き綴っていたのだった。


「全く嫌になるわ」


 いかにそれが相手にときめいたとしても、瘴気対策に時間を費やし、かつ、相手との適切な距離感を保ちつつも、相手を成長させる。聖人君子みたいないい子ちゃん行動をしないと成しえないのだ。


「本人は死にたくないという一心だっただろうけど……嫌になるわ」

 

 何かと自分もそうなるように仕向けてしまっていたのかもしれないと結果から思うエリーレイドだった。


「我が主、この度は……おめでとうございます」


 使い魔のマーベラスが主であるエリーレイドが無事に殉愛から解放されたことに祝福の言葉を述べたのだった。


 卒業後には結婚式、エリーレイドを溺愛しているアライン王太子と結ばれるのだ。

 彼が自分に向ける好意には気づいていたが、エリーレイドの推しではなかった。

 推しへの恋とリアルの恋は違う。これは二股だろうか、いやブラコンか?


 彼女の中で少しばかり葛藤があった。


――まんざらでもないくせに


「うるさいわよ」


「我が主?」


 エリーレイドはユウヴィーの幻聴を聞いたのだった。


「ごめんなさい、なんでもないわ」


 幼少の頃から決められた婚約であり、王妃となるべく公務など、多岐にわたる教育の中でアライン王太子は支えてくれたのだった。


 彼女の性癖から甲斐甲斐しく面倒を見てもらうこと、気遣われること、甘やかしてくれることがトゥンクしてしまうのだった。


 途中でめげそうになったこの転生後の生活の中で、アライン王太子によって支えられていたのだった。

 

 力になれればと思って、発明や市民の暮らし向上などに尽力する中で彼も手伝ってくれたことを思い出しながら、口元をもにゅもにゅしていた。

 

 思い返して、エリーレイドは結婚したくないわけなかった。

 

 ただ、彼女は彼を死なせたくなかった。

 戦争もしたくなかった。

 

「結局、ヒロインに全部救われちゃうって話になったわね」


 はぁ、とため息をつきながらもエリーレイドはすっきりした表情をしていた。


「我が主、影の聖女としても自国および諸外国への貢献があってこそだと思います」


「そうよね、私がんばったわよね。ほんと、ほんと……」


 エリーレイドはこの学園生活を振り返り、ユウヴィーの行動によって自国、諸外国、様々な伝手を使って交渉、調整、段取り、といったことを思い出す。


 わなわなと震えはじめ、鼻息がだんだんと荒くなっていった。


「マーベちゃん!」


 エリーレイドは使い魔のマーベラスを掴み、顔を埋めて吸うのだった。


――すーはーすーはー


 過去にやったことは後悔していないものの、思い出すとその時のストレスがフラッシュバックしたのだった。


――すーはーすーはー


 画策して殉愛させようと思ったのに、うまくいかなかったこと。

 イベント通りにいくはずが、最後にひっくり返されたこと。

 ひっくり返された後で諸外国との後処理、契約締結に至るまでの交渉。

 サンウォーカー王国に有利に勧めるためにどれだけ働いたのか、前世の経験がなかったら逃げ出していただろう。


――すーはーすーはー!!


 明らかに嫌がらせ行為をしようにも常に光の魔法で何かまとっているのか影の魔法で躓かせたりできなくなったりしていた。


(絶対、なんか光の魔法が身体から漏れ出してるわ。くっそぉぉぉぉ)


 エリーレイドは悔しい思いをしていたことを思い出し、怒りが蘇っていた。

 

――すーはーすーはー!! ――すーはーすーはー!!


「我が……主……」


 使い魔のマーベラスはエリーレイドが疲れるまで吸われ続けるのだった。


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