30 悪役令嬢のエリーレイドの今回はさらに画策する。

「さて、今回の画策した事について振り返りましょう。使い魔候補の航空便は瘴気汚染された渡航者の件を回避するための保険だったけれど、断られたので仕方ないわ。すべてはあのスナギモが悪いわね。リンク皇子を図書館への誘導はうまく行ったわ、おかげでユウヴィーとの出会いは原作通りだったわね。その前にギャル風な婚約者をどうやって引き離すかがポイントだったけれど、仲間ができてよかったわ」

 

「我が主、その吸うという行為は普通の事なのですか?」

 

 マーベラスはギャル風な婚約者の餌食になっていた。

 

「瘴気問題が学園内に起きた時もマーベちゃんのおかげであの子も精神的な落ち着きを取り戻していたのでよかったわ、おかげでユウヴィーとリンクを二人っきりにする時間を増やせたもの。二人でなんやかんやで瘴気問題を解決させていたしね」

 

「我が主、今回の瘴気問題について事実関係と調査、その情報連携を自国とハマト国に行い、学園への説明責任を行っているので――」

 

「そうよ、なので何かあってもユウヴィーが嫁ぐ方向に持っていけれるわ、はー、自分の策が素晴らしすぎて勝ち確定だわ! おーっほっほっほっほ!」

 

 調子を取り戻してきたエリーレイドだったが、マーベラスは嫁がせるにしても本人たちの意思によってまた変わるのだろうなと思っていたのだった。

 

「寂しくなりますが、めでたしめでたしですわね。今度こそ勝ったわ、二人もなんだかんだ密だし、距離近いし、ギャップ萌えってるでしょ! チャラいフリーザンネック王国のオレ様は好みじゃなかったから、真面目キャラなら好きでしょ」

 

 エリーレイドは今度こそ勝利を確信していたのだった。そのためか口調もお嬢様口調ではなく粗野な感じになっていたのだった。それを聞いていたマーベラスは本当に大丈夫だろうかと心配していた。人の心はそう簡単なものではない、と思っていたからだ。

 

「何、マーベちゃん心配なの? そうしたら、くっつかない要因を洗い出しましょう」

 

 落ち着きを取り戻したエリーレイドは姿勢を正し、くっつかない要因を語りだした。

 

「強がっているところを、本当は君にしか言えないけれど自分は弱いんだシーンは図書館でありましたし、ヒロインに頼りながらも自身でも努力を惜しまず、支えるように現場に赴くリンク皇子。話を遮らずに聞き、聞く姿勢、ヒロインがキレても怒らず包容力ある対応そして、金と権力、継承権がないので責任が重くない皇子の妃。 こんな惚れない要素ある? あ、顔は最高にイケメンよ。しかも、前世で住んでいた日本人顔よ。どことなくハーフっぽいのはポイント高いかしら……どう、どこに惚れない要素あるの?」

 

 くっつかない要因の洗い出しではなく、くっつく要因に話になっていたエリーレイドだった。

 

「我が主、エリーレイド様にとっては?」

「はぁ? わたくしの好みではないわね。それが?」

「……」

「なによ?」

 

 エリーレイドはユウヴィーが惚れないわけがないと確信していたのだった。マーベラスはユウヴィーの心情がわからないため、どうなるか確信を持てないでいたのだった。

 

「まあ、いいわ。一応あのギャル風な婚約者にもこの後の手筈を伝えてあるし、婚約破棄になったとしてもやっていけるように色々と根回しもしたし、問題ないわ」

 

「我が主、この攻略本によれば、その方がどういう方か記載されていないのですが」

 

 原作のゲームではかませ役のライバルは各攻略対象者にいるがモブよりもちょっと上の存在であり、エリーレイドも思い出す限り書き綴っている攻略本にも詳細が記載されていないのだった。

 

「しょうがないじゃない覚えてないというか、印象が薄いんだから、でも話をしてみて悪い子じゃないし、ちょっと頭が悪そうな雰囲気だしているけれど同じ公爵令嬢として付き合いは今後とも必要だからね」

 

 エリーレイドは公爵家としての役目を忘れておらず、各諸外国との関係を良好に保ちつつ、自国の利益に繋がるように交流を深めていた。瘴気という共有の問題もあり、基本的には互いに助け合っているが、いつ均衡が崩れてもおかしくないため、保険をかけていたのだ。

 

「情報は命よ、何かあったらすぐにわかれば、その分早く対策が打てるわ」

 

 マーベラスは攻略本を見て、その意味を深く実感したのだった。そこに書かれているのは、最初は妄想と思っていたのだが、実際に出来事が起こりその通りになるにつれて毛が逆立っていたのだった。

 

「我が主、さすがです」

 

「おーっほっほっほっほ!」

 

 エリーレイドのキレのいい笑い声が部屋に響いていた。影の魔法による完全防音のため、ストレス発散になっているその笑い方は最初は演技だったものの、今ではすっかり自然と出るようになってしまっていたのだった。


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